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フロア型「F5」とブックシェルフ型「B5」

名匠は普及機にも手を抜かない − ELACの新エントリースピーカー「Debut LINE」を山之内 正が聴く

2015/12/11 山之内 正
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数々の名スピーカーを手がけてきたアンドリュー・ジョーンズが、ELAC(エラック)移籍後に初めて手がけたのは、エントリークラス「Debut Line」だった。山之内 正がそこに込められた意図を読み取りつつ、主要モデルのステレオ再生能力をレビューする。

アンドリュー・ジョーンズの手がけたELACの新エントリースピーカー「Debut LINE」。レポート第二弾はそのピュアオーディオ性能を検証する

A.ジョーンズのELACデビューを飾る新エントリーライン

エラックは2016年に創立90周年を迎える。カートリッジなどアナログ機器で栄光の歴史を刻んできた同社も、いまはドイツを代表するスピーカー専業ブランドとしてすっかり定着し、日本での人気も確実に広がっている。そのエラックが、90周年を機に、同社の次世代を担うキーパーソンとして、著名なスピーカー設計者のアンドリュー・ジョーンズを迎え入れた。

ジョーンズは日本のファンにはTADのエンジニアとして知られているが、TADの前はKEFで同軸ユニットの設計に携わるなど、これまで多くの重要な製品の開発に関わってきた。そのジョーンズがエラックではどんな個性を発揮するのか注目を集めていたが、その期待に応える第一弾として登場したのが、今回の主役Debutシリーズである。

Debutラインの主要モデル。今回はフロア型「F5」とコンパクトなブックシェルフ型「B5」をピックアップして、そのピュアオーディオ性能を探った

エラックの新しいエントリークラスとなる「Debut」シリーズは、フロア型の「F5」、ブックシェルフ型の「B5」と「B6」を中心にセンタースピーカーやドルビーアトモスのイネーブルドスピーカーを加えたフルラインナップを揃え、日本にも主要モデルから順次導入が始まった。ジョーンズは同シリーズのためのドライバーユニットを手がけ、製品の開発を主導したので、彼自身もまたDebutシリーズでエラックのエンジニアとしての「デビュー」を果たしたことになる。

トゥイーターはウェーブガイドで指向性を確保
ウーファーにはアラミド振動板を採用


エラックといえばJETトゥイーターがおなじみだが、今回のDebutシリーズはJETを搭載しておらず、ポリエステル繊維を振動板に採用したドーム型トゥイーターを積む。ハンドメイドのJETをDebutのようなエントリークラスの製品に積むのは難しいが、その代わりに本シリーズには高域再生の精度を上げるための注目すべき工夫を盛り込んでいる。

「F5」¥125,000(ペア・税抜)

「B5」¥55,000(ペア・税抜)

トゥイーター前面には楕円形状のウェーブガイドを配置し、指向性を広げると同時に、トゥイーター近傍での回折の発生を抑えていることが目を引く。前面に固定されたグリル越しだと少しわかりにくいが、独自形状のウェーブガイドの後方、やや奥まった位置にトゥイーターのドーム型振動板が見えるはずだ。また、トゥイーターとウーファーまたはミッドレンジの各ユニットをギリギリまで近付けて配置していることにも注目しておこう。構造にこだわったそれらの設計手法からは、指向性の確保を重視するジョーンズの狙いを読み取ることができる。

トゥイーター前面のネットの凹みがウェーブガイドを形成。写真だと分かりづらいが、やや奥まったところにトゥイーターユニットが配置されている

ウーファーの振動板には、エラックとして初めてアラミド繊維を採用した。強度と内部損失が両立したアラミドは振動板として優れた素材で、レスポンスの良い低音再生が期待できる。ちなみにDebutシリーズの型名の数字はユニットのサイズを表しており、F5とB5は5インチのウーファー、B6は6インチのウーファーとミッドレンジをそれぞれ搭載している。

すっきりとシンプルな外見のキャビネットはMDF製で、補強桟の配置をを工夫して共振を抑えた構造を採用。さらに、フロア型のF5はキャビネット内部を2分割して低音と高音各ユニット間の干渉を低減するなど、エントリークラスの製品としては手の込んだ音質対策を導入していることが目を引く。

次ページB5は録音やマスタリングの意図を正確に伝える資質が光る

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