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ソニーのDNAはあくまでBtoC

<CES>ソニーはどこへ向かうのか? 8K、AI、ロボティクス…平井CEOが語る将来展望

2018/01/11 編集部:小野佳希
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米国ラスベガスで開催されている2018 International CES。ソニーの平井一夫CEOは一部記者団からのグループインタビューに応じ、今回発表した新製品群や同社や業界の将来展望について語った。

ソニー 平井CEO

平井氏は、前日に開催したプレスカンファレンスで発表した新製品や新技術について振り返りながら、「エレクトロニクス製品は苦しい時期もあったが、当社の業績を下支えできるところまで回復してきた」とコメント。同社にとって新たな事業領域となるAIやロボティクスも今後積極的に推進していく考えを述べた。以下、記者団との一問一答を紹介する。

■オーディオビジュアル関連

−− 次世代映像プロセッサー「X1 Ultimate」の展示では8Kデモを行っているが、日本では8K実用放送が今年2018年に開始される予定だ。実際の商品もここに合わせることを目標にしているのか? それとも2020年など、もう少し先を見ているのか?

今回の展示では一番上位の活用法として8Kの展示を行ったが、あれがすぐ商品化するということではなく、「もうここまでできるんだ」というところを捉えていただくというのがポイントかなと思う。

対コンシューマーという観点で言えば、4Kがようやくかなという段階。4Kをお客様に届けることもまだ難しいなか、8Kテレビを打ち出していくのはまだちょっと早いかなと思う。まずは4K HDRを進めるのがお客様にとってもいいのではないか。4Kの需要を刈り取り終わっていないのに「次は8Kです」と言い過ぎるのは、業界にとってだけでなく、お客様のユーザーベネフィットという観点でも良くないのではないかと思っている。

ただ、8Kチップセットは当然ながら4Kにも対応できる。コンテンツ制作側から見れば、今からもう8Kで作っておいて、実際にはHDや4Kで届けて、将来的に8Kで提供できるように環境が整ったら改めて作品を8Kで提供する、というやり方もあるのではないか。

−− 以前、薄型テレビの次はオーディオへ注力するというコメントがあったように思う。ハイエンドオーディオ分野は今後どうしていくのか。

規模は小さいが非常に重要な市場だと考えている。高級オーディオについては、あまり頻繁にモデルチェンジしてほしくないという個人的な考えもある。ハイエンドオーディオファンの皆さんも、いいと思ったものはコロコロ変わってほしくないだとか、じっくり続けてほしいという思いを持っていらっしゃる方が多いように思う。ハイエンドオーディオをシュリンクさせるつもりはまったくない。腰を据えていいものを提供していく。

■AIを活用した製品開発について

−− AV領域でのAI活用はどう考えているのか。

音作りや画作りへの活用という考え方もあるかもしれないが、それよりも、ユーザーの好みにあったコンテンツやジャンルのレコメンドのヒット率を高めるといった活用がいいのではないかと思う。同じ配信サービス内だけのレコメンドではなく、ローカルに保存しているカタログもうまく整理し、めぐりあいを提供できるようなものするといいのではないだろうか。

また、将来的にユーザーからのフィードバックもできるようになれば、例えば「赤をもっと鮮明にしたい」だとか「2万ヘルツ以上をもっと出そう」などといったAI活用もできるかもしれない。

−− 今回、イヤホンでのGoogleアシスタント対応も発表された。イヤホン/ヘッドホン分野でどうAIを使っていくのか。

今回のものは、AIの活用と言うよりもユーザビリティを高めるために使っているという認識だ。ヘッドホン、オーディの機能向上は常に考えていて、これからも追求していく。

−− 現在、ソニー製品ではGoogleアシスタントを採用しているものもあれば、「Xperia Hello!」のように独自のAIを採用しているものもある。そうした部分の住み分けはどう考えているのか。

その商品がどういうものとつながっていくのかを考えて、ベストなものを採用していく。例えばaiboではスタンドアローンに近いので自分たちで作ったAIでいこうなど、総合的に判断している。以前のソニーは、ややもするとなんでも自前でやろうとしていたが、もうそういう時代ではない。オープンマインドになってきたのかなとも思っている。

−− 今年のCESは全体的に各社とも音声アシスタント関連の出展が多い印象を受けるが、ソニーでは音声アシスタント市場をどう見ているのか。

素晴らしい機能だと思う。しかし、AIが独り歩きしてはいけない。まず製品の基本性能でソニーらしさを追求できてこそ、それからAI活用による顧客体験を提供できると考えている。AIを先に考えるのではなく、まず商品自体の強みを追求した上で商品力強化のために音声アシスタントがあるという考えだ。

−− AI関連のパートナーとしてはGoogleが中心になるということか?

