従来モデルからのアップグレードサービスも提供予定

静電型がヒントに? MrSpeakers「ETHER Flow」に採用された新技術を開発者が解説

編集部:小澤貴信
2016年10月24日
エミライは、同社が取り扱うMrSpeakersの最上位ヘッドホン「ETHER Flow/ETHER C Flow」の説明会を「秋のヘッドホン祭2016」(22日)にて開催。説明会には、MrSpeakersの創設社/現CEOであるダン・クラーク氏が登場。本機に採用された新技術について説明を行った。

MrSpeakers 創業者/CEOのダン・クラーク氏

前日の21日には、プレス向けの説明会も開催。本記事では、こちらでダン・クラーク氏が語った内容をベースに、「ETHER Flow」(開放型モデル)および「ETHER C Flow」(密閉型モデル)の詳細について紹介していきたい。

ETHER Flow

ETHER C Flow

まず、MrSpeakersの平面磁界駆動型ヘッドホン「ETHER」シリーズ共通の特徴となるのが、特許技術による独自の平面振動板「V-Planar振動板」の採用だ。この点については、ダン・クラーク氏が昨年の来日時に行った解説をまとめたこちらの記事をぜひご覧いただきたい。

ETHER Flow/ETHER C FlowがこのV-Planar振動板を搭載している点は、スタンダードモデル「ETHER 1.1」「ETHER C 1.1」と同様だ。では、ETHER Flow/ETHER C Flowが最上位モデルたるゆえんは、新たに、流体力学に基づいた新たなハウジングの一部(具体的には、ハウジング内のマグネットを保持するトレイ)において、特許技術「True Flowテクノロジー」を採用した点だ。

ETHER Flow(手前)とETHER 1.1(奥)

この技術により、ETHER Flow/ETHER C Flowの両方が、オリジナルモデルに対して中域の歪率を1/2に減らすことに成功したという。ダン・クラーク氏は今回、このTrue Flowテクノロジーについて、詳細を説明してくれた。

平面磁界駆動型ヘッドホンは、振動板そのものにコイルのパターンが印刷されており、その両側または片側に、マグネットを配置することで、振動板を駆動する。ちなみにETHERシリーズのヘッドホンは、マグネットを片側(耳側)にのみ配置する方式を採っている。ダン・クラーク氏によれば、「両側にマグネットを配置した方が駆動力は得やすいが、歪みも増えてしまう」という理由で、マグネットを片面のみに配置しているという。

このマグネットはトレイ(Stator)に固定されている。そして、前述のようにマグネットとトレイは耳側に配置されている。振動板が駆動して発声した音波は、マグネットを固定したトレイに設けられた1.5~2mmほどの「孔」(複数個設けられている)を通り、耳側へと放出されることになる。

【写真A】ETHER 1.1のマグネットを保持するトレイを、ハウジングの耳側から見たところ。4本並んだトレイそれぞれに、2列にパンチングによる孔が空いている

【写真B】こちらはETHER Flowのトレイ。ETHER 1.1で4本だったトレイは1枚化され、各孔には、エアフローを調整する樹脂パーツが配置されている

従来のETHERでは、単にトレイにパンチングで「孔」が設けられていただけだった。ダン・クラーク氏はこの音が通る「孔」が音質に大きく影響していると考えた。トレイは平面の板で構成されており、かつ空気の流れに対して直角に交わる構造となっているため、回折効果と反射効果を強調して歪率の増加と解像度の低下を招くというのだ。

このために、空気の流れを最適化する音質パーツを、流体力学に基づいたシミュレーションから開発。この音質パーツをトレイの「孔」に加えることで気流を最適化し、ハウジング内の音の回折・反射を低減することが可能になった。

左側がETHERのマグネット(図の中央のバー)とトレイ。トレイには孔が設けられているのがわかる。右側はETHER Flowのもので、緑色で示された部分が追加された樹脂製のエアロパーツを示している

マグネットとトレイの断面図。上がETHERのもの。下がETHER Flowのもので、緑色で示した部分がエアロパーツを示す

なお、このパーツは樹脂製で幅は3mmほど。3Dプリンターで作成されている。また、従来4枚あったトレイは、1枚のトレイに一体化されている。上の【写真A】【写真B】をもう一度見ていただけると、従来モデルとのちがい、具体的な処理のようすがよくわかるだろう。


