4名の評論家が週替わりでオーディオを語る

角田郁雄のオーディオSUPREME【第1回】CHORD「Hugo」を聴く

角田郁雄
2014年07月17日
ファイル・ウェブでは今月より、4名のオーディオ評論家による連載記事を毎週、週替わりで掲載している。角田郁雄氏がハイエンドからスモールオーディオまでを実際に使ってその魅力をレポートしていく「角田郁雄のオーディオSUPREME(シュープリーム)」。その第1回は、CHORDのポータブルDAC/ヘッドホンアンプ「Hugo」を取り上げる。

角田氏の試聴室に導入されたCHORD「Hugo」

■個性ある音と技術が詰め込まれたスモールDACの魅了

私は「スモールDAC」が大好きだ。そもそも、様々なオーディオブランドの音づくりや技術を探ることが好きなのだが、音とデザインが魅力的で、内部にこだわりの技術が搭載されていると、“回路の研究のため"と自分に理由をつけて買ってしまう。

親しい方とDACやネットワークプレーヤーの話になると、「ご自宅では、どこの製品が一番良いですか?」と問われることがある。私にしてみれば、ブランドそれぞれに、その個性である音と技術の魅力があるので、「うちには、チャンピオンはありませんよ」と答えてしまう。

例えば、現在我が家にはリーズナブルな価格のスモールUSB-DACが5台ある。時々、そのうちの一つの音が聴きたくなり、1週間ぐらい、その音楽に夢中になる。そして、しばらくすると、今度は他のモデルが聴きたくなってくる。半導体技術が格段に進んでいる現代において、自分で買ったモデルに、そう簡単には優劣がつけられないのである。

■WTAフィルターとパルスアレイDACを内蔵したポータブルDAC「Hugo」

つい最近も、ずっと気になっていたスモールDACを買った。CHORDの「Hugo」である(実は注文してから2ヶ月以上も待たされたのだが)。

角田氏の試聴室では、Hugoからアナログ出力した信号は、NAGRAの真空管プリアンプ「PL-P」へ入力される

去年の12月だっただろうか、CHORDのジョン・フランクス社長と会った時、「WTAフィルターとパルスアレーDACを組みあわせたヘッドホンアンプ内蔵のスモールUSB-DACを出すよ」という話を聴いた。おそらくは世界的に広がっているヘッドホンファイルに向けた製品なのであろうと、そのとき思った。

私は長くCHORDの「DAC64Mk2」やその後継「QBD76HDSD」を使っているので、その新しいモデルの誕生を嬉しく思ったが、さすがに自分で使おうとは考えなかった。その後、今年2月の「ポタ研」前日に、ジョン・フランクス社長と共にCHORDのDAC開発を手がけるデジタル技術の鬼才ロバーツ・ワッツ氏に会った。その際に「Hugo」の完成モデルの音を聴き、技術内容を伺うことができた。

Hugoに用いられたのは、QBD76HDSDに搭載した技術の応用であった。説明を加えると、独自のプログラムを投入できるFPGAをデジタル処理部とする「WTAフィルター」と、精密抵抗を左右ch用に各16エレメント並べてD/A変換を行う「パルスアレーDAC」をコンパクトにまとめたものである(HugoのパルスアレーDACの精密抵抗は、左右用各4エレメントで48bit DACを構成している)。

Hugoのブロックダイアグラム図

FPGAには消費電力が少なく、処理能力が格段に高い最新素子を搭載した。ゆえにノイズレスのバッテリー駆動が可能になり、300Ωのヘッドホンもドライブできる強力なヘッドホンアンプを搭載することができた。再生可能なフォーマットを確認すると、USB入力では384kHz/32bit PCMと、5.6/2.8MHz DSDにも対応したという。これだけでも驚きであった。

■FPGAにより2,048倍のオーバーサンプリングを実現

しかも、FPGA内部にボリュームコントロール回路があり、ケース上の丸みのあるローラーを回すと、その変化量がFPGAに伝送され、ビット損失のないデジタル音量調整が可能になっている。そして高精度クロック回路も搭載している。

再生サンプリングレートによって、ケース上の円形の白い樹脂部の色が変わる。中央の円形のレンズを覗くと、使用するファンクションによって、LEDの色が変わるようになっている。こうした遊び心も好きだ。アルミブロックを切削したケースは仕上がりが良く、美しい。長く愛用したい気持ちになる。私はすっかり気に入った。

