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自身のスタジオでTD712zMK2を使用

BOOM BOOM SATELLITES 中野雅之さんが語る、ECLIPSEをモニタースピーカーとして使う理由

公開日 2018/04/17 11:01 聞き手/構成:編集部 小澤貴信 PHOTO:君嶋寛慶
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低域が“見える"こと。重なる複数の音を1枚絵で見せてくれること

ーー こちらのスタジオに移ったときに、スピーカーはTD510MK2からTD712zMK2へと変更されましたが、理由はなんだったのでしょうか。

ローエンドをさらにハンドリングしたかったのです。TD510MK2の限界はそこにあったのです。実際に使ってみて、TD712zMK2の方がローエンドの伸びは圧倒的によかった。TD510MK2はある帯域までのバランスは本当に優れていて、音楽的に鳴らしてくれますが、やはり作り手としてはその先にある音が見たい。それを見て、コントロールしないといけない。ローエンドが掴める感覚を備えているのはとても貴重です。

ーー ECLIPSEはTD712zMK2を含めてフルレンジスピーカーですから、ローエンドという観点ではむしろ不利だという考え方もあるかと思います。

TD712zMK2は、カタログスペックでは再生下限が35Hzですが、実際にはもう少し下の帯域まで“見える"のです。感覚として掴める、とも言ってもいいでしょう。

このサイズや12センチ口径のユニットを考えると驚異的なことですが、独特の形状によって共振が少ないことも影響しているのでしょう。バスレフ型の場合、バスレフポートを40Hzに設定すると40Hzまでフラットに出るけれど、その下がスパッといなくなるということがあります。プロ向けのモニターでもよくあることです。しかしTD712zMK2の場合は、低域がスーッとだら下がりに続いている感じなのです。傾向としてはTD510MK2も同様で、最低域がすごくナチュラルです。

最近は映画のサウンドトラックやテーマ曲を手がけることもありますが、映画館のスピーカーだと10Hzまでフラットに出たりしますので、当然そういう音も見据えています。10Hzや15Hzまでフラットに見ていこうとしたら、サブウーファーを使うのが手っ取り早いかもしれないですが、一枚絵で見せてくれる魅力というのは失われてしまうでしょう。

ーー ちなみにこちらのスタジオでは、どのようなアンプでTD712zMK2を鳴らしているのでしょうか。

アンプはLINDELL AUDIO(リンデルオーディオ)のものを使っています。このアンプはヤマハ「NS-10M」というレコーディングスタジオでかつ定番だったパッシブスピーカーを駆動するために設計されたものです。フラットでダンピング特性が良くて、色付けがない。一方でクラスA回路でしっかりとした密度があるという。すごくソリットなアンプです。



ハイレゾはそもそも聴こえない高域を伸ばすためのフォーマットではない

ーー BOOM BOOM SATELLITESでは、ハイレゾ音源でのリリースも積極的に行っていました。ECLIPSEのスピーカーでハイレゾ音源を再生した際の印象はいかがでしょうか。また、ハイレゾについてはどうお考えですか。

これはハイレゾリューションについての根本的な話になりますが、僕ぐらいの年齢では、実際に聴こえている帯域の上限は16kHz程度なのですね。年齢もあるので、日々、自分が何kHzまで聴こえているかチェックしていますが、僕は年齢にしては比較的優秀なほうで16kHzまで聴こえています。20代なら20kHzくらいまで聴こえるでしょう。もちろん個人差もあります。

CDフォーマットの再生可能帯域の約20kHzというのは、人間の可聴範囲を元に決められています。一方でハイレゾは人間が聴こえない帯域まで再生できますが、だからといって聴こえない高域を伸ばすためのフォーマットではありません。解像度を高め、時間軸の精度を上げることで、より情報量が増えるというのがハイレゾの本来の意図です。

また、情報量が増えるとより自然界に近い音色を鳴らすことができます。この部屋の窓を開ければ、風の音から鳥の鳴き声まで上限のない高い周波数が存在していますが、デジタルでは一定の帯域でこうした情報がスパッとなくなります。これにはある種の不自然さが伴い、それを回避するためにハイレゾがあるわけです。

ハイレゾのフォーマットで作品を出すときにマスタリングを変えるケースもありますよね。解像度の高さや自然さを活かすためにダイナミックレンジにより余裕を持たせて、より音量の低い作品にするのです。

ただ、僕はこういうアプローチはあまりやったことがありません。ロックバンドだと、それがあだになることもあるのです。音圧が高く入ってくることで曲のテンションが上がるというときに、ハイレゾだからと音量を下げると、“上がってこない"曲みたいになってしまいます。これは悩ましい問題です。

スピーカーの話に戻ると、ECLIPSEは音源の素性をそのまま見せてくれるスピーカーなので、それがMP3のような圧縮ファイルであれ、ハイレゾであれ、その違いをはっきり描き分けます。スピーカーに脚色がないとうことは、すごく信頼できることだと思っています。

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