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“生真面目なボンド”の代償

話題のソフトを“Wooo"で観る − 第21回『007/慰めの報酬』(Blu-ray)

公開日 2009/07/02 10:58 大橋伸太郎
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冒頭のカーチェイスの車の車体、ジュディス・デンチのMのドレス、黒がどのシーンにも必ず重石のように配されている。家庭で「慰めの報酬」を心行くまで楽しみたいなら、映像の黒のバリエーションが美しく再現されるディスプレイ(テレビ)を選ばなければならない。今回この黒という映像の鍵に気付いたのは、私が仕事場で常用する日立のフルハイビジョンプラズマテレビ「P50-XR02」でブルーレイディスク版を2度目に見た時だった。

HITACHI「P50-XR02」

P50-XR02の「1080フルHDブラックパネル」は、プラズマパネルを形成するセルを、隔壁が光源を囲い込む「ボックスリブ」構造とし、発光時の光漏れをなくした。さらに、薄膜電極を採用したプログレッシブ駆動により映像に応じて発光画素と発光回数を制御し、黒輝度の低減とピーク輝度の明るさを両立した。その結果、本機のダイナミックコントラストは、前世代を大きく超える30,000対1にまで躍進した。P50-XR02で見る「慰めの報酬」は、随所随所に現れる黒が浮き上がらず、なめらかで神秘的な艶を湛えていて、喪に服する者たちの悲しみと暗い情熱を突き付け、私に映画の色彩デザインとメッセージに気付かせたのである。

最近、長らく黒浮きが指摘されてきた液晶方式もコントラストと黒輝度の改善が急ピッチで進み、数値上はP50-XR02を凌ぐ製品もある。しかし、私は最新の液晶テレビ数台でも「慰めの報酬」を見たが、液晶方式の黒は発色が堅く、ワンパターンである。P50-XR02の描く黒はフィルム的な柔らかさがあり、しかもニュアンスに富んでいる。この辺りに、大作映画の艶やコクを描く上でプラズマ方式が依然堅持し続ける世界を見る思いがする。

ただし、本作は第一級の高画質ソフト(前作「カジノ・ロワイヤル」の艶やかさには一歩及ばず地味)だが、シーンによってはややノイズが煩い。特に白い大面積の背景でジラジラした圧縮ノイズが目立ち、黒い服との対比でそれが視聴上の妨害になる。MPEG NRも有効だが、細部がやや鈍ってしまうからあまり使いたくない。本機の場合、YNRをオンにすると若干緩和される。細かなカット割りの激しいアクションが演出・編集上の特徴の本作だが、動きの表現という点でP50-XR02は破綻の影も見られなかった。視聴時は「シネマスキャン」(24pを96Hzで表示)オンで見た。

最後に、Woooに共通して搭載されているフロントサラウンドは日常5.1ch環境で視聴する私が聴いても非常に効果があり、中盤のオペラ「トスカ」上映シーンはオーケストラの自然で豊かな広がりを味わうことができた。P50-XR02での視聴は今月をもって終了、来月からは、最新のP50-XP03が仕事場にやって来る。すでに高い完成度に達しているWoooがどんな新境地の映像を見せてくれるか楽しみだ。

『007/慰めの報酬』視聴時の最終映像設定
映像モード シネマティック
明るさ -15
黒レベル 0
色の濃さ -7
色合い -1
シャープネス -5
色温度 低
ディテール 切
コントラスト リニア
黒補正 切
LTI 切
CTI 切
YNR 切
CNR 切
MPEGNR 切
映像クリエーション シネマスキャン
デジタルY/C 弱
色再現 リアル
DeepColor 切

大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。

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