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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第129回】50万円DAP「AK380」を「どうせ買えないがゆえの冷静さ」で厳しくレビュー

公開日 2015/07/21 12:50 高橋 敦
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■残念ながらすばらしい、超弩級の音!

「残念ながら」というのは冒頭に述べたようにこのモデルに対しての僕の立場が「高いか妥当か買うか買わないかの問題ではなくとにかく買えません!お金がありません!」だから。全く手が届かないモデルの音のすばらしさに感心するしかないこの無念!

音の方向性としてはAKシリーズの中でも「AK120II」に近い、カッチリとクリアでダイレクト感の強いモニターサウンド系と思える。しかし重ね重ね残念なことに、様々な点でAK120IIを明確に上回ってきてしまっており、当然だが歴代AKの最高峰に到達している。

低域はさらに引き締められているのだが、しかしそれでいて低音の圧というかソリッドな迫力は強まっている。ベースやバスドラムの音像の太さ=横の広がりは引き締められているのだが沈み込み=縦の深さは増しており、音の立ち上がりも速くなっているので、迫力=縦×横×速さ!みたいなゆで理論でAK120IIのそれを上回る。そんな印象だ。相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」(こちらは32bit音源)の冒頭でドラムスとベースだけの場面があるのだが、そこではこの要素が特にはっきりと感じられる。

TECHNOBOYS P.G.「SHaVaDaVa in AMAZING♪(OUT OF LOGIC)」のベースもそこがわかりやすい。沈めた音域のフレーズにアクセントとしてプル(主に高音側の弦を指で引っ掛けるように弾いてアタックを強調する奏法)が混じるのだが、その低音側の安定感と高音側でのプルの弾けっぷりのコントラストが実に鮮やか。ベースという楽器の全体に低い音域の中での低音と高音、沈み込みと速さ、それらをどちらもすごいレベルで再現する。この曲では他に、アナログドラムマシン独特の重みやキレにもAK380の凄みが強く発揮される。

もちろんその速さは中高音楽器でもだ。FAKiEの「Glow」「(They Long to Be) Close to You」でのナイロン弦ギターの強烈なピッキングやスラップにも近いパーカッシブな奏法のアタックにも余裕で追従。それを含めて音量の大小だけではない音楽的なダイナミクスも幅広く再現し、女性ボーカルとギターのみという最小編成での一発同時録音の生々しさを伝えてきてくれる。

音像と背景のクリアさにも圧倒的なものがある。引き締められた音像と背景の静かさによって、音の本体から広がる響きをすばらしく豊かに明瞭に感じさせてくれる。バスドラムなどで特にわかりやすいが、「音の本体は引き締めつつ響きは豊か」ということで音色としての豊かさもオーディオ的な明瞭さも共に実現。

そうなればもちろん空間性も秀逸で、正直これはスピーカーで聴きたいなという空間表現のTM NETWORK「Beyond The Time」やHoff Ensemble 「Dronning Fjellrose」(こちらはDSD 5.6MHz音源)をイヤモニで聴いても「これは…ありだな!」と思わされてしまうほどだ。

音像だけでなく音色としてのクリアさ、透明感もすばらしく綺麗で印象的。「Beyond The Time」や「SHaVaDaVa in AMAZING♪(OUT OF LOGIC)」のエレクトリックギターのクリーントーンのほどよく硬質な艶やかさは「これが聴きたかった!」という音色だ。AK120IIのそれをガラスのような美しさとすれば、AK380のそれは水晶のような美しさとでも表現できるだろうか。同系統でありつつさらに好ましい感触といったような意味合いだ。

そして女性ボーカル。相対性理論のやくしまるえつこさん、そして「こきゅうとす」での花澤香菜さんの声からは、透明感の向上、楽器の響きと同じように声のさわさわとした気配感もより強く伝わってくることなどで、儚げに揺らぎつつも明瞭という声そして歌の魅力がこれでもかと引き出されている。

また他の全ての音と背景のクリアさ、そして空間的な余裕のおかげか、演奏からボーカルが浮き上がるような、その立ち姿の立体感や存在感もより望ましく美しいものとなる。これもまた実に残念ながら実にすばらしいボーカル表現だ。

といったところなのだが、シリーズの中での音質傾向をこれまでに聴き慣れているAK120IIを中心にしてそれとの比較で表現すると、

●AK380|さらに遊びをなくしたモニターサウンド
 ↑超々ハイエンドへの進化
●AK120II|カッチリとしたモニターサウンド
 ↓エントリークラスへの落とし込み
●AK Jr|少し遊びを持たせたリスニング寄りモニターサウンド

…といった印象だろうか。それぞれの価格帯でこそ実現できる音であると同時に、それぞれの価格帯のユーザーを想定しての音でもあるのかもしれない。

■まとめ

ということで、据え置きを含めたシステムのコアとしての今後の可能性云々はさておき現時点でポータブルプレーヤーとしてだけ考えても、強い魅力を備えるモデルだ。

とはいえ「お値段の話を置いておけば誰にとっても最高のポータブルプレーヤーなのか?」といえばそうではない。例えば「ポータブルなんだからコンパクトさは絶対!」という人には全く合わないだろう。あくまでもサウンドクオリティやスペックや機能面での幅広い対応力を優先事項にする人に向けてのモデルだ。

そういうことも含めて「プロ仕様」ということなのだろうが、プロならぬオーディオファンにとってはそこが「極めて高い趣味性」という魅力にもなる。極度に趣味的な話となれば、あとは自分の価値観そしてお財布と相談するしかないのだ。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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