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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第96回】“あの銘機”を彷彿とさせる新イヤホン「TTPOD T1」にあえて全力で突っ込む!

公開日 2014/08/22 11:03 高橋敦
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■いよいよ試聴!出オチネタでは終わらない実力

最初にまとめると、特筆すべき持ち味は音のシャープさ、それによって引き出される音色や演奏の切れのよさだ。シャープさといってもBA型のような繊細なそれではなく、小口径ダイナミック型ならではの荒い迫力を伴うそれ。デュアル構成となると中低域の充実も期待されると思うがそこは、不足はさせないが特に強いわけでもないという感じで、普通に整った帯域バランス。印象としてはやはり高域の切れが勝る。

なおイヤーピースだが、試してみたところ「スパイラルライン入りの黒」の方が、気のせいかもレベルでだが本機の持ち味である切れのよさが高まる気がしたので、そちらメインで試聴。

もちろん様々な音源を聴いたが、「これがいちばんハマった!」と感じたのはじんさんの「daze」だ。この曲はじんさん自身によるまさにシャープなギターが個人的には聴きどころなのだが、そことの相性がばっちり。

メロディや曲全体を見れば別物だが、フェンダーのシングルコイルによるキレキレでジャキジャキのカッティングと印象的な音使いでの鮮烈なフレーズが絡み合うというギター要素には、ナンバーガールのようなかっこよさもある(偶然にもだが、じんさんはテレキャスターとジャズマスターも愛用とのこと)。その突き刺さり切り裂くような音色と演奏のニュアンスの再現性が、このイヤホンは実にいい感じだ。高域が超高域まできれいに伸びきっているというよりは、歪みのエッジ感など「ギターの高域(楽器の高域)としてのおいしい成分」がよい具合に出ていると感じる。

対してベースやドラムスなど低音は、ガチガチガツンと硬質な感触ではなく、おおよそ中庸からややソフトな感触。もう少しハードタッチだとこの曲のようなロックにはさらに合う気はするが、ソフトすぎるわけではないので大きな好き嫌いは出にくいと思う。

女性ボーカルは「daze」のメイリアさんの他、坂本真綾さん、やくしまるえつこさん、Aimerさん、宇多田ヒカルさんでチェック。いずれもクリアで、気持ち強めのシャープさも気持ちよい。Aimerさん「StarRingChild」での分厚い演奏に負けない声質や歌い方、メイリアさん「daze」でのキレキレの演奏に負けないキレキレの歌い方といったところもしっかり再現。演奏の持ち味を十分に引き出しつつ、歌もそれに拮抗させて全体のレベルが高い。

■低音を強化した「T1E」も新たに登場

なお後日、このイヤホンの低音を強化したという「T1E」も追加で発表されている。この「T1E」についても、簡単な追記程度ではあるが概要とその印象を述べておこう。「T1」と同じくワイズテックの取り扱いで、同社直販サイトの他にいくつかの販売店の店頭やその通販での販売、カラーバリエーションの豊富さ、お手頃な価格帯といったところには変わりはない。

これがT1E

変更点としては「従来モデルよりもコイルを20%増強し低音の再現性を強化」とのことだ。簡単に言えば、ドライバーの駆動力を担う大きな要素のひとつである電磁石の磁力を強めてあるということになる。コイルの巻き数を増やすとその分だけ抵抗値や重量も増すのでコイル増強=全面的な音質アップとはならない。しかし特定の狙い、このモデルの場合は低音の強化、がある場合は、それに合わせてコイルの巻き数を調整するというのは有効な手法だろう。

実際に聴くと、中低域の厚みや力強さは確かに明らかに向上していて、ぐいっとどんっと押し出しが効いている。ベースなど個々の楽器の音色もそうだし、ひいては全体の印象としてもそうで、迫力は大幅アップだ。

一方それとの相対的な関係で、スパンッスタンッという抜けっぷりや切れ、音場の見通しのよさ、余白の豊かさはベースモデルには及ばない。しかしその印象はそれらの点が特に良好であるベースモデルと比べればという話。ベースモデルには及ばないにしても、こちらのモデルもそれらの点に問題があるわけではない。

先ほど話に出した「フェンダーのシングルコイル」で言うなら、完全ビンテージ仕様なタイプとテキサススペシャルみたいなタイプの音色の違いを想像してもらえればわかりやすいだろう。後者の方がヘヴィでアグレッシブだが、フェンダーのシングルコイルらしい抜けや切れはどちらにしても備えている。

というわけで今回は、「突っ込んだら負け」感に屈することなくTTPOD T1にあえて全力で突っ込んでみた。まじめな話、「ハイエンドBAマルチの整った音よりもほどほどの価格帯でしかし十分に上質なダイナミック型ならではの荒さも伴う音の方が好み!」みたいな方には普通にフィットするのではないかと思う。まあとにかく「見た目は出オチネタっぽいがそれだけでは終わらない実力を備えている!」ということが伝われば、僕としては満足だ。


高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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