まずはGoogleさんと関係を深めてやっている。ただ、将来的にそれだけに閉じるものではない。

−− 「aibo」は海外展開も行っていく考えなのか。

日本での発表時に、かなり海外でも話題になったので、実際に海外の皆さんにも体験していただきたいという思いから今回のCESで紹介した。日本人の感性だから可愛いと思えるのか、海外の人からも可愛いと見てもらえるのか、そのリアクションを見たいという思いもあった。リアクション次第では当然ながら海外でもやっていきたいという思いはある。

ただ、かなり製造に時間がかかる商品であり、うれしいことに日本で完売が続いているので、まずは日本の需要をちゃんと満たした上で、生産力がアップして確実に台数確保できる状態にしてから発表しないといけないと思っている。

■スマートフォン事業

−− スマートフォン事業は今後どうやって伸ばしていこうと考えているのか。

シェアや台数を追うよりも、利益を出すことが大切だ。ソニーの将来戦略にとって、スマートフォンというだけでなく“コミュニケーションビジネス”と捉えることが重要と思う。

人間がテレパシーでコミュニケーションできるようになるまでは、遠隔コミュニケーションには必ず何かしらのデバイスが必要になる。どこかで来るであろうパラダイムシフトを自ら作るくらいの意気込みでいないといけない。

現状でもスマホは“ラストワンインチ”以上に近いところで使ってもらう商品であり、このビジネスは非常に重要だ。そのためにも、キャリアを始めとする各社との関係をキープしていかないと次のパラダイムシフトが来たときにやりたいことができない。そのようにコミュニケーションビジネスの重要性を考えている。

−− Xperiaについて、もう少し近い将来についての考えを聞きたい。業界的には富士通がスマホ事業の売却を考えているなどといった話も出ているが?

まずは富士通さんとの話も、もちろん他社との話も現時点では一切何もない(笑)。直近のビジネスを伸ばしていく施策としては、ユーザーに評価してもらえる機能をどう搭載するかだったり、コストダウンをどううまくやるか、返品をいかに少なくするか、そして人件費をどうするかなど、どれも地道なことが重要であり、そこに秘策はない。また、「Xperia Hello!」など周辺機器、つまりスマホ以外でどう収益を上げていくかが重要かなと思う。

−− 他社の話題では、シャープが3万円程度の端末を投入して好調だ。そうした格安スマホ端末などのラインナップ予定はどうなのか。

地域や市場によっていろんな考え方がある。今回もミッドレンジ機(Xperia XA2/XA2 Ultra)を発表したが、あまりにローエンドのほうは台数で利益を確保するビジネスなので、現時点ではそこを積極的にやっていく考えはあまりない。

−− Androidが世に出て10年たったが、ソニーとしてAndroidの広がりをどう受け止めているのか。

OSの部分に対して投資するのではなく、違う部分での差異化という課題を突きつけられた10年だった。それはソニーの商品にとって悪いことではなかったと思う。

OSという点で、今の段階でAndroidに変わるものをソニーが作ろうとは考えてない。一方、プラットフォーム論的な観点で言えば、例えばプレイステーションについては非常に順調に育っており、日本が誇るものであるとも言えるので、投資をして強くなっていくのがソニーの責任だと思う。

■センシング技術活用での自動車関連事業参入

−− センシング技術を自動車関連事業に活用する件について聞きたい。この事業をどう拡大していくのか。

具体的には控えたいが、自動車作りそのものに入っていくのでなく、センシングの部分で貢献していこうということだ。ただ、各社との協業で検討していかねばならないことも多く、半導体事業の利益に直結するビジネスになるのはまだまだ先だだろう。

−− 自動車関連事業では、将来的どのくらいまで踏み込んでいくのか。単純に半導体を売っていくということなのか、それとも何かパッケージとして売っていくという考えなのか。

単純なセンサー供給だけではそれ以上のバリューにならない。ソニーのセンサー技術プラスアルファで売りになるものがないと、協業する相手にも魅力がないのではないか。例えばスマホでもセンサーを各社に供給しているが、先方が「こういうことをしたいんだけど」という要望に我々の技術で協力しているというやり方だ。ただのサプライサーになるだけではだめだと思っている。

