HDR10の実質的な上位規格

<CES>「HDR10+」と「ドルビービジョン」、次に “来る” のは? 両規格の現状をまとめた

折原一也
2018年01月15日
米ラスベガスで行われた「CES 2018」での薄型テレビ/映像関連の出展を見ると、「HDR」が引き続き重要なテーマだった。

20世紀フォックス、パナソニック、サムスンの3社が提唱する「HDR10+」が展開される一方、ソニーがついに2018年の有機ELテレビで「ドルビービジョン」対応を開始。「HDR10」より実質的に上位の技術として、複数のメジャーな規格が存在する状況になった。

パナソニックはプレスカンファレンスでも「HDR10+」をプッシュ

HDR10+のフォーマットの詳細はIFA 2017発表時点のインタビュー記事を参照して欲しいが、目玉となるポイントはシーン単位でピーク輝度のメタデータを収録すること(技術的にはフレーム単位も可能)。輝度のダイナミックメタデータを伝送するという訴求点がドルビービジョンとよく似ているのだ(ドルビービジョンの詳細はこちら

映像配信がHDRフォーマット競争の主戦場に

ではHDR10+とドルビービジョンのどこが競合の場になるのかというと、まずは映像配信が主戦場となる。米アマゾンによる「Amazon Prime Video」(北米向け)は、既にHDR10+で配信する準備を整えた。全世界への展開を宣言しており、日本も時期は不明ながら対象になるとみられる。

タイトルは近年人気を高めている同社のオリジナル作品だけでなく、映画会社等から購入した数百のタイトルも挙げられる。これはつまり、Amazonが購入した作品なら20世紀フォックス、ワーナー以外の映画も、HDR10+での配信対象になるということだ。

パナソニックは2018年の有機ELテレビを20世紀フォックスのHDR10+コンテンツでデモ

パナソニックでお話を伺った小塚氏、清水氏、柏木氏

20世紀フォックスはライセンス開始後、全HDRコンテンツでHDR10+対応に、ワーナーは18年以降と過去(75本以上)の全HDRコンテンツでHDR10+対応と、ドラスティックな対応が図られることになる。

Amazon、20世紀フォックス、ワーナーがHDR10+の一気採用に踏み切った理由は明快だ。まず、HDR10+はライセンスフリー(年会費のみで、ユニット単位、作品単位のロイヤリティはなし)であること。「HDR10+はエンコーダーにかけると簡単にメタデータを作れるので、大したコストもかからない」(パナソニック・小塚雅之氏)と、導入側も簡単なのだ。

必要なデータ容量は「UltraHD Blu-rayに収録するもので、メタデータの実際のサイズは12kbps」(パナソニック・柏木吉一郎氏)と非常に小さな容量で実現でき、画質向上効果に対してリーズナブルだ。

なお、UltraHD Blu-ray(以下、UHD BD)についても、HDR10+がUHD BDバージョン3.2に正式に採用されており(関連ニュース)、ディスクについても20世紀フォックスやワーナーからの発売が期待できる。

パナソニックによるUHD BDのデモ

「HDR10+」(左)と「HDR10」(右)の比較

ドルビービジョンについてはNetflixなどの映像配信、UHD BDともに既に配信・発売中。「CES 2018」で大きな発表はなかったが、既報の通り、8社のメジャースタジオ(20世紀フォックスは含まない)、配信事業者にはNetflixを含む7社(Amazonも参加している)、また12社のTVセットメーカーが対応している。

ハードウェアへの対応は拡大中だ。CES 2018では、ソニーが2018年の有機ELテレビ「A8シリーズ」での対応、2017年の「A1シリーズ」もアップデートによるドルビービジョンへの対応を表明し、UHD BDプレーヤーもドルビージョン対応の「UBP-X700」を発表した。

ソニーのドルビージョン対応UHD BDプレーヤー「UBP-X700」

パナソニックもUHD BDプレーヤー最上位の「DP-UB820」でドルビービジョンに対応

パナソニックも欧州で2018年5月に発売するUHD BDプレーヤー最上位の「DP-UB820」では新たにドルビービジョンへ対応。以前からのサポートメーカーであるLGも有機ELテレビを発表しており、順調に対応機器を増やしていると言って良いだろう。

「HDR10+」と「ドルビービジョン」が目指すものとは?

HDR規格のスタンダードであるHDR10、そしてHDR10+とドルビービジョンとで規格競争の様相を呈しているが、 “それぞれ目的の異なるもの” と捉えているのがソニービジュアルプロダクツ 技術戦略室の小倉敏行氏だ。

ソニーはプレスカンファレンスでもドルビービジョンに言及

サウンドバーのデモとしてドルビービジョンを上映

ソニーは自社開発の高画質エンジン「X1 Extreme」、そしてCES 2018で初披露した「X1 Ultimate」といった、HDRにも適合する高画質プロセッサーを得意としており、HDR10+のメタデータがなくても、映像を解析して高品位なトーンマッピングが行える。

CES 2018で発表されたソニーの有機EL「A8シリーズ」はドルビービジョンのみ対応

「HDR10+のメタデータは、自前でフレーム単位で映像を解析すれば必要ない。本来なら技術力のある会社には不要」とパナソニックの小塚雅之氏も語る。HDR10+が目指しているのは、自前で高精度な映像エンジンを持てないベンダー製テレビの画質の底上げだ。

IFA 2017での取材でも語られていた、「Ultra HD Premium規格の基準が厳しく、これに対応できるテレビが限定的」と語られていた状況を解決するのが、まさにこのHDR10+だ。映画スタジオ、Amazonらコンテンツ側が支持する理由もここにある。

一方でドルビービジョンはHDR10+と同じく、シーン単位(技術的にはフレーム単位)の制作時に付与されるメタデータを持っている。ではソニーがHDR10+には非対応で、ドルビービジョンには対応するのはなぜか。

「ドルビービジョンには、ストリーミング動画など向けに、ドルビーが推奨している、人間の視覚特性を考慮した色空間『ICtCp』などの機能があります。つまりドルビーは、もともとのストリームの画質レベルを引き上げようと目論んでいます。ですから画質面のメリットがあるはずです」とソニーの小倉氏は説明する。

ドルビービジョンとHDR10+は、両方に対応することが可能であり、排他的なものではない。だから厳密にいうと競合しているとは言い切れないが、HDR10より実質的に上位のフォーマットとして、「HDR10+」と「ドルビービジョン」の2つの技術が存在感を高めているのは事実。HDRのさらなる高画質化に向け、これらのフォーマットの動向からも目が離せない。

(折原一也)

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