HOME > インタビュー > 記事

インタビュー

SOUND CREATE LOUNGEの話題のイベント「オーディオ哲学宗教談義」

【対談】オーディオは本当に進歩したのか<第2回> 哲学者・黒崎政男氏と宗教学者・島田裕巳氏が語る

季刊analog編集部

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ

2017年12月14日


SPからLPへ。アルバムとはそもそも何か

黒崎 では次にジャズ・ピアニストのバド・パウエルをかけます。バドってお好きな方いらっしゃいますかね。55年に『アメイジング・バド・パウエル』というレコードが出ました。超有名なジャズの入門盤。当時はこれを聴かないとジャズ聴いていると言っちゃダメみたいな。

ところが冒頭から物凄く難関があってですね。「ウン・ポコ・ローコ」という彼の名作がA面の1、2、3に入っているんですよ。テイク1、テイク2、オリジナルなんです。3連発で聴かされる。そんなに心地いい曲ではないんですけど、ちょっと聴いてみましょうか、

島田 バド・パウエルといえば秋吉敏子さんの憧れ? 秋吉さんが黒崎邸に一度お見えになったとか。

黒崎 そうです。遊びに来て私がSPでパウエルをおかけしたんですけど、「バァド・パァウエル!!!!!」って超喜んでいらっしゃいました。この様子は秋吉さんのデビュー70周年記念のNHK TV BS 「TOSHIKO〜スイングする日本の魂」で放映されました。(2016年3月)


島田裕巳氏(左)と黒崎政男氏(右)
〜1955年のLP盤 バド・パウエル『アメイジング・バド・パウエル』より「ウン・ポコ・ローコ」試聴〜


1955年のLP盤 バド・パウエル『アメイジング・バド・パウエル』
黒崎 メロウでゆったりするリズムじゃないんですよね。気迫と緊張感。でもジャズに入るためにはこの3曲の「ウン・ポコ・ローコ」を越えなきゃいけなかった。聴いているうちにちょっと無理だなと思ってB面にするとですね、今度は「ナイト・イン・チュニジア」の2テイクから始まるんですよ。みんなそこでがっくりしちゃって、「俺はもうバド・パウエルはだめだ」とか、「俺は超えた」とか。この3連発を聴かなきゃ意味がないんだという……。

しかし、実はこのLP版『アメイジング・バド・パウエル』はSPレコードからの作り上げなんです。1949年に一度録音して、1951年に2回目を録音して、53年に録音したのをごちゃごちゃに混ぜたアルバムなんです。

島田 「ウン・ポコ・ローコ」は?

黒崎 51年に録ったものを全部並べちゃったんです。


1951年録音「ウン・ポコ・ローコ」単体のSP盤
でも、一番はじめに録音したのは1949年の「バウンシング・ウィズ・バド」。五重奏で録音している。それはバドとファッツ・ナヴァロ(トランペット)と、ソニー・ロリンズ(テナーサックス)と。それから他の2人なんですね。

ちょっと私もびっくりしたんですが。49年に出ているSPが手に入ったんですよ。バド・パウエルは実はたくさんSPレコードがあって、黄色と青のものがオリジナルの盤です。この49年に録音していたのが『バウンシング・ウィズ・バド』。五重奏で3分しかないので、ソロは10秒くらいとっています。バド・パウエルがなかなかいいピアノをやったあとに、ソニー・ロリンズがやります。ソニーがものすごく若い時で、固い音なんですけど、「あぁ、このときからソニー・ロリンズだ!」という感じです。55年のLPのアルバムの元になった、49年のSPの『バウンシング・ウィズ・バド』です。

〜49年SP盤 バド・パウエル『バウンシング・ウィズ・バド』試聴〜


1949年SP盤 バド・パウエル『バウンシング・ウィズ・バド』
島田 ブラウン・ローチ・クインテッドにそっくりだね。演奏の仕方が。

黒崎 そう!後の『ソニー・ロリンズ plus4』(1956)を彷彿とさせます。で、この『バウンシング・ウィズ・バド』が55年の『アメイジング・バド・パウエル』のB面の最後から2番目に入っているわけです。だからこのアルバム、ジャズファンには鬼門であり、登竜門でありという感じであるにも関わらず、実は極めて恣意的なんです。それでこれがLPのオリジナルかと思ったらとんでもない、なんとびっくり、実際は51年に10インチでLPが出ていた。

