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ワイヤード接続と同じ品質をワイヤレスで実現していく

クアルコム、「aptX Adaptive」説明会を開催 − 無線環境やコンテンツに応じて音質/遅延を最適化

2018/10/03 編集部:川田菜月
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クアルコムは、8月31日に発表した新Bluetoothオーディオコーデック「aptX Adaptive」のプレス向け説明会を本日10月3日に開催した。

説明会ではDirector of aptX Sales and MarketingのJonny McClintock(ジョニー・マクリントック)氏が登壇し、aptX Adaptiveの概要と特徴を紹介した。

新Bluetoothオーディオコーデック「aptX Adaptive」のプレス向け説明会

Jonny McClintock(ジョニー・マクリントック)氏

aptX Adaptiveは、独ベルリンで開催されたIFA 2018にて発表された新コーデック(関連ニュースインタビュー)。最大のポイントは、コンテンツの種類や外部のワイヤレス環境に応じて、最適な音質やレイテンシーへと自動的に調整できる点だ。

aptX Adaptiveは最適な音質やレイテンシーへと自動的に調整できる新Bluetoothコーデック

ビットレートは、無線環境の良し悪しに合わせて279kbps(CD品質) - 420kbps(ハイレゾ相当)の間で自動調整される。厳しい環境下であればデータレートを下げて、逆に良い環境下であればビットレートを上げていくという動きをするとしており、これにより接続の堅牢性・安定性を担保する。例えば、電車内など多くの人が集まり、無線が飛び交うような環境下に移動した際でも、ユーザーには意識されないかたちでスムーズにビットレートを自動調整。音切れなく最適な音質でワイヤレス伝送が行える。

また、オーディオファイルのヘッダー内からフォーマットの種類やダイナミックレンジなどの情報を読み取ることで、コーデック側でどのようなパフォーマンスを行うか判断する。例えばコンテンツをゲームと判断すればレイテンシーの確保が優先され、音楽と判断されれば音質が優先されるといった具合だ。これに前述の無線環境の判断も加わり、最適な音質に調整される。

なおビットレートが変動してもサンプリングレート等は変わらないとのこと。こうした動きによって「ユーザー側は何もせずに意識することなく、様々なコンテンツを楽しんでもらえる」とアピールした。

aptX、aptX HD、aptX Low Latencyに続く、4つめのコーデックとなる

aptX HDは発表以降、多数のスマートフォン端末に採用され、市場を拡大してきたという

同社はこれまでaptX、aptX HD、aptX Low Latencyと3つのコーデックを提供している。aptXは44.1kHz/16bitのCD相当の音質で、aptX Low Latencyではその技術をベースにパケット化などの面で低遅延を実現している。aptX HDは、市場におけるハイレゾ品質の需要に対して開発された技術で、2年前に市場投入して以降多くのスマートフォン端末に採用され、非常に速いペースで普及しているという。

aptXコーデックは現在約40億のエンコーダーが採用していると強調

aptXコーデックのエンコーダーを搭載した製品の累計出荷台数は、約40億台に及ぶことも紹介。Windows 10やMac OS、またオートモーティブでの採用も進んでいるという。また、クアルコムのスマホ・タブレット向けSoC「Snapdragon」も数多くのデバイスで採用されている。こうした市場での普及・拡大を通じて、マクリントック氏は「ビットレートをよりうまく管理すること、ユーザーが何も行うことなく意識せずに利用できるようにすることが重要であると学んだ」と語る。

接続の堅牢・安定性、高音質、低遅延を実現するという

279kbps - 420kbpsの間でビットレートが環境に合わせて最適化。遅延も50 - 80msの間におさまるという

aptX Adaptiveの特徴として、グリッチ(ノイズ音)のない堅牢かつ安定した接続性、279kbps(CD品質) - 420kbps(ハイレゾ品質)の高音質、ゲームの動作音や動画コンテンツのリップシンクなどに対応する低遅延の実現を挙げている。

