岩井喬がレポート

SHURE「KSE1500」レビュー:ダイナミックでもBAでも味わえない音を実現した“究極のイヤホン”

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岩井 喬

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2016年02月17日

ダイナミック型でもBA型でも味わうことのできなかった
アキュレートかつ色付けのないストレートなサウンド


初めて試聴した際は10kHzあたりが強く感じられ、高域の華やいだ雰囲気が増した印象だった。しかし良く聴き込むとこの点がエージングの有無や色付けということではなく、高域の過渡特性の高さからくるものであることがわかった。音響専門学校の学生時代、EQで可聴帯域を完全フラットに整えたサウンドを聴いたことがあったが、その時に味わったハイプレッシャーな高域感と同じような印象であったのだ。


この点はSHURE技術陣も考慮しており、サ行や“ッ”などの発音の強調感を抑える“DE-ESS(ディエッサー)”を設け、この点の解消にも繋げている。コンデンサー型がそれだけ正確かつフラットなサウンド再生が行える証明ともなり得たが、逆に今までのBA型では高域の誇張や飽和を含めた音色を普通のものとして捉えて聴いていたことに改めて気づかされたエピソードである。

音質としては非常にアキュレートかつ色付けのない、プロ機由来のストレートな傾向だ。コンデンサー型らしい繊細さはもちろんのこと、単一ユニットによる素直な音場再現性により、奥行きすら感じられる空間性の豊かさも同時に味わうことができた。

レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)におけるオーケストラの管弦楽器は鮮度高くしなやかで、旋律の抑揚も生々しくエナジー感に溢れた表現となる。アタックやリリースの揃った粒立ち具合も良く見通すことができ、空気の動く様まで事細かに捉えているようだ。リズムの縦軸においても正確で、キレの良い高解像度な表現力を持っている。

デイヴ・メニケッティ『メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ』(CDリッピング)ではエレキギターのリフを軽快に浮き立たせ、ボーカルも滑らかに分離良く描き切る。ドラムセットの音色も素直かつナチュラルな響きで付帯感のない、リアルな描写性を味わえた。ディストーションギターの粘り感もよりよく感じられ、ボディの厚みも適切に表現。基本的にはドライな音色傾向である。

オスカー・ピーターソン・トリオ『ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー』(CDリッピング)のピアノはアタックの基音だけでなく倍音表現についても追随性が高く、自然でゆとりある低域弦の響きもストレートに聴き取れた。ウッドベースは弦のハリ良く、細やかなニュアンスや擦れ感も豊かな胴鳴りに沈むことなく細やかに浮き上がる。低域方向の音伸びも深く、輪郭もきちんと感じられるので音像がにじむようなことはない。スネアブラシのあたりも抜け良く重みもあり、躍動感あるプレイに繋がっている。

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(e-onkyo:96kHz/24bit)ではひとつひとつの音の隙間がより見やすくなり、アタック&リリースもコントロール良くトレース。木管のふくよかさも自然に引き出し、ホールトーンの深い低域の響きとは別のものであることを正確に表現してくれる。個々のパートの分離も高いが、どこかひとつが目立つということもなく、立体的かつ純度高い音像として認識することができた。

Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源ではボーカルの涼やかさナチュラルさが際立ち、ピアノやギターのプレイニュアンスを克明に描き出す。余裕ある響きで、きめ細やかな余韻と解像度高く素早く立ち上がるアタックのバランスが絶妙だ。

Koike Strings with新垣隆『シューベルト:ピアノ五重奏曲[鱒]』(11.2MHz)におけるストリングスの響きも丁寧で低域方向のダンピングも鮮やかに決め、密度良くハーモニーをまとめてくれる。ワンポイント収録のピアノの奥行き感、粒立ちの自然さが良い。S/N高く曖昧さのない高純度な空間が広がり、ダイナミックレンジの広さ、演奏のパッションを余すことなく表現してくれた。

みくりやクワイヤ『La Preghiera』(5.6MHz)での教会の残響は、スピーカー再生を思わせるようなシームレスな空間が展開。上下縦方向の余韻も非常にリアルだ。オルガンの奥から響く旋律も優しく全体を包み込んでくれる。合唱の融合性は個々の芯を出しつつもハーモニーを美しくまとめており、エナジーの強い部分でも混濁感や飽和感もなく、瑞々しい音色を聴かせてくれた。

音に作為的なところがなく、非常にリアリティの高いサウンドである。ダイアフラムから音が自然に離れ、フッと音像が動き出す僅かな感覚まで感じ取れる、正確無比で誇張のない表現性を持つ。この感覚はカスタムIEMでも味わうことができないものだ。まるでダイナミック型の理想的なローエンド特性とBA型の高解像度な高域のトランジェントの良さを融合させたような、まさにハイブリッド機が追い求めている理想の姿がここにはある。

しかしKSE1500の持ち味は、ダイナミック型でもBA型でも味わうことのできなかった、高い次元で完成されたニュートラル&ナチュラルサウンドであり、カナル型における従来の概念を覆す40万円というプライスも納得の、究極のイヤホンといえるだろう。

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