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25周年記念ボックスセットの選者に訊く

「ヴィーナスレコードは日本に“ジャズのパラダイス”を作った」 − 評論家・山口孝氏が語る25年

季刊オーディオアクセサリー 編集部

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2018年02月20日

自分でマスタリングをするプロデューサー

−−海外録音で、全員ミュージシャンは外国人で、ということから、失礼ながら、原さんによるプロデュースは、全部でないかもしれないとも思っていました。しかし、皆、Produced by Tetsuo Haraとクレジットされている。


山口氏の自宅の音楽室「鈴庵」にてインタビュー
山口 もちろんですよ。そうでなければあそこまで音にこだわらないと思いますね。彼はプロデューサーでありながら、自分で全部ミキシング、マスタリングするんです。録音したエンジニアの耳ではなくて、目の前で自分が聴いた音をジャズファンに届けたい一心なんですよ。このレーベルのコアになる部分です。

彼は絶対に譲らないもの。僕は結構言うんですよね。あのバランスは良くないんじゃないか、とかね。ベースが真ん中に来たら、ピアノはこうあるべき、ドラムスはこうあるべきとか言うわけです。ところが彼には絶対的な確信があるわけ。考えてみたら当たり前のことですよ。だって彼は、それを録ったニューヨークのスタジオにいたんですから。一方僕は、自分のオーディオで聴いた時のバランスだけで言うわけ。

−−原音とは何か、と質問をした時、原さんははっきりと「スタジオで聴いた音です」と答えましたからね。この質問に明確に答えられる人なんて、そうはいません。

山口 それがオーディオ界における最大の功績と言えるでしょうね。原さんも習熟するのに時間がかかったと思いますが、デフォルメされたり、誇張されている音じゃないんですよ。音楽そのものが持っているダイナミズムとか、音楽そのものが持っている透明感とか、柔らかさとか、とても自然なわけ。もっと突き詰めた言い方をすると、音楽そのものが何の着物も着ないでいる。僕らは“音楽の裸身”を見ているわけ。

もうひとつ、ヴィーナスの音はデジタルエイジの申し子だということ。コンピューターで音楽を作る世代にいる。自分が原音とは何かというのがはっきりしていれば、今のデジタルの力でもって限りなく広げていけることを知っている。SACDを出すようになってからなんて、本当に素晴らしい。今回の25枚のUHQCDのマスタリングは、本当にヴィーナスの最新形。ここのところ、機械を刷新していますからね。こんなにいい音をCDで聴いたことはないというくらい素晴らしい音なんです。それに輪をかけた仕上げとして、UHQCDを選びなさいと私は申し上げた。一番いいCDの器に盛ってあげたかったから。

−−今回のボックスセットはUHQCD。ここ数年、ヴィーナスはSACDシングルレイヤー化に力を入れてきましたが。


山口 原さんは、SACDシングルレイヤーを月に4枚も出す。急ぐかのように。しかしSACDシングルレイヤーはSACDプレーヤーを持っている人しか聴けない。だから、分かる人に分かってもらえればいいと思っているわけさ。いつか自分が死んでからも、これを評価してくれる人がいればいいとも思っているんじゃないかな。それに対して、UHQCDはCDプレーヤーでも聴ける、最高の容れ物だということです。メモリーテックが、ガラスCDを作った時の技術を応用して作った今最高のCDですから。

ジャズ音楽の特質や魅力をオーディオで表す

―山口さんにとって、今回選んだ25枚とは?

山口 今回の25枚は、エポックメイキングなものや、僕の自分の人生の中での出会いのひとつになったものとか、いろんな角度で選びましたね。原さんが選ぶべきものなのに、僕に選んでというんだもの。ひとつ言えるのは、どんなジャズファン、もっと言うと、ジャズを聴かない人に聴かせても純粋に楽しめる、納得せざるを得ない音楽であるということです。僕のセレクトには、ヴィーナスを代表するエディ・ヒギンズは1枚しか選んでいない。2枚選んだのは、ニッキ・パロットとビル・チャーラップ。ビル・チャーラップはいまやビッグネームだけど、ヴィーナスで録った時には及ばないもんね。音楽の偏りとか、好き嫌いを超えるものなんですよ。そういう録音がされた25枚なんです。

右がエディ・ヒギンズ。左がスコット・ハミルトン

ニッキ・パロット

―−ピアノトリオのほか、サックスのリーダーアルバムも多くて、しかもベテランの奏者と新進気鋭の奏者を取り上げているところも聴きどころですね。

山口 ベテランは輝いているし、新鋭は非常に瑞々しいよね。僕はジャッキー・テラソンの『ラバー・マン』の「ドナ・リー」を聴いて驚いたけれど、あれを録った3日後に、テラソンはモンク・コンペティションで優勝してしまった。原さんの方が先に録ったというところがすごい。

ジャッキー・テラソン

僕は、『ジャズオーディオ宣言』という本を書いたことがあるんだけれど、その言葉の意味は、ジャズという音楽の持っている特質を分かった上で、オーディオを鳴らしていくことなんだ。ジャズとはスウィングすること。ハーモナイズすること。ある意味突出性がなければならないこと。アドリブしているソロイストが前に来なければならない。

もっとも重要なことは音楽に感動する力、要素がなければならない。これは原さんの「原音」の話と矛盾しない。そこで感じ取った全てのエネルギーと空気、全部を注ぎ込むことだ。単に音だけのことではなくて、そこで出会った人間同士のコミュニケーションだったり、その空間で共に息を吸っているミュージシャンと自分の関係だったり、ニューヨークという空間だったり。それらを全てオーディオで表現すること。それがジャズオーディオですよ。

ディノ・ルビノ

−−今回の25枚のCDを聴き直しましたが、ジャズっていいなぁと思いましたよ。スウィングするって楽しい。突然、大人の音楽の趣になったりするところもいい。

山口 ジャズは成熟した大人の音楽なんですよね。そしてヴィーナスは、原さんの人間的な成熟が音楽の中に入っていると思う。

“音楽とは女性”、なんというロマン!

