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【特別企画】VM760SLC/VM750SH/VM740MLを聴く

一斉試聴!オーディオテクニカの新VMカートリッジ上位モデル「700シリーズ」

公開日 2016/12/09 10:00 山之内 正
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VM760SLC(無垢特殊ラインコンタクト針)

まずは最上位機種のVM760SLC。シリーズのなかでは高価格なのでハードルが高いと感じる人がいるかもしれない。しかし実際に音を聴いてみると、空気感を引き出す伸びやかな低音再現、高密度で芯のある中域、倍音領域まで素直に伸びた高音域など、音質面でのアドバンテージは明らかだ。一音一音の質感が高いことに加え、低音から高音までスムーズなつながりの良さがあり、バランスの良さは疑いようがない。レコードの再生音に何を求めるのかは千差万別だと思うが、ジャンルを問わず上質なタッチを追求したいなら、このカートリッジは真先に候補に上げるべき存在だと思う。

VM760SLC(無垢特殊ラインコンタクト針使用)

キャロル・キッドのヴォーカルを聴くと、声の潤いとアコースティックギターの柔らかい質感が溶け合う美しさに感心する半面、分散和音の粒立ちの良さやギターの鮮明な立ち上がりを兼ね備えていることに気付く。一方でギターの低音弦には重心の低い安定感があり、落ち着いた音調を引き出すことができた。相反する要素を見事に両立させるという点で、このカートリッジの許容力の高さは侮ることができない。

オーケストラのスケールの大きな空間再現も本機の聴きどころの一つである。ガッティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管の幻想交響曲を聴くと、緻密なディテール再現に加えて、低弦と打楽器が繰り出す超低音の伸びやかさと重量感、金管楽器の押し出しの強さに圧倒される。この録音にはコンセルトヘボウの柔らかい残響がたっぷり含まれているのだが、その残響に加えて超低音の帯域まで伸びた暗騒音の存在を実感することができた。暗騒音はたんなるノイズで片付けられるものではなく、臨場感を引き出すうえで重要な役割を演じる。超低域の歪みを抑え、空気の僅かな揺らぎを引き出す性能は見事というほかない。

VM760SLCをSL-1200Gと組み合わせたところ

辻井伸行が演奏したリストのラ・カンパネッラでは、ピアノの高音域の硬質な輝きと中低音の柔らかい質感が両立し、全体としてはレコードならではの温かみのある響きを引き出すことに成功している。中低音の余韻には木質の温度感があり、音色がドライにならない点に感心させられた。

次ページ続いて無垢シバタ針使用の「VM750SH」をチェック

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