それを12インチに作り直したとき(55年のアルバム)に「ウン・ポコ・ローコ」を2つくっつけたんです。

こちら(10インチ)は「ウン・ポコ・ローコ」は1曲しか入っていない。しかも「ウン・ポコ・ローコ」のあとが「オーバー・ザ・レインボウ」でピアノソロが入っていてまったくイメージが違う。『アメイジング〜』の求道的な感じとは違う、聴きやすいアルバムだったんですね。

私もいろいろ調べているうちに、この10インチの存在を知ってびっくりして。店に売ってるわけないよなと思いながら、なんとなく3日前にディスクユニオンに寄ったら……。
あれー!あった!って。

一同 (どよめく)


バド・パウエルの55年の12インチ盤と51年の10インチ盤を掲げる黒崎氏
黒崎 これは、たぶんオリジナル盤です。盤面も綺麗で何万円もするかと思ったら、一万円でした。

〜51年のLP10インチ盤『アメイジング・バド・パウエル』より「you go to my head」試聴〜


1951年のLP10インチ盤『アメイジング・バド・パウエル』
黒崎 これは51年に出たオリジナルLPです。ですけど、このオリジナルの「You Go To My Head」も49年にSPとしてすでに出ています。さっきのラッパ、ナヴァロとロリンズ2人が抜けて、録音した同じ時です。49年に録音した盤面。傷んでいるかもしれませんけどこちらも聴いてみましょう。

〜49年のSP盤 バド・パウエル『You GoTo My Head』試聴〜


1949年のSP盤 バド・パウエル『you go to my head』
黒崎 『バド・パウエル・トリオ・モダニスト』という題で販売されたのが49年のSP。それを51年に録音した他の曲と合わせて、51年版のLPになり、かつ時代が10インチから12インチになって、ヴァン・ゲルダーがこの『アメイジング・バド・パウエル』を担当した時、「ウン・ポコ・ローコ」の2つのtakeを加え、かつ「チュニジアの夜」もテイク1、2と入れてアルバムにしたと。

ですから、偶然の産物なんですよね。だけど、ジャズファンからするとこのレコードこそ乗り越えなきゃいけない、聴かなきゃいけないものと、三連発は必然として受け取っていたというところがある。

そもそもLPやCDで使われる「アルバム」という言葉ですが、実はSPレコード時代、盤が4枚組になって、まさにアルバムの形になっていたから「アルバム」と呼ばれていた。それを今ではLPに8曲入れた「アルバム」となっている。ですから偶然の産物にも関わらず、知らずに「ウン・ポコ・ローコ」は3回この曲を聴くのがジャズだよねとなった。やっぱりバド・パウエルはこの曲の3連発こそ本質だとか書いてる人はいっぱいいるわけです。ジャズ評論家でも。

ところが、更にこの後『コンプリート・アメイジング・バド・パウエル』というCDが出たんです(2007年)。ヴァン・ゲルダーのリマスターです。これはどうなったかというと、収録順に並べ替えちゃった。そのために一番に「バウンシング・ウィズ・バド」がきて、「ウィール」がきて、「ウン・ポコ・ローコ」はバラバラに解体されて、トラック12、17、18に解体されちゃったわけです。「ウン・ポコ・ローコ」の3連発ってなんのこと?みたいな、そんな風になっている。

音楽を聴くとは何か、「アルバム」を聴くとはなにか。一番初めはSP単体で売っていて、「ウン・ポコ・ローコ」は1テイクしかない。10インチのものでも、「ウン・ポコ・ローコ」は1曲しかなかった。でも、次に12インチになると3連続になり、かつ、さらにCDになるとバラバラに3曲が収録された、という録音の歴史がある。CDは2007年のものになりますので、ちょうど50年の間にそんな変化があって、我々の前にあるわけですね。

『コンプリート・アメイジング・バド・パウエル』CD

島田 誰の意志? 彼らの意志?

黒崎 意志なんだか偶然だか何だかわからないけど、でも「バド・パウエルのあの3連発を聴かなきゃジャズを聴いたことにならない」という世界を作り出したのが12インチ盤……という話でした。

発達していくものと失われるもの

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ

関連リンク

関連記事