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薄型テレビ全体でもトップ級の出来映え − 大橋伸太郎が見たプラズマ“Wooo”02シリーズ

公開日 2008/04/14 15:35
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先週の夜、地元の居酒屋で九州の某県出身の方と偶然隣り合わせて「○○県××市には、プラズマテレビの工場がありますね。去年行きました」と話したら、「へぇ、どの会社の工場があるのですか?」と訊ねられたので「○○社です」と答えたら、「そうですか。僕なんか、プラズマテレビといったら日立をまず思い浮かべますけれど」と彼はちょっと意外そうな表情を浮かべた。『ウーン、一般の方は、プラズマ・イコール・日立なんだ』と筆者は感心させられたのだった。

液晶まで幅広くラインナップし、決してプラズマにばかりイメージを収斂させないパナソニック、大画面と高画質化に注力してプレミアム路線を突き進むパイオニアに比べ、日立のプラズマテレビへの傾注は、ラインナップの豊富さ、用途提案、広告宣伝量で他社を上回っていたように思う。そうして、プラズマは日立、のイメージが出来ていったのだろう。

一方、薄型テレビが本格普及期に入って「憧れの商品」でなくなり、「テレビ」としていかに大衆の生活に密着できるかが勝負どころになった今、液晶方式に主流感が移ったのは否めない。テレビのプライベート志向が高く、昼も夜ものべつまくなしにリビングが明るい日本の家庭では、小画面から大画面まで対応し、明るい環境に強い液晶方式が有利だからである。調光した環境で映画に代表される高画質ソフトを見た時のプラズマ方式の画質の良さは誰もが認めても、テレビとしての使い勝手で液晶に負けるのである。

そうした趨勢の中、プラズマのリーディングメーカーである日立は、昨年末に液晶方式の意欲作、超薄型の「UTシリーズ」を発売した。昨年秋はプラズマ方式の新製品がなく、従来プラズマ方式が担っていた42V型までラインナップしたことからも、「日立は徐々に液晶方式にシフトするのか」と誰もが思ったに違いない。

●薄型テレビ全体でもトップクラスの出来映え

本日、日立が発表した「P50-XR02」「P50-HR02」「P42-HR02」の“02シリーズ”は、そんな懸念を吹き飛ばす、日立久々のプラズマテレビの力作である。昨年の足踏みがウソのような長足の進歩を遂げ(雌伏していたというべきか)、プラズマ方式の真価を見せ付ける秀作といっていい。

P50-XR02

P50-HR02(右)P42-HR02(左)

実は昨秋、日立の内覧で「これが来期の製品用のパネルです」とP50-XR02の試作機を見たが、日立およびFHPのプラズマ事業について、日経紙上の“パネル外販に特化”報道を始めとして様々な観測が流れ、商品化の時期が不透明だった。それが、五輪需要で薄型テレビ市場が沸き立ち、液晶方式の新製品が各社から続々と投入される今、挑戦状を叩きつけるように、02シリーズとして登場したのだから嬉しいではないか。

事実、02シリーズ、中でもフルハイビジョンの「P50-XR02」は、オーバーオールな画質において、薄型テレビ全体でもトップクラスの出来映えである。まず、ALIS方式を止めて、ようやく「黒」表現が最新のプラズマテレビらしくなった。筆者は現行機種のP50-XR01をソフトの評価用サブとして一年間自宅で使い続けているが、映像の高精細感、明るさ、情報量など優れた点が多いものの、映画ソフトを見る時に黒が沈み切らなかった。照明を真っ暗にするとプラズマ方式なのに液晶画面を見ているかのようだった。


セル構造をストレートリブからボックスリブへ変更した
日立の技術陣は、他社製品が一方でプラズマ方式が液晶に勝る特長である「黒」の表現を競っているのに、内心忸怩たるものがあったろう。ALIS方式は隔壁の水平方向に仕切りを持たない独自の構造ゆえに、発光が広がり消灯が完全にできなかった。今回の02シリーズは隔壁構造をAC型で一般的なボックス構造として、パネル内部の光漏れをなくした。また、1フレームの中のサブフレームのリセット回数を最小限にする「間引きリセット」を採用し、黒の輝度を低減した。さらに発光を誘導する誘電体に薄膜電極を採用し、ピーク輝度を下げることなく高いコントラストを実現した。その結果、コントラストは現在業界最高の30,000対1に達したと開発陣は胸を張る。

●深い黒とピーク輝度を両立したワイドレンジな映像

実際に視聴した範囲でもP50-XR02の画質は、よくできたプラズマ方式でしか味わえない映像、深く艶のある黒の沃野から葉が豊かに生い茂り、花が咲きこぼれるようなどっしりとして華麗な映像である。例えば、FPDベンチマークの“SWORD(刀)”を見ても、背景の黒の静かな落ち着きと純度、演武者の作務衣の色付きのない墨色に目が吸い寄せられる。

映画はブルーレイディスクの『あの頃ペニーレインと』『プレステージ』の2本を見たが、新パネル構造の霊験あらたかで、従来のALIS方式のWoooの持ち味であった映像の明るい部分の輝き感とあいまって、光から影まで映像が非常にワイドレンジである。フルハイビジョンらしい表現性とスケール感の豊かな映像を見せてくれた。

●高画質技術をさらにブラッシュアップさせた

基本画質以外にも、昨年来、改良が持ち越されていたいくつかの機能がブラッシュアップされた。フィルム系ソフトの24コマの中間コマを創成する「なめらかシネマ」は、フラグを検出してから中間コマを生成し、挿入を始める最初に、被写体が震えるような癖があったが、アルゴリズムを見直すことにより変換精度を向上させたという。これは、時間を掛けて多くのソフトで検証したい。

24p入力は、整数倍表示する96Hz駆動を新たに採用した。また従来の「スタンダードモード」に代わり「リビングモード」を採用し、明るい環境へより適した画質になった。さらに、昨年からずっと訴えてきたことが叶い、色温度はやっと3段階から「中低」「中高」を含む5段階になった。これは現代の映画を見る上で大きな強味である。ブルーレイのレンタル開始が始まる今、待望の改良といえよう。

「なめらかシネマ」はアルゴリズムを見直し、より精度を高めた

色温度は5段階から選択可能になった

「HDD内蔵派」の代表である日立は、一時期、録画用HDDを、着脱可能のiVポケットへと比重を移す構えをみせたが、今回同時発表の液晶テレビ「UT770シリーズ」と同様、プラズマテレビの02シリーズには250GBの内蔵HDDとiVポケットの両方が搭載されている。つまり、日立のテレビのいいところはそっくり継承、訣別すべきところは訣別し、第一級のプラズマテレビとしてフロントラインに立ったわけだ。

日立の新しい02シリーズ、特に「P50-XR02」は、「プラズマテレビといったら、日立を思い浮かべる」数多くの声なき声、エンドユーザーを裏切らない出来である。ライバルに追いついたといえるだろう。しかし、完全に追い越し、はるか先の次元に到達したとは言えない。パイオニアの最後の自社生産「第9世代」パネル搭載機も遠からず登場するはずだ。02シリーズの登場をきっかけにして、プラズマテレビの新たな切磋琢磨が始まることを期待する。

(大橋伸太郎)

執筆者プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。

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