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大橋伸太郎がヤマハの新フラグシップに迫る

【レビュー】ヤマハ“22年ぶり”のセパレートAVアンプ「CX-A5000/MX-A5000」

公開日 2013/09/12 13:42 大橋伸太郎
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ヤマハAVアンプの新フラグシップ「CX-A5000/MX-A5000」速攻レビュー

CX-A5000/MX-A5000をヤマハのAV試聴室で試聴した。BDを再生して最初に耳を奪われるのは、S/Nの素晴らしさ。全ch にES9016(124dB)を奢ったことと、セパレート化によるノイズ遮断効果が奏功した印象だ。その結果生まれたのが、広大さも閉塞感さもつねに知覚出来る伸縮自在の音場空間である。

ステレオ再生の場合、高音質クラシックソフトの再生の肝は<静寂の表現>である。フロアノイズと楽器にまとわり付く動的ノイズの抑圧、そしてダイナミックレンジがその鍵だが、この<静寂>を制するものがクラシック音楽再生を制するのだ。AV映像音響の場合、それに相当するものが空間の広がり感と明澄度である。CX-A5000/MX-A5000は、映像ソフト毎あるいはシーン毎に出現する<空間の涯>まで聴覚で知覚されるようだ。これは、過去のAVアンプで到達出来なかった表現域といっていい。

描き出される音の情景は、明晰そのもの。今回はフロント/リアプレゼンスを加えた11.2chのシネマDSP HD3フル再生で5.1〜7.1chソフトを聴いたが、フロント/リアハイトスピーカーの加わった三次元空間表現内の音の定位、移動表現の明瞭さは圧巻で、ドルビーアトモスは要らないのではないかと思えるほど、動きの自由闊達さとch間の断絶を一切感じさせない素晴らしい一体感が生まれている。ヤマハが企図した“Absolute”はこの一体感を指していたのだ。

具体的には、『ゼロ・ダーク・サーティ』(DTS-HD MA5.1ch)の場合、クライマックスのステルスヘリの離陸から目標地点での一機墜落まで、試聴室の空間を越えた垂直水平の移動表現の大きさ、軌跡の生々しい鮮明さが挙げられる。日本映画『さよならドビュッシー』(ドルビートゥルーHDアドバンスド96kHz/24bitアップサンプリング)の主人公の幻想シーンは、オリジナル5.1chにして、子供時代の自分と従姉妹の足音の移動描写が7.1chあるいはそれ以上のch数で初めからサウンドデザインされたと錯覚されるほど、高低変化まで使いこなして試聴室内を奔放に駆け巡り、今まさにサラウンドの新境地を聴いた実感があった。こうした研ぎ澄まされた表現力は、パワーアンプMX-A5000の独立で得られたクロストークの廃絶による所も大きいだろう。

CX-A5000/MX-A5000の表現域は、現行BDのサウンドスペックを呑み込み、すでに次を展望している感さえ感じられる。バージョンアップと長期的使用に対応するセパレート構成という今回のヤマハの選択も、それがひそみとしてあったのではないか。そんな思いさえするCX-A5000/MX-A5000の卓越ぶりである。

◆大橋伸太郎 プロフィール
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論を行っている。

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