HOME > インタビュー > 鬼才ロバート・ワッツ氏が語る、CHORD「Hugo」がレファレンスである理由

世界でも類を見ないデジタル・テクノロジーの核に迫る

鬼才ロバート・ワッツ氏が語る、CHORD「Hugo」がレファレンスである理由

2014/03/07 山本 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

英CHORD Electronics社にとって、初めてのポータブルヘッドホンアンプとなる「Hugo」が発表された。同社初のDAコンバーターである「DAC64」が発売されてからおよそ15年経過するが、汎用のチップを使わずに独自のアルゴリズムをプログラミングすることで、高品位なDA変換を実現するというアプローチを採り続けているのが、同社の最大の特徴だ。

2月8日に東京・中野サンプラザで開催されたポタ研にて発表会が行われたCHORDの最新DAコンバーター搭載ヘッドフォンアンプ「Hugo」(¥OPEN・予想実売価格¥240,000前後)。コンパクトなボディには、同社のノウハウが凝縮されているとして、早くも大きな注目を集めている

その先進性は未だ色褪せることなく、それどころか新製品「Hugo」ではまた一層の進化を遂げた。今回「Hugo」の国内発表会の開催に合わせて、CHORDのデジタル関連のアルゴリズム開発に携わるロバート・ワッツ氏が初めて来日し、「Hugo」への思いを語った。

■フランクス氏とワッツ氏が出会い、CHORDのDAコンバーターが誕生した


2月8日に東京・中野サンプラザで行われたポタ研での発表会に合わせて来日したCHORD ElectronicsのCEOジョン・フランクス氏(右)と、ソフトウェア・アルゴリズムにおいて世界トップレベルの実力を持つロバート・ワッツ氏(左)。ワッツ氏の来日は今回が初めてとなり、貴重なインタビューとなった
CHORDは1989年に創始者である現在のCEOジョン・フランクス氏が立ち上げたオーディオブランドだ。航空機用エンジンの電源開発に関わるメカニカルエンジニアとしてのキャリアを持つフランクス氏は、従来は高周波ノイズの発生源と考えられていたスイッチング電源を、独自のアプローチによりオーディオに最適化した「周波数ホッピング・テクニック」を開発。小型ながら大出力が得られる高効率な電源供給システムを搭載したHiFiオーディオコンポーネントを作り続けてきた。

そのフランクス氏の元に、オーディオのデジタル周りのアルゴリズム開発を手がけるエンジニア、ロバート・ワッツ氏が合流したのはいまから20年ほど前のことだったという。学生時代に自身のオーディオブランドを立ち上げ、その後オーディオメーカーでDACやCDプレーヤー、アンプの製品開発にも携わってきたというワッツ氏は、デジタルとアナログ双方でオーディオに関連する深い見識を持つ人物だ。

フランクス氏は二人が初めて出会い、CHORD初のDAコンバーター「DAC64」の開発が起ち上がった経緯を振り返る。


同社初となったDAコンバーター「DAC 64」。汎用のチップを使わずにワッツ氏の手によって組み上げられた高度なFPGAを搭載し、驚異的なDA変換性能を実現。瞬く間に全世界のオーディオファンから高い評価を集めた
「一般的にDAコンバーターを開発する際には2通りのアプローチがあります。ひとつは市販のDACチップを使う方法。もうひとつはFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)と呼ばれる、カスタムメイドのアルゴリズムを組み込んだプロセッサーを使う方法です。初めてロブ(ワッツ氏)に会って話をした時、彼が非常にハイレベルなアルゴリズムを組むことのできる優秀な開発者であることを知りました。彼の理想とする製品を完成させるためには開発コストがかかることは分かっていましたが、ロブの手によるFPGAを組み込んだ試作機を何度もリスニングする度に、彼の技術がCHORDにとって不可欠であることが分かりました。そこで私は、ロブのプログラム開発に2年間ほど投資をしてきました。こうしてDAC64が誕生したのです」(フランクス氏)

DAC64登場時の経緯を語るフランクス氏。ワッツ氏の技術がCHORDにとって不可欠なもの考え、開発コストを度外視して採用を決めたと語る

■前人未踏の高音質を追求するために「FPGA」は不可欠だった

ワッツ氏はCHORDと出会う以前から、カスタムメイドのFPGAを駆使したオーディオDACの開発にはすでに着手していたが、DAC64が生まれようとしていた1998年頃にFPGAの技術自体が進化して、アルゴリズム開発の自由度が高まってきたのだという。

「現在、CHORDの製品にはXilinx(ザイリンクス)のFPGAを使っていますが、当初はゲートアレイの巨大さと複雑さ、不安定さを乗りこなすのに一苦労でした。ザイリンクスのFPGAではS-RAMフラッシュにプログラムを書き変えながら使えるようになったことから、開発の利便性が飛躍的に向上し、スピードアップが図れました」(ワッツ氏)


自身の手によって組み上げたCHORDのFPGAテクノロジーについて語るワッツ氏。FPGAによる演算能力の高さこそが、デジタルオーディオのサウンドの高音質化に繋がると話す
ワッツ氏がこのザイリンクスのFPGAを選ぶ理由は、64bitの演算を9.6ナノ秒で処理できるという演算能力の高さゆえという。ザイリンクスの前にワッツ氏が使っていた別ブランドのFPGAは同条件の処理速度が100ナノ秒だったというから、その差は歴然だ。

FPGAが進化すればキャパシティが広がり、より複雑で高度なプログラミングを描けるようになる。「絵画に例えるならば、より大きなキャンパスで画が描けるような感覚に近いと思います。オーディオの処理も高音質化へとつながるような、ディテールに及ぶプログラムを組み込むことができます」(フランクス氏)

ただ当然ながら、FPGAのキャパシティが拡大するということは、ワッツ氏にとって「できること」と「やらなければならないこと」が増え、プログラミングの内容も複雑化するはずなのだが、実際には開発環境も平行して進化を遂げているため、ワッツ氏にとっては大きな負担要素ではないという。「現在の開発環境ではソフトウェアによるシュミレーションツールも発達しているので、先に検証を行いながら問題をつぶして、プログラミングの完成度を効率よく高めていくことができます」(ワッツ氏)

次ページ徹底したリスニング評価により練り上げられるCHORDのアルゴリズム

1 2 3 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
新着記事を見る
  • ジャンルその他
  • ブランドCHORD
  • 型番HUGO
  • 発売日2014年3月15日
  • 価格¥OPEN(予想実売価格240,000円前後)
●入力端子:TOSLink、RCA同軸、USB×2 ●出力端子:6.3mmステレオヘッドホン×1、3.5mmステレオミニ×2、RCAアンバランス・ステレオ×1 ●THD:0.0005%(1kHz 3V出力時) ●ダイナミックレンジ:120dB ●外形寸法:132W×23H×97Dmm ●質量:332g