−− どの車にも使われるくらいの圧倒的な立場になりたいということなのか。

もちろんマーケットリーダーにはなりたいし、それだけの技術力は持っていると自負している。そのために各社とどのように協業していくのかが重要になるだろう。また、自動車以外では東京五輪に向けて監視カメラなどでもセンサーの需要が高まるかもしれない。センサーを評価していただける場には積極的に入っていきたい。

■ソニーが抱える課題と将来戦略

−− コンシューマー製品について、この年末商戦の総括を聞きたい。

具体的には第3四半期の決算会見で発表するが、PS4はかなり好調な年末商戦だった。PSNも堅調だ。全般的にテレビ、オーディオ、デジタルイメージングも含めて堅調な年末商戦だったかと思う。

ただ、ご存知のように、エレクトロニクス製品は第4四半期が鬼門。市場在庫調整があるのかないのかなど、社外の事情も関係してくるからだ。緊張感を持ってやっていく。また、目標を達成できたとしてもゼロリセットして次もやっていかないといけないと改めて思っている。

−− 将来の成長戦略について聞きたい。半導体ビジネスのようなBtoBと、コンシューマー向けのBtoCの配分をどうしていく考えなのか。

BtoB比率が若干上がるかもしれないが、意図的にBtoCを縮小してBtoBに振っていくということはない。お客様に直接お届けするコンシューマー商品がソニーのDNAであり、重要視している。ソニーはコンシューマーを大事にしていくというのが私の強い意志だ。

成長のための投資と観点では、直近ではあまり大型の投資案件は出てこないと考えている。昔はLCDやパネルに大きな投資が必要だったが、今はそこはやっていないし、コモディティ化している。今はチップセットが差異化のポイントなので積極的に投資しているが、パネルから比べると投資の規模が全然違う。

投資が引き続き大きくなるのは半導体だろう。数千億規模が必要だからだ。成長ドライバーでもあるので、その成長にあったキャパシティアップを行っていく。


−− ソニーの一番の課題は何だと思っているか。その解決に向けて何をしているか。

直近の事業の課題ということでは、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントを確実にターンアラウンドすることがまず重要だ。幸い、2017年はスパイダーマンやジュマンジ、ブレードランナーなど良いタイトルがあった。これを来年以降もどう継続していくのかを考えないといけない。また、スマートフォン事業もコスト改善が課題だ。

ただそれ以上に、私の視点から課題だと思うのは、まだ年度は終わっていないのに社内は“ビクトリーラップ状態”な雰囲気を感じる。ここまで頑張ってきたのにここで気を緩めてしまってはいけない。「まだ第一四半期まで、第二四半期までしか終わってないんだよ。また苦しかった数年前に戻るんですか」と、ことあるごとに社員には伝えている。

今年度はこのままうまくいくと、昨年度から3,400億円ほど業績は上がるが、地震の影響などを除外すると実は1,200億円くらいが実力。しかもその半分が為替の影響だ。その内容を伝えて、だから頑張らないと、ということを常に社員に伝えていっている。社内では若手社員とおやつを食べながら議論する取り組みを行っているのだが、そうした部分はきちんと認識してくれているかなと思う。

−− 次にチャレンジしていきたいとことは何なのか。

私は業績が苦しい中で就任したが、「いつかこれをやりたいよね」ということを考えないと将来はないと思っていた。そのためにTS事業部(Life Space UX)やSAP(新規事業創出プログラム)などを起ち上げてやってきた。

aiboの復活も、自分の夢、ソニーの復活の象徴として、元AIBOの人たちともいろんな議論してきて、1年半前に「ここまで来たらやるしかない」と決めた。ソニーらしいなと思ったのが、現場にいくと何時にいっても社員が目を輝かせて開発している。好きなようにやってくれと言ったら1年半であそこまで作り込んでしまうのには本当に凄いなと思った。aiboの次も、またおもしろいものができるのではないか。ソニーの社員は「こんな商品をここまでに」という目的があると非常に強い。

CESは、主催者がCEA(Consumer Electronics Association)からCTA(Consumer Technology Association)に名前を変更してしまうくらいに、「これからはエレキだけじゃないよね」となっていて、ここ数年は車メーカーがかなり増えている。

エレキメーカー各社は、ややもすると、もっと同じ方向を向いていたような気がするが、各社で向かう方向が違ってきているなと感じる。それは決して悪いことではない。自分たちの持つ資産をどう活用するかを徹底的に考えると、みんなが同じ方向にいくはずがないのだから。そのような動きはいいことだと思う。

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