−−最後に「ヴィーナスレコード」というネーミングについて、どんな印象をお持ちですか?

山口 ヴィーナスレコード、アイコンはボッティチェリのヴィーナス。原さんの品性や人間性が生む、女性に対する優しい思いやロマンティックな思いというものは、彼が愛するジャズへの思いと矛盾するものではありません。

音楽とは女性、ミューズ、母性なんです。ボッティチェリは女性の全身ヌードを初めて描いた人で、母性に行きつく。母性とは芸術の原点ですから。

−−オーディオアクセサリー167号(2017年11月21日発売号)には、原社長と山口さんの思いの詰まった『VENUS PREMIUM 25』から抜粋した9曲を付録にいただきました。ぜひヴィーナスレコードへの理解が深まり、アルバムやボックスをお求めいただく方が増えてくれれば嬉しいです。山口さん、今日はありがとうございました。


VENUS RECORDS PREMIUM 25
25TH ANNIVERSARY


★オーダーできます★
aa@ongen.co.jp 件名を「ヴィーナスのオーダー」にし、本文に氏名、連絡先、ご住所を明記の上、メールしてください。
問い合わせ先:オーディオアクセサリー編集部 TEL 03-3255-3439

●UHQCD25枚+特典UHQCD1枚
●特典は2017年のイゾラ・ジャズフェスティバルのライヴ音源を収録
●250ボックス限定
●ダブル紙ジャケット仕様
●監修、ライナーノーツ執筆: 山口 孝
定価¥50,000(税込) 規格番号: VP-25-1〜25 シリアルナンバー入り/発売日: 12月13日発売/販売: ディスクユニオン
●収録アルバム
1. VHGD-1/VHCD-78038 エディ・ヒギンズ&スコット・ハミルトン/煙が目にしみる
2. VHGD-8/VHCD-78055 ビル・チャーラップ・トリオ/ス・ワンダフル
3. VHGD-12/VHCD-78090 リッチー・バイラーク・トリオ/恋とは何でしょう
4. VHGD-19/VHCD-78280 ニッキ・パロット/思い出のパリ
5. VHGD-33/VHCD-78169 ブライアン・リンチ・アフロ・キューバン・ジャズ・オーケストラ/ボレロの夜
6. VHGD-41/VHCD-78062 フィル・ウッズ・ウィズ・ストリングス/スリル・イズ・ゴーン
7. VHGD-44/VHCD-78037 ニューヨーク・トリオ/夜のブルース
8. VHGD-49/VHCD-78147 アーチー・シェップ・カルテット/ブルー・バラード
9. VHGD-52/VHCD-78020 エリック・アレキサンダー・カルテット/ジェントル・バラッズII
10. VHGD-70/VHCD-78060 サー・ローランド・ハナ・トリオ/ミラノ、パリ、ニューヨーク 
11. VHGD-71/VHCD-78251ニッキ・パロット & ケン・ペプロフスキー/ライク・ア・ラバー
12. VHGD-83/VHCD-78278 ニコラ・モンティエ&サキソマニア/ララバイ 
13. VDGD-86/VHCD-78061デヴィッド・ヘイゼルタイン・トリオ/クレオパトラの夢
14. VHGD-126 /VHCD-78181 ジミー・スコット/オール・オブ・ミー ジミー・スコット ライブ・イン・トーキョー 
15. VHGD-129/VHCD-78030 シダー・ウォルトン・トリオ/ミッドナイト・ワルツ 
16. VHGD-142/VHCD-78161 エンリコ・ラバ/ルネッサンス 
17. VHGD-147/VHCD-78095 バルネ・ウィラン・トリオ/ニッティー・グリッティ
18. VHGD-151/VHCD-78117 ジャッキー・テラソン・ジャズ・トリオ/ラバー・マン 
19. VHGD-191/VHCD-78073 ピーター・バーンスタイン+3/ストレンジャー・イン・パラダイス 20. VHGD-201/VHCD-78076 富樫雅彦&JJスピリッツ/ソー・ホワット 
21. VHGD-202/VHCD-78173 ディノ・ルビノ/君に恋して 
22 VHGD-213/VHCD-78045 ジョー・ベック・トリオ/ガール・トーク
23. VHGD-214/VHCD-78016 ジョン・ディ・マルティーノ・ロマンティック・ジャズ・トリオ/マジカル・ミステリー
24. VHGD-223/VHCD-78137 フランチェスコ・カフィーソ・カルテット/天国への7つの階段 
25. VHGD-250/VHCD-78299 /マッシモ・ファラオ&アルド・ズニーノ/ボヘミア・アフター・ダーク

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