ホーム用3Dプロジェクターの実力機も登場

<IFA2010>ヨーロッパでの3D人気は如何に? − 山之内正がIFAの3D展示を徹底分析

レポート/山之内 正
2010年09月10日
今年のIFAはほぼすべての展示エリアで3D関連の展示に遭遇するという状況で、否応なく注目度も昨年以上に上がっていた。

1年前にはBlu-ray 3Dの規格がまだ確定しておらず、3DテレビやBDプレーヤーなど具体的な製品も登場していなかった。一方、今年は主要なテレビメーカーの大半が3Dテレビをすでに発売または発表し、BDプレーヤーの3D対応モデルも多数出揃った。映画を中心に3D作品のリリースもまもなく始まろうとしている。


IFA会場に出展する大手ブランド各社は3D関連の製品や技術をメインのコーナーで紹介し話題を集めていた

ベルリン市内のショッピングモールには各社の3Dのデモコーナーが作られていた
そうした状況の変化に対応してドイツのメディアは3Dを積極的に取り上げているが、来場者の反応自体は昨年と同様、まだそれほど大きな盛り上がりを見せているようには思われなかった。IFAにそれほど関心のない一般消費者にいたっては、映画の3Dは知っていても、3Dテレビについては、すでに発売されているという事実すら知らない人がほとんどだという。ベルリン在住の複数の知人から聞いた範囲では、まだドイツ国内では3Dはそれほど話題に上っていないようだ。店頭で活発に3Dテレビを販売し、大型モデル限定とはいえそれなりの台数がすでに家庭に浸透し始めた日本とは、かなり温度差がある印象を受ける。

ただし、それはある程度、以前から予測されていた通りの状況といえる。ドイツをはじめとする欧州諸国は、フラットテレビ自体は売れていても、まだハイビジョン放送が浸透しておらず、3Dはそのさらに先という意識がある。まずはハイビジョンが普通に見られる環境にならないと、3D製品への購入意欲を刺激するのは難しいだろう。BDプレーヤーを導入済みの先進的ユーザーは増えているが、DVDが依然としてパッケージソフトの中心を占めている状況なので、Blu-ray 3Dへの関心を呼び起こすのも容易ではない。

そうした現状はともかく、IFAの展示は3D一色で、しかも市場導入段階の製品が現実に並んでいるのだから、来場者の関心が集まるのは当然のことだ。話題の中心はもちろん3Dテレビだが、私たち日本のAVファンから見て最も注目すべきプロダクトは3D対応の高画質プロジェクターである。IFAではソニーが「VPL-VW90ES」を、三菱が参考出品として試作機をそれぞれ出展し、大画面で体験する3Dの世界をアピールした。


三菱の3Dプロジェクター試作モデル。大胆なカーブを描いた形状が目を引く。本体の高さはソニーより大きいが、それを感じさせない。デザインも最終仕様ではないとのこと。
いずれも表示素子にSXRDを採用し、フレームシーケンシャル方式で3Dを実現しているのは液晶テレビと同様だ。当然ながらメガネはシャッター内蔵のアクティブ方式を使用している。三菱が公開したスペックは暫定で限定的だが、明るさ1,000ANSIルーメン、コントラスト120,000対1という仕様は公開されている。ソニーはVPL-VW85とは異なる新世代の4倍速対応SXRDパネルを採用する。特にソニー機のコントラスト改善効果は試作機でも明らかで、黒の再現力は目に見えて改善している。ステージの深みなど、実写映像での効果は著しい。ランプの明るさはソニーが200Wに対し三菱は230Wなので、単純に比較すると3D映像の明るさを確保するうえで三菱が有利ということになるが、光学系やアイリスの設計で大きく変わるので、最終仕様の製品を見るまでは結論は出せない。

ソニー、三菱ともにメガネの明るさ調整機能を内蔵しているが、この設定はシャッターの開閉時間をコントロールするため、クロストークや3D効果に影響が出る。具体的には、明るくしすぎるとクロストークが増えるなどのトレードオフがあるため、デプス調整機能と同様、コンテンツごとに最適な設定は変化するのだ。

家庭用プロジェクターの明るさは2D表示ではなんら問題ないレベルに到達しているが、3D表示では専用メガネ使用時に実感レベルで明るさが約半分になってしまうため、画面の暗さに慣れるにはある程度の時間がかかる。


VPL-VW90ES。コントラストは150,000対1を達成。
両社とも展示ブースの遮光を工夫し、ほぼ完全な暗室を作ってはいたが、明るい会場から入って数分間の2Dデモを見た後では、まだ目が慣れていない。個人差もあるし、コンテンツによっても違うのだが、私の場合、デモの後半でようやくスクリーンに深い奥行き感が生まれるのを実感したという状態だ。それはソニー、三菱どちらも同じで、両機種の明るさはいまの段階ではほとんど差がないという印象を受けた。

いったん目が慣れると、100インチクラスで見る3D映像の遠近感は、3Dテレビとはまったく次元が異なることに気付く。視野のなかで映像が占める領域が大きいうえに、スクリーン以外の部分は漆黒で、完全に映像に集中できるため、深い没入感が得られる。3Dテレビでは、コンテンツの作り方に問題があると作り物っぽい不自然さが相当に目立ってしまうことがある。一方、スクリーンでは完成度の高い立体映像と未熟な映像から受ける印象の差がテレビよりも数倍大きく、自然な遠近感のあるシーンを見ると、その素直な立体感がいっそう際立つようだ。

3Dプロジェクターのデモンストレーションが明らかにしたのは、投射型で画面が大きく、コンテンツの完成度が高いほど、立体効果がエモーショナルな感動を引き起こしやすいという、想像していた通りの事実だ。映画の3Dが人気を呼ぶのは確実な理由がある。

その条件をさらに突き詰めた極端な例の一つが、ソニーブースに用意された280インチLEDスクリーンの3D映像である。プレスカンファレンスで投影されたゴルフ場の映像と、ラン・ランがベルリンで収録した映像はなかでも圧巻で、シンプルな偏光メガネをかけた状態でスクリーンはきわめて明るく、十分なコントラストを実現している。デモ映像が投影された直後にラン・ラン本人がスポットライトを浴びて登場し、実際にその場でプロコフィエフの演奏を始めても、スクリーンは実際のラン・ランの姿に遜色ないほど明るく、立体感がある。本人がそこで弾いているのに、スクリーンの映像はその本物に迫るほどの強いインパクトを持っているのだ。


プロコフィエフのソナタ第7番終楽章を演奏するラン・ランと、その様子を3Dで映し出す
別の記事でもレポートした通り、話題性があるので3Dはどこでも注目を集めるが、いまの段階でも、本当に影響力のある立体映像はごく一部に限られるというのが、私がIFAの会場で実感した率直な感想だ。しかし、コンテンツと再生環境の水準が揃ったときには、3Dでなければ実現できない表現が紛れもなく存在する。今回のIFAでは、3D技術の奥の深さと難しさを同時に実感したのである。

山之内 正
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻し、在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。

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