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【特別企画】『攻殻機動隊』『スカイクロラ』などの音楽で知られる作曲家

川井憲次さんが語る、オーディオテクニカの“世界標準”モニターヘッドホン「ATH-M50x」の魅力

公開日 2017/11/01 11:14 聞き手:岩井喬 構成:編集部 小澤貴信
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ーー ところで、川井さんにとってクライアントからの要望で一番難しいと感じるものはどんなことでしょうか。

川井さん 「ハリウッド的な音楽にしてほしい」と言われるのが辛いですね(笑)。分厚いオーケストラが欲しいということなのかな、と私なりに解釈しますが。

川井氏は、サウンドトラックの作曲について「音楽の存在を忘れていただけてこそ意味がある」と語る

ーー 川井さんの作品は弦の旋律が耳に残るものが多いと思います。

川井さん 特に意識していないのですが、弦が好きだからというのはあるかもしれないですね。

ーー 映像作品におけるサウンドトラックというのは、映像も込みで伝わるもので、音楽だけが独立してあるものではないと思います。川井さんが手がけられてきた様々な音楽について、みなさんにどのようなポイントを聴いていただきたいと考えていますか。

川井さん サウンドトラックというのは、音楽の存在を忘れていただいてこそ意味があるのではないでしょうか。それは音楽としての良し悪しとは別の基準で計るものだと思います。私は自分をアーティストだとは考えていなくて、自分の主張のために音楽を作ることもありません。サウンドトラックであれば、映像という理由がそこにあるから、音楽を作るのです。

ーー 川井さんの作曲家としての姿勢がよくわかるお話ですね。

音へのこだわり ー “地味な音”であることの重要性

ーー 川井さんのスタジオを拝見すると、自作されたというラージモニターや、ハイエンドオーディオブランドであるソナス・ファベールのスピーカーをスモールモニターとして使っている点など、独自の音へのこだわりを感じます。川井さんがこうしたスタジオ機器に求める音とは、どのようななものなのでしょうか。

川井さん 一言でいうと「地味な音」です。派手な音がするスピーカーで音作りをすると、そうでない他のスピーカーで鳴らしたときにとても地味に聴こえてしまいます。地味であっても、ハイもローもただ見える、それが理想のモニターだと思います。

川井さんのスタジオ。奧の大型モニターは川井さんが自作したものだ。アナログミキサーは「音へのこだわりというよりは、使い勝手で選んで使っている」と語っていた

ーー ただ見える、というのは言い得て妙ですね。ですが、そういった色付けのない音を実現することは非常に難しいのではないでしょうか。

川井さん スピーカーの自作もするのですが、「地味な音」を実現するのは難しいことだと思います。その意味で今回のテーマであるこの「ATH-M50x」も、良い意味で“地味”な音がするヘッドホンだなと感心しました。音に色付けがないのです。

川井さんが聴いたATH-M50x ー 色付け、不自然なピークがない

ーー ATH-M50xも、川井さんがモニターに求める地味な音がすると?

川井さん 地味ですね。音に色付けがなく、不自然なピークもありません。これは歪みが少ないからなのでしょう。もちろん歪みは皆無ではないのでしょうが、耳障りでないようにまとめられているから歪みと認識されないのだと思います。

ーー なるほど。ちなみに川井さんはふだん音楽制作の作業を行うとき、モニターについてはスピーカーとヘッドホンをどのくらいの割合で使い分けていますか。

ATH-M50xを使って作業を行う川井氏

川井さん 曲を作るときはほとんどスピーカーをモニターに使っています。特にこだわりがあるわけではないのですが、どちらかというとヘッドホンは検聴的に、細かい音を確認したりノイズの有無を確認したりするのに用います。もちろん、ブースの中に入ってギターなどを演奏して録音するときはヘッドホンを使います。そういう意味では、やはりヘッドホンは音楽をつくる上で不可欠なものです。

“リバーブ(残響)が見える”ことの重要性

川井さん ところで、昔話になってしまいますが学生の頃、私はあるスピーカーをとても気に入って愛用していました。私はバート・バカラックの日本公演の音源をリファレンスとしてよく聴いていて、その中にファーストバイオリンとセカンドバイオリンがメロディラインを弾くところがありました。そのスピーカーを使うと、そのバイオリンのところでホールのリバーブ(残響)が“見える”のです。

その後、様々なアンプやスピーカーを使いましたが、この音源のリバーブ感が見えてくるものというのがなかなかありませんでした。一般的なモニタースピーカーやモニターヘッドホンでも、このリバーブ感はやはり見えないものが多かったのです。この“リバーブ感が見える”かどうかというのは、ヘッドホンに限らずモニタリング機器に求める性能のひとつの指標だと思っています。もちろん、それが絶対的な正解だと思っているわけではないのですが。

ーー 川井さんにとってはひとつの指標なのですね。

川井さん なぜこの話をしたかというと、ATH-M50xでは、この“リバーブ感”がきちんと見えるのです。このリバーブ感は、イコライザーで中音域を持ち上げれば見えてくるというものでもないのですが、ATH-M50xはそれをちゃんと再現していました。これは普段私が使っているモニターヘッドホンとの、一番の大きな差でした。

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