Hugoは入力信号のサンプルレートによって、本体の小窓に点灯するライトの色が変化する

ところでCHORDは、通常のDACチップに内蔵されたデジタルフィルターのオーバーサンプリング(8倍〜128倍@44.1kHz)よりもはるかに高い、2048倍のオーバーサンプリングを実現している。その大きな理由には、「人はなぜ、CDよりもハイビット・ハイサンプリング(今で言うハイレゾ)の音が良いと思うか?」という疑問が原点にあり、音響心理学の要素を取り入れた結果なのである。

ハイレゾ対応Walkmanのフラグシップモデル「NW-ZX1」とHugoをデジタル接続してハイレゾ再生しているところ

そしてCHORDは、CDを最高の音で聴かせたいと、WTAフィルターとパルスアレーDACをDAC64MkIIに初めて搭載した。その高密度で、ハイレゾライクなCDの音は、当時、世界中のオーディオファイルを唸らせ、今でも大切に使っている方も多い。私も、QBD76HDSDを現在も使用しており、その音を聴く度に「確かに!」と思うのである。

■透明度の高い空間に生々しく音像が定位する

QBD76HDSDの下位モデルと言える、このHugo。その音をUSB-DACとして聴いて、私はますます魅了された。WTAフィルターとパルスアレーDACの音は、透明度の高い空間に、あたかも眼前で演奏しているかのような高密度な音像を展開し、高密度であるがゆえにDSDに近い音質を示すことが特徴。Hugoはバッテリー駆動により、さらに空間の透明度が高まり、生々しい音像が定位し、ハイレゾ音源の豊かな倍音をさらに引き立てていることが理解できた。

今回は、キソアコースティックのスピーカーシステム「HB-1」(写真右)で試聴を行った。角田氏はこのスピーカー専用のアンプシステムとして、前述のバッテリー駆動管球式プリアンプ「Nagra PL-P」と60周年記念管球式パワーアアンプ「Nagra 300p」を使用している。左写真は今回の試聴システムの全景。

例えば、最近配信されたBlue Noteレーベルのジャズ。トランペット、サックス、シンバルなどに耳を傾けると、解像度が高いので、倍音が鮮やかなだけではなく、繊細な音や響きをさらに引き出していることが分かる。弱音から強音までのダイナミックレンジも広く、音楽の旨味となる、音の消え入るような弱音が、深く沈み込むところに大きな魅力を感じた。

■ヘッドホンアンプのドライブ力も素晴らしい

ボーカル曲では、声使いに絶妙な表現が聴き取れて、この音が好きになるのではないかと思う。弦楽曲では、音数が多く決して細身にならない、膨らみのある響きに、クラシックファンも注目することであろう。

ヘッドホン出力のサウンドは、角田氏が愛用するソニーの「Qualia 010」で確かめた

ヘッドホンアンプについては、このサイズとは思えないほどのドライブ力があり、ジャンルを問わず、ハイレゾ音源の豊富な倍音と周波数レンジの広さを満喫させてくれる。Hugoのヘッドホンアンプはドライブ力があり、私の愛用するソニーの「Qualia 010」から、極上の音楽を聴かせてくれる。しかし、それだけでは、もったいないのである。素晴らしいハイエンドDACなのである。この音をぜひ、一度、ショップなどで聴いてみて欲しい。




【筆者プロフィール】
角田郁雄
北海道札幌市生まれ。父の影響を受け、オーディオに興味を持つ。セールスエンジニア的な仕事を経験したので、物の原理や技術を追求してしまうタイプ。オーディオブランドの音、背景にある技術、デザインの魅力を若い世代にも伝えたいと執筆活動を始める。



〜編集部より〜
今回、初めてご自宅の試聴室にお邪魔させていただいた。そのシステムを最初に聴いたとき、FOCALの大型スピーカーが鳴っているのだと思った。すると、鳴っているのはコンパクトなキソアコースティックのスピーカーの方だと教えられ、びっくりしてしまった。音場の広さや、しなやかな質感はちょっと聴いたことのない次元のものだった。しかもクラシックやジャズはもちろん、ロックとの相性も良く、ハイレゾのレッド・ツェッペリンの迫力には参ってしまった。(編集部O)

関連リンク

関連記事