「演奏者のニュアンスが濃密に伝わる」

ラックスマンの管球式セパレートアンプ「CL-38u」「MQ-88u」を石原俊がレビュー

石原俊
2011年10月31日


■CL-38u/MQ-88uの目指したもの
銘機復活の声に応えるために開発 − 洗練さも持ち合わせた新型モデル


ラックスマンから真空乾式セパレートアンプのペア「CL-38u」「MQ-88u」が登場した。同社は世界最古のオーディオメーカーのひとつである。その歴史は古く、創業は1925年に遡る。同社が真空管アンプメーカーとしてスタートを切ったのは1958年のこと。すでにトランスメーカーとして定評のあった同社の真空管アンプは基本性能に優れ、信頼性が高く、しかも類稀なミュージカリティを有していた。1960年代から1979年代にかけて作られたラックスマン・ブランドの真空管アンプは現在でも銘機の誉れが高く、復活を臨むファンの声は日増しに強まっていた。CL-38uとMQ88uは、そんなファンの要望に応えるべく誕生したのである。

CL-38u

MQ-88u

プリアンプのCL-38uは、1970年に発表された「CL-35」をイメージして企画された。CL-35系のモデルは、1974年に発表されたシリーズIIIまで発展した経緯がある。その系譜を受け継ぐCL-38uは決して単純な復刻品ではなく、コモンセンスを持つ真空管式プリアンプとして究極ともいえるほどの性能を目指して開発された。

伝統的な「ロの字」型のウッド製筐体は往年のモデルよりもひと回り小さいが、トーンコントロールやフォノイコライザーなどの充実した機能を装備している。また、現代機らしくリモコンが付属しているのも、実際に使用するにはありがたい。

CL-38uの付属リモコン

一方パワーアンプのMQ-88uは、1969年に発表された「MQ-60」をイメージして企画された。MQ-60の終段には50CA10という三極管が使用されていたが、この真空管の新品が現段階では入手できなかったことから、KT88プッシュプル/三極管接続という手法が採られた。回路の方式はMQ-60と同じムラードタイプだが、CL-38uと同様、当時のモデルよりもはるかに洗練されている。

MQ-88uは銘機MQ60をデザインモチーフとしたパーツレイアウト

■CL-38u/MQ88-uの技術的な注目点
SRPPで低インピーダンスを実現 − MQは三極管接続により信頼性が向上


CL-38uに使用されている真空管はECC83×3とECC82×5。ライン部はもちろん、トーンコントロール部とフォノイコライザー部にも真空管が使用されており、これらはすべてSRPP(シャント・レギュレーテッド・プッシュ・プル)回路で、低インピーダンス伝送が実現されている。

CL-38uの背面端子

トーンコントロールはバス・トレブルともターンオーバー周波数が設定でき、前者は150/300/600Hz、後者は1.5kHz/3kHz/6kHzが選択可能だ。MCカートリッジの昇圧はトランス式で、二段切替のゲインごとに独立した計4基のトランスが搭載されている。

MQ-88uに使用されている真空管はECC83×2、ECC82×2、KT88×4。終段の真空管こそMQ-60と異なるが、トランスはMQ-60と同じ定数のものが使用されている。このトランスはラックスマン伝統のOY型で、旧機種の修理用としても流用が検討されている。なお、MQ-60やSQ-38FDに使用されていた50CA10という真空管は多極管を内部で接続した三極管で、KT88の三極管と理論的には同等のものである。KT88を三極管接続することで、真空管の長寿命化と信頼性の向上という、ユーザーにとっては嬉しい副産物が生まれた。

MQ-88uの背面端子部

■CL-38u/MQ-88uの試聴レポート
演奏者のニュアンスが濃密に伝わり声は歌を超えたセクシーさが魅力だ


テストはラックスマンの試聴室で行った。ディスクプレーヤーは同社の「D-08」を、スピーカーはコンセンサスオーディオの「Lightning SE」を用いた。

リリシズムに溢れた音である。オーディオ的に申し上げると、トランジェント感が良く、ダイナミクスと音色の変化に対する追随性が高い。その結果として、楽曲が持っている気分や演奏者のニュアンスが濃密に伝わってくるのである。この音に慣れると、いま自分の聴きたい音楽がすぐさま思い浮かぶのではないだろうか(ある種の最先端機を使っていると、いま何が聴きたいのかが、分からなくなってしまうことがままある)。

このペアでジャズを聴くと、ボードレールやランボーなどといった超一流の詩人の作品を音読した時のような気分になる。リズム感が素晴らしく良く、サウンドカラーが多彩で、情感の変化が大きい。

ピアノトリオに関してはベストペアのひとつではないだろうか。ジャズピアノのフィンガーワークとペダルワークによる音の組み合わせが、カレイドスコープのように変化する様を耳でおいかけるのは、オーディオの醍醐味の最たるものである。

また、ドラムセットのサウンドはうるさくならず、ベースは節度を持って音楽の根幹を支える。ヴォーカルはラックスマン・トーンそのものだ。基本的にはクセのないナチュラルな表現なのだが、女声・男声とも単なる歌を超えたセクシーなサムシングがある。それでいながらシリアスな交響曲はきっちりと再生してくれるのである。

本質的には音楽を楽しむための表現だが、音楽の勉強にも充分に使えるほど再現性の確度が高い。

最後にLPレコードを聴いたのだが、CL-38uのフォノイコライザーは単体でも使用したい程の出来映えである。その音楽表現は楽しく、かつシリアスで、まるでラックスマンの社風のようである。

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