なお、True Flowテクノロジーのアプローチは、来年登場が予告されている静電型ヘッドホン「ETHER Electronic」の開発時に発想されたものだという。ダン・クラーク氏は、静電型ヘッドホンの音質的な優位性は「振動板の薄さ」にあると考え、振動板を薄して音質を検討していたという。しかし、振動板の薄さと音質の間に予想していたような相関関係が得られず、「静電型ヘッドホンの音のよさの理由は他にあるのでは」と探っていった結果、ハウジング内のエアフローという問題に行き着いたのだという。

このTrue Flowテクノロジーの採用により歪みを大きく低減したことは、測定データからも明らかだ。しかし、聴感でもそのサウンドの向上は大きく感じられる。ダン・クラーク氏は具体的なサウンドの変化について「より細かい音が聞こえるようになると共に、高域・低域共でさらにパワーが出るようになった。また、バックグラウンドノイズが劇的に減って、無音時の静けさはさらに際立った」と説明していた。

イヤーパッドを外したところ。左がETHER Flow、右がETHER。イヤーパッドとドライバーの間に配置された音響材も異なっているのがわかる

こうした音の変化には、True Flowテクノロジーはもちろん、これに合わせて追加された音質チューニングも寄与しているという。磁気回路の抵抗値も変更されたのに合わせて、各部のダンピングが再調整された。

ETHER C Flow(左)とETHER C。のイヤーパッドの質感が異なるのが伝わるだろうか

また、イヤーパッドの形状や素材が変更された。まず形状だが、従来ではETHERはフラット形状のイヤーパッドが、ETHER Cではアングルがつけられた形状のものを採用していた。これがETHER Flow/ETHER C Flowでは、両方とも後者のアングルが付いた形状のイヤーパッドに変更された。この点については「最良の音質を追求した結果の変更」とダン・クラーク氏は語っていた。

ETHER Flow(左)とETHER(右)。イヤーパッドの形状が異なっている

イヤーパッドのみの比較。ETHER Flow(左)とETHER(右)

またイヤーパッド表面の素材、従来のラムレザーから、新モデルではイタリアン・ナッパレザーに変更された。これにより質感の向上に加えて、皮の厚みも50%増して耐久性も強化されたという。

従来のETHER C 1.1に同梱されていた、周波数特性をアンプやユーザーの嗜好に合わせて調整するための吸音材(チューニングキット)の廃止については、「チューニングがこれまでと変わり、機能しなくなったので、同梱はしていない」とのことだった。

「Flow」へのアップグレードサービスも実施

ETHER Flow/ETHER C Flowは上位モデルとして登場し、従来モデルETHER 1.1/ETHER C 1.1は併売となる。ETHER /ETHER Cが登場したのが昨年10月、ETHER 1.1/ETHER C 1.1の発売が今年4月と登場が間もないこともあり、これまでのモデルを購入したユーザーに対しては、「アップグレードサービス」も実施される予定だという。価格については、11月中を目処にアナウンスされるという。

アップグレードサービスの詳細については現時点では未定。ただ、本国アメリカではすでにアップグレードサービスが開始されており、こちらをベースとしたものが用意されるという。

アメリカでは、“Essential”アップグレードと“Complete”アップグレードの2つのサービスを用意。前者はTrue Flowテクノロジーの追加とそれに伴うダンピング追加のみが実施され、価格は350ドル。後者はそれらに加えてイヤーパッドの変更や外見の変更まで文字通り“完全な”アップデートが行われるもので、価格は500ドルとなる。

静電型ヘッドホン「ETHER Electric」も来年登場予定

ヘッドホン祭のMrSpeakersブースには、静電型ヘッドホン「ETHER Electrostatic」も参考出展された。出展されたのは量産前の試作機だが、ダン・クラーク氏によれば、音の調整はほとんど終わっているとのこと。発売は2017年初頭を予定しているという。価格について聞くと「競争力のある値段になる」と自信を覗かせていた。

ETHER Electric

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