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フロア型「F5」とブックシェルフ型「B5」

名匠は普及機にも手を抜かない − ELACの新エントリースピーカー「Debut LINE」を山之内 正が聴く

公開日 2015/12/11 01:09 山之内 正
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B5は録音やマスタリングの意図を正確に伝える資質が光る

まず、ブックシェルフ型のB5の音を聴く。B6に比べるとキャビネットがひと回り小さいだけだが、実機を見ると数字以上にコンパクトに感じられる。これならスペースに限りのある部屋でも導入しやすいはずだし、デスクトップオーディオも視野に入る。

まずは「B5」を試聴した

小さな筐体とは裏腹に、B5のサウンドは量感豊かな低音に支えられた伸びやかなもので、コンパクトスピーカーとしてはスケールの大きな音を聴かせる。小口径ウーファーなのでベースの音像は若干小ぶりになるものの、基音のエネルギーの厚さで太めの音色を引き出し、小型スピーカーらしからぬボリューム感も感じられた。ムジカ・ヌーダのデュオでは量感豊かなベースがヴォーカルをマスクしてしまうかと思われたが、声の音域は意外にもすっきりと抜けが良く、輪郭のはっきりしたイメージが浮かぶ。特に感心したのはヴォーカルの音像がスピーカーの奥に後退せず、手前に一歩踏み出すようにヴァーチャルなイメージが定位することで、その際に口元が緩んだり広がってしまうこともない。ヴォーカルの自然なイメージはまさに小型スピーカーならではのもので、B5が得意とする領域と言って良さそうだ。

試聴風景。プレーヤーにはマランツ「SA-14S1」、プリメインアンプにはアキュフェーズ「E-600」を使用

SACD化されたコルトレーンの『ブルー・トレイン』をB5で聴くと、サックスの引き締まった音像と芯のある音色が耳をほどよく刺激する。アタックや輪郭に余分な強調感がないためか、聴き手を力で引き込むようなエネルギー感はないのだが、「作り物のリアリティ」を押し付けられるよりは、よほど安心して演奏に浸ることができる。「安心」と書いた背景には、マスターを忠実にデジタル化したリマスタリングの意図を逸脱しないという意味もある。録音やマスタリングの意図を正確に伝える資質は、ハイエンド機器だけでなく、本機のようなエントリークラスの製品にこそ求められると言ってもいい。普及機だからと言って手を抜かないのは、多様な製品群を開発してきたアンドリュー・ジョーンズらしいアプローチと言えそうだ。

B5の背面端子。F6も同様の形状で、いずれもシングルワイヤ構成となる

R.シュトラウスのような大編成の管弦楽曲を本機のような小さなスピーカーで聴くのは気が引けたが、鳴らしてみると予想したほどこじんまりとすることなく、バランスの良いオーケストラのサウンドを楽しむことができた。すでに紹介したように、B5の低音は基音の音域に期待以上の厚みがあるため、オーケストラの低音楽器が薄味にならず、意外にも重心の低いバランスで鳴ってくれるのだ。少しだけ普段よりも大きめ程度の音量で聴いている限り、音数の多いフレーズやフォルテシモが飽和せず、ダイナミックな鳴りっぷりの良さをキープしているが、これはサイズと価格を考えれば大健闘と言っていい。

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