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評論家・山本 敦がインタビュー

オーディオビジュアルからAIまで、9月開催「IFA2025」のトレンドをCEOに聞く

公開日 2025/06/30 15:48 山本 敦
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世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスのイベント、IFAが9月5日にドイツの首都・ベルリンで開催される。イベントを主催するIFA Management社のCEOであるライフ・リントナー氏に「IFA2025」がどのようなイベントになるのか展望を聞いた。

IFA ManagementのCEO、ライフ・リントナー氏に今年のIFAの展望を聞いた

熱気あふれるイベントが完全復活

昨年に、IFAは1924年の初開催から100周年のアニバーサリーを迎えた。コロナ禍が空けた直後の2023年以来、メイン会場となるメッセ・ベルリンでの本格的な対面開催は2度目となったが、44か国から1,800社の出展社を集め、総ビジター数も139か国から215,000人を迎えた。IFAはコロナ禍前の活気を完全に取り戻しつつある。

2024年は開催100周年だったIFA。世界中から多くの来場者が訪れた

筆者も2023年・2024年のIFAを現地で取材した。日本の企業はパナソニックやシャープが本格的にカムバックを遂げてIFAを盛り上げていたが、筆者は欧州を代表する家電メーカーも挙って出展するIFAで、コンシューマーエレクトロニクスの最先端と、イベントに集まる地元ベルリンの一般来場者の反響を目の当たりにできることに大きな意味を感じている。

IFAはBtoB向けのトレードショーとしても世界最大級だ。欧州の大手家電小売企業のユーロニックスなど、有力なトレードビジターもIFAの時期はベルリンに押し寄せる。広大な展示会場の熱気をかき分けながら、成熟したコンシューマーエレクトロニクスのトレンドを先読みするための知見が得られる機会は他に類を見ない。

特にスマートホームのカテゴリーと、ヘルスケアやウェルビーイングとした欧州のハードウェアスタートアップの最新動向が俯瞰できるイベントとしてIFAは重要だ。 

IFAが注力する3つのエリア

6月下旬には東京で、IFA2025のプレス記者会見が開催された。会見の質疑応答ではリントナー氏に対して「今年のIFAはどうなる?」という趣旨の質問を大勢の記者がぶつけた。リントナー氏の回答を元に、開催を2か月後に控えるIFA2025のステータスを確認しよう。

IFA2024で、リントナー氏はIFAを「若く、大胆で未来志向的なイベント」にするために様々な改革を打った。今年も引き続き欧州のコンシューマーが注目する「3つのエリア」にフォーカスする。

1つが「フィットネスとデジタルヘルスケア」だ。理美容家電もこの領域に含まれる。日本のメーカーではパナソニックが得意とするエリアだが、現在はドイツの人気家電ブランドであるミーレ、シーメンス、ボッシュのほか、世界各国からIFAに出展するブランドもこの領域に力を入れている。

リントナー氏は、今年はこのエリアがAIとの結びつきを深めるだろうと予測する。コンシューマーが実際に「AIを使ってできること」をより明快に提示する、プロダクトやサービスが多数並ぶことを期待したくなる。

パナソニックのメンズ向けビューティケア製品はヨーロッパでも好調だ

2つめは「調理家電」だ。このエリアに注目しながらIFAの会場をまわると、欧州独自のスマートホームに関わる最新動向が浮かび上がってくる。筆者が昨年取材した時点で「生成AIエージェントを搭載するスマート家電」の胎動をいくつかのブースで見つけることができた。

今年のはじめにラスベガスでCESを取材した時にも、生成AIと生活家電の結びつきが強くなる機運は既に高まっていたが、それらがコンシューマー向けのプロダクトやサービスとして現前する機会はIFA2025になるかもしれない。

3つめは「モビリティ/e-bike」だ。“エコな生活”は、特に欧州の若い生活者たちの間でここ数年以来の大きなトレンドになっている。なぜかと言えば「生活費を節約したい」という理由もさることながら、「エコフレンドリーな生活者が正しい選択であり、つまりは“カッコいいスタイル”なのだという意識を持つ若い生活者が増えているから」なのだとリントナー氏は説明する。

シャープはヨーロッパで好調なe-bikeの市場に参戦している

日本からIFA2025に出展する企業の顔ぶれについては、今回の記者会見の場ではまだ明らかにされなかった。リントナー氏は「欧州でいまデジタルイメージングに関わる産業が勢いを取り戻している」と語り、同カテゴリーのリーディングカンパニーであるキヤノン、ニコン、富士フイルム、シグマなどに新しいIFAの魅力を積極的に伝えていると述べた。

なお、スタートアップ関連の企業や団体が多く集まる「IFA NEXT」には、2024年に引き続き東京都が出展する。昨年の「SusHi Tech Tokyo(スシテック トウキョウ)」のブースの模様をレポートしているので、イメージを参考にしてほしい。

なお、IFA2025の本開催期間は9月5日から9日までの5日間となるが、先駆けて3日と4日にはメッセ・ベルリンの会場でメディア関係者を対象としたプレイベントが開催される。

また9月4日には新しく小売業界の関係者を招いて「Retail Leaders Summit」というイベントも新たに実施する。もうひとつ新規の試みといえば、毎年IFAの出展企業の中から優秀な展示を表彰する「IFA Innovation Awards」も始まるようだ。

