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PR最先端の仕様を取り込み「ティアックの音」を革新し続ける

ティアック“Reference”シリーズ、10年を超えて。開発・企画担当者に訊く音作りへのこだわり

公開日 2022/07/04 06:30 構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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予想外の大ヒット? Ncoreを搭載したパワーアンプ「AP-505」



吉田 それで思い出しましたが、期待以上によく売れた製品を挙げるとしたら、「CG-10M」は2番目です。一番はパワーアンプの「AP-505」(2019年)です。

村田 「AP-505」、オレはずっと売れると思ってたよ!(笑)

吉田 開発陣は分かっていたみたいですが、セールス側からすると、プリメインアンプじゃないと売れないでしょう、みたいなところがあったんですよね。それ以前にも何度もパワーアンプやりたい、という話が立ち上がっては消えていたんです。実はこの開発のタイミングで、Hypexさんとコネクションができたんですね。Ncoreの開発者の方が興されたオランダのMola Molaってブランドありますよね。展示会であの音を聴いてめちゃくちゃ衝撃を受けて、Hypexにたどり着いたんです。

専用チューニングを施したHypex社製Ncoreパワーモジュールを初採用した「AP-505」。ステレオモードのほか、2台でバイアンプやBTL接続などでグレードアップできることも大きなトピック

ークラスDでここまでできるんだ!と。

吉田 それで海外のショウに出張したときに、オランダの担当者がHypexとつないでくれて。しかも、うちの音作りに合わせてカスタムできるよって言ってくださったんですよね。

ーーそんな背景があったんですね! 今とても感動しました。

吉田 そこまで行ってもまだなお社内的にはプリメインアンプのほうが期待値が高くて。生産台数もそちらを多めに見ていたのですが、でも発売になってみたら、パワーアンプが予想以上に売れまして。

村田 同じシリーズの中で見ると、「UD-505」や「NT-505」(2018年)はプリ機能を持っているので、プリがかぶっちゃうんですよね。

2018年発売の「UD-505」(上)と「NT-505」(下)。「UD-505」は4.4mmヘッドホン端子「Pentaconn」を搭載、「NT-505」はOpenHome/RoonReadyに対応するなど、時代の先端を貪欲に切り開く姿勢は継承され続けている

吉田 アナログ入力が必要な人にはプリメインの「AX-505」(2019年)を使っていただいた方がいいんですが。でも、新世代のオーディオファイルやPCオーディオから入って来た人たちは、あまりアナログの入力の機能を求めていない人も多いようです。「UD-505」と「AP-505」の2つというシンプルな構成だけど、トールボーイスピーカーも鳴らせるぞ、という使い方をしていただいた方も多いみたいです。

スペックだけでは音は決まらない。「PE-505」開発裏話



ーーフォノイコライザー「PE-505」(2020年)の登場もかなり衝撃的でしたね。

吉田 これは苦労した製品でした…。開発の担当者がめちゃくちゃ奮起して、86dB(バランス時)っていうS/Nを実現できたんですよね。この価格帯ではありえないですし、上位機種でもなかなか実現できないレベルです。フルバランスの回路構成で、しかもRIAAカーブ以外にも複数のカーブを選べるようになっています。そういった仕様面での追求も難しかったのですが、音にホントに苦労しまして…。

後述の「TN-5BB」とセットで登場、MCカートリッジのバランス出力に対応した「PE-505」。RIAA以外にもDECCA、COLUMBIAカーブに対応、サブソニックフィルターや消磁機能の搭載など、アナログ再生にも最新アイデアが盛り込まれている

ーーというと?

吉田 スペックをとことん追求したのは良いのですが、逆に音としては少し違うんじゃないか? というところが出てしまって。最後の最後で、一番大事なところは音でしょうってどんでん返しがありました。スペックさえ良ければよいのではなく、最終的には出音とのバランスなんだな、ということを改めて考えましたね。

村田 えてして技術者っていうのは数値を良くしたがるですよ、S/Nとか歪み率とか、いい数字を出そうと思っていろいろ工夫をしてくれるんですが、それが音に良いことばかりではなくて(笑)。そういったスペック値は、音楽データのほんの一部分しか見てないんですよね。たとえば1kHzの正弦波でこういう結果が出ます、ということは分かっても、実際の音楽の波形はそうじゃない。今の測定の環境では表現できないところがあるんです。そういったところをつき詰めていくと、結局耳で判断するしかないんです。

ーー電気の教科書に書いていないことばっかりをやることになりますね。

村田 でもそれが面白いところでもあります。オカルトみたいなこともありますし、技術者も首をかしげることも多くある。でも、こっちの方がやっぱり音がいいよっていう積み重ねがあって、ティアックの音というのがあると思っています。

吉田 これ実は一回発売延期してるんですよね。社長にも相談して、特性は良いんだけど音がどうしても…という話をしたら、「いいよ発売遅れても。でもちゃんと納得できるものを出してね」って言ってくれたので救われました。

ーーなんという懐の広さ! ティアックブランドとして、根幹に徹底した音に対する探究心があるってことですね。

吉田 当たり前のことですけどね。やはり音をやっている会社なので、そこでお客さんの信頼は裏切れないし、胸を張って聴いていただけるような製品にしないといけません。音の感性というのは一朝一夕に身に付くものではありませんが、音楽を愛している人、実際に生音にもよく接している人たちが集まっているおかげで、こういう製品作りができているということはすごく感じますね。

ーーそれは本当に説得力はありますね。たとえばデジタルだったらDSD11.2MHzが再生できるとか、そういうスペックも大事なんですけど、やっぱり最終的には人間が聴いた音楽の楽しさみたいなものに帰ってこないと行けない。

吉田 おなかにぐっとくる、そういう感じはやっぱり常に突き詰めていくべきところと思いますよ。

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