ちなみにaptX HDのビットレート上限は576kbps、aptX Adaptiveのビットレートは最高でも420kbpsである。aptX Adaptiveの音質はaptX HDに対して劣るということなのだろうか。この点についてマクリントック氏は「aptX Adaptiveは新しい圧縮技術を採用しており、420kbpsでaptX HDと同等の音質が実現できる」と答えてくれた。

音質面における開発過程では、音響工学を扱うイギリス・サルフォード大学と連携し、半年間にわたって30人のエンジニアが200以上ものサンプル聴き比べる検証を実施。「aptX Adaptiveの420kbps再生と、96kHz/24bitのオリジナル音源について、聴感上で音質差がわからないレベルまで追い込んでいる」とのこと。「外部からの意見や検証結果も取り入れながら、高音質の実現を叶えた」と自信をみせた。

また低遅延の実現について、「様々なBluetoothコーデックが存在する現在、クアルコムは先陣を切って技術開発を進めてきた。次の段階として、遅延に対する対応が最も重要になってくると考えている」と説明。aptX Adaptiveのコーデック自体の遅延は2ms以下、AndroidスマートフォンはBluetooth通信などシステム全体を通して考えると、50 - 80msの間におさまるという。

ゲームや動画視聴などスマートフォンの用途が広がるにつれて、遅延対策がこれまで以上に重要となってきたという

マクリントック氏は「様々な調査を行った結果、動画音声については60ms以下、カジュアルゲームにおいては50 - 80msの間であれば適切に対応できると分かった。Bluetoothにはディレイレポーティング機能もあり、データをバッファーすることによって遅れを調整できるが、バッファー分のメモリを使用することはコスト増加に繋がり、またゲームに対しては原理的に使うことはできない」とし、低遅延コーデックの重要性を説く。また、低遅延の状態を安定して保つことも重要であるとし、ビットレート下限の280kbpsはその点を重要視した作りになっているとのこと。

ワイヤード接続と同じような使用環境を、ワイヤレスの世界でも実現していくことを目指すと語る

今回aptX Adaptiveの開発に至った経緯には、スマートフォンにおける用途のマルチメディア化とオーディオジャック廃止があるという。ハイレゾコンテンツの需要が高まる中で、オーディオジャックの無いスマートフォン端末ではワイヤードイヤホン/ヘッドホンを使用できない状況が増えている。ワイヤード接続の特徴は、音楽コンテンツが何であるかなどユーザーが意識することなく、ケーブルを繋ぐだけで動作し再生が可能な点が強みだとし、「ワイヤレスでも同じ使用環境を実現することが、クアルコムの仕事だと考えている」と語る。

また、マルチメディアデバイスになっている点も理由の1つだと語る。現在では音楽を聴く以外にも、ゲームや動画コンテンツの利用などが増えており、ありとあらゆることがスマホだけで行えるようになっている。アメリカでは3/4以上のユーザーがカジュアルゲームを利用しており、その点についてもワイヤード接続と遜色ない、低遅延の利用環境を作り上げる必要があると考えたという。

aptX Adaptiveは、同社のSoC「QCC5100」「CSRA68100」にてサポートを予定。実際市場に利用できる製品が販売されるのは、2019年中頃くらいだろうと考えているとした。なお、完全ワイヤレスイヤホンでの使用もサポートしているが、同社の完全ワイヤレスイヤホン向けチップ「QCC3026」でのサポートは検討中とのこと。

Bluetooth市場でのaptXブランド採用の実績をふまえ、新コーデックの拡大にも自信を見せた

従来コーデックについては、aptXとaptX HDは継続して提供、aptX Low LatencyはaptX Adaptiveへと置き換えていく予定だという。今後の普及展開については、「aptXブランドが広く市場で採用されている今、新コーデックのaptX Adaptiveも急速に拡大可能と考えている」とした。

また日本市場については、「これまで約25年にわたり販売活動を行ってきた。長野オリンピックといった大きなプロジェクトにも関わってきて、aptXの利点は日本から広まっていったと言える。日本はオーディオ分野でリーダー的存在であり、重要な市場だと考えている」と語った。

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