ユーザーと「話せる生成AI搭載家電」がIFA2025では各社から発表されるかもしれない

オーディオビジュアルの華はやっぱり「ホームシアター」

記者会見の後、個別に「欧州のオーディオビジュアル市場のトレンド」についてリントナー氏の見解を聞いた。

肌感としては、欧州でも4K高画質の「大型テレビ」の人気が堅調だとリントナー氏は語る。ユーザーの注目を集めているのは「コンテンツ」。欧州でもNetflixやAmazon Prime Videoの人気が堅調であり、HBO Maxの動画配信も勢力を拡大している。

「人気のドラマをビンジウォッチング(一気見)するスタイルはユーザーの間に定着した。最近では、家族一同でリビングルームに集まり、動画配信を楽しむ傾向が強くなっていると感じる。伴って、ファミリーで見られる人気作品が日々の会話で話題に上ることも多い」とリントナー氏が語る。

今年のCESでLGエレクトロニクスが展示したAI搭載テレビのコンセプト。ユーザーの好みに合わせたコンテンツをテレビが対話しながらレコメンドしてくれる。この秋には案外、IFAでプロダクトとして出展されるかもしれない

動画配信サービスを「ファミリーで楽しむ」ライフスタイルは欧州に限らず、米国や日本でも一般の家庭に拡大していると筆者も聞く。ハードウェアとしてはリビングルームに常設する大型テレビだけでなく、屋内で設置場所を自由に選びながら大画面シアターが楽しめる、スマートOS内蔵のポータブルプロジェクターが「家族と楽しむビンジウォッチング」を後押ししている。

IFAには同カテゴリのプロジェクターを主力商品とするメーカーが数多く参加している。あるいは大画面シアターの「サウンド」をリッチにするサウンドバー、立体音響再生に対応するコンパクトなスピーカーシステムの最新動向もIFAに足を運べば“イッキ見”できるかもしれない。

IFA2024にヤマハが出展したサウンドバーも好評だった

世界的に経済情勢が不安定になる中、欧州各国でもエネルギー価格の高騰やインフレの影響により消費が冷え込んでいるとも言われている。コロナ禍以来、ふたたび「巣ごもり生活」を志向する生活者も少なくないという

リントナー氏は今こそコンシューマーの生活スタイルに寄り添う提案が求められている指摘する。そのうえで「IFAには大勢の一般コンシューマーが来場する。一般の方々のニーズと対峙し、あるいは市場関係者の声と正面から向き合えるメリットを多くの出展企業に実感してもらいたい。現状を正しく把握しながら、マーケティングの方向性を決める上で“正しいボタンを押す”ことが必要だ」と呼びかけた。

人気のクリエイターや日本のアニメとの連携も強化する

昨今はSNSによるコミュニケーションが一般に広く定着し、ソーシャルプラットフォームをビジネスツールとして様々に活用する企業も増えた。流れを受けて、写真や動画に関わるデジタルクリエーションツールが注目されている。

IFAも2024年からイベント会場内に「IFA Creator Hub」と名付けた特設スペースを設けて、クリエイターと企業の交流促進に力を入れた。好評を得たことから、今年も同じ企画展示を実施する予定だ。このエリアには一般来場者も立ち寄ることができる。

2024年にはIFAのブランドイメージを一新。アパレルグッズも販売した

人気のデジタルクリエーションといえば「日本のアニメ」もいま世界中で視聴されている。ひと世代前に日本のテレビ等で放送された定番作品だけでなく、SNSや動画配信サービスの普及にも後押しされる形で、最新アニメの最新話を海外にいながら“ほぼリアタイ”で視聴できるようにもなった。

オーディオビジュアル系のプロダクトやサービスとも好相性なアニメを、IFAに取り込むことができれば大きなプラス要素になりそうだ。リントナー氏が将来に向けていま構想を練っている“あるプラン”を語ってくれた。

IFAを主催するIFA Managementは、英国の見本市主催会社であるClarion Events傘下のグループ企業だ。そのClarion Eventsは毎年米国で開催されるアニメをテーマにした展示会「Anime Frontier」の開催に深く関わっている。同社からAnime Frontierに関連するノウハウの共有を受けて、今後「イベントそのものをIFAに持ち込むのではなく、アニメのエッセンスをIFAに取り込むことを検討している」のだとリントナー氏は打ち明けた。

「イギリスやフランスや言うまでもなく、ドイツでも若年層を中心に日本のアニメに注目が高まっている。人気のアニメとつながることは、この先にIFAを若く、大胆で未来志向的なイベントに育てるため欠かせない要素であるという方々からの意見には、私も完全に同意する。アニメの人気を、これからのIFAの成長にとって意味ある形で結び付けたいと思っている。今秋のイベントですぐその答えを示すことはできないかもしれないが、来年以降、できるだけ早く日本のアニメとIFAのコラボレーションを皆様に見せたい」

インタビューを通してコンシューマーエレクトロニクスに対する世界中の関心をIFAに向けさせたいという、リントナー氏の強い意気込みが伝わってきた。今年9月のIFAは大きく変わる期待が持てそうだ。

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