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旗艦プリ/ステレオ・パワーアンプを聴く

音の向こうにある“音楽”が見える。エソテリック「Grandioso C1/S1」レビュー

公開日 2016/04/04 12:28 山之内 正
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複雑に絡み合う楽器とリズムの関係を、本ペアは事も無げに精密に描写する

次に、マーラー以上に楽器編成が複雑化し、複数の声部が錯綜するR.シュトラウスの曲を聴いてみよう。パーヴォ・ヤルヴィがNHK交響楽団を振った演奏会のライヴ録音から、《ドン・ファン》と《英雄の生涯》がソニーからリリースされた。オクタヴィアレコードの江崎氏がバランスエンジニアを務めたことでも話題を呼んだアルバムで、短期間でN響を統率して新鮮な響きを引き出したヤルヴィの力量がサウンドからも伝わる優秀録音だ。

Grandioso S1では連続動作17A、瞬間動作34Aという画期的な電流供給能力を誇り、一般的なパワートランジスターの2倍近いサイズの大型バイポーラLAPT素子を採用。またパワーアンプモジュールは、バイポーラLAPT素子を5パラレル・プッシュプルとした3段ダーリントン構成とした

Grandiosoはこの作品からもひとまわり大きな空間を引き出し、トゥッティの瞬発的な押し出しの強さとサントリーホールのエアボリュームの大きさをリアルに再現した。この瞬発力と塊感のある空気の動きは、編成の大きなオーケストラ録音を聴くときにいつも気になる点の一つで、多くの場合、実演で体験するマッシブで動きの速いサウンドにあと一歩のところで届かないのだ。ところが、C1とS1の組み合わせで聴くと、そのもどかしさがない。正確に言うと、いつもフォルテシモで一瞬感じていた不満を、ほとんど意識することなく、音楽が前に進んでいったというのが実感に近い。電流供給能力を高め、ドライブ力を向上させたことの成果をはっきり聴き取ることができる例の一つである。

Grandioso C1のボリュームノブと入力セレクターは、無垢アルミブロックから削り出し。各ノブの軸には、VRDSドライブメカのベアリング機構を応用した高精度ボールベアリング方式を応用し、芯ブレのない高精度な回転を可能した

そして、最大の関心事である複雑に絡み合う楽器とリズムの関係をGrandiosoのペアは事も無げに精密に描写し、ヤルヴィが細部にこだわって音楽を構築していく様子がありありと浮かび上がってきた。ホルンをはじめとする金管楽器や難度の高い独奏をこなす木管楽器はフレーズごとに豊かな表情を披露し、オーケストラの進化も如実に聴き取ることができる。ヤルヴィがN響でR.シュトラウスの録音に取り組んだ理由の一つが精緻なアンサンブルだというが、それに加えて個人レベルでの演奏技術の確かさも考慮に入れたに違いない。優れた再生装置でこの録音を聴くと、そこまで聴き手の意識が及ぶという良い例だ。

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