HOME > インタビュー > 記事

インタビュー

オーディオ銘機賞・開発特別大賞を受賞

マランツ「SA-10」のディスクリートDACはいかにして実現したのか? 開発者2万字インタビュー【前編】

聞き手:山之内 正 構成:編集部 小澤貴信

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ

2016年12月09日
ディスクリートだからこそ、DACのアナログ部の音質パーツを厳選できる

ーー 私たちが知っているDACチップというのは、指先というか爪の先ぐらい小さなデバイスです。そこに含まれる回路が、実はディスクリートで組むとこれだけ大きくなるということを実感させられます。

尾形氏 回路の面積で言うともう何十倍、いや、それ以上かもしれませんね。そして、このずらりと並んでる出力抵抗というのが、実はアナログ変換の要であり、音質に非常に影響があるということをSA-10で改めて経験しました。

高音質の抵抗やコンデンサーが音質に大きく影響を与えるというのはご存じの通りですが、D/A変換における出力抵抗を1つ変えるだけで、音質は驚くほど変化します。SA-10では本当に多くの抵抗を試しました。最終的にはVISHAYというブランドのものを採用しました。実はこの点が、DACをディスクリート構成で手がけたことの大きな恩恵だったのです。この抵抗も、汎用DACでは手が出せなかったブラックボックスだったということです。

ディスクリートDACのD/A変換部。赤枠で示した部分が、インタビュー中で話題にあがった出力抵抗となる

ーー 具体的には、どのように音が変わるのでしょうか。

尾形氏 音の情報量や密度は、今までは取り出しきれていなかったのだと実感させられる音です。抵抗出力の純度を上げる、と言うとちょっとおかしいかもしれませんが、要はストレスを減らしてあげることだと思います。

例えば、抵抗の定数を上げるとします。そうすると抵抗の成分が増えるわけですが、そうするとやはり音の情報量が減ってくるように感じられます。ですから、本当は抵抗を入れたくないくらいなのです。しかし、実際はそうはいかず、なるべく質の良い、かつ定数の低い抵抗を採用するに至りました。

ーー これまで触ることができなかった部分に、実は音質を左右する重要な鍵があったということですね。それがわかっただけでも、大変な成果です。

尾形氏 昔のD/Aコンバーターは、チップのサイズが大きかったですよね。指先の関節1つか2つ分位はあったイメージです。当時は半導体の製造プロセスが今ほどは進んでいなくて、チップのサイズも大きかったですし、結果として流れる電流も大きかったと思うのです。ところが、技術が進化するなかで集積化が進んで、チップが小さくなって流れる電流も少なくなりました。そのせいなのか、チップのサイズが非常に小さい近年のD/Aコンバーターには、音に力強さがないように感じていたのです。

今回、大きな抵抗が使える、部品を選択できるという状況でディスクリートDACを開発してみて、やはり想像通りだったのだと確信しました。

綿密に施されたノイズ対策

ーー 腑に落ちるお話です。その一方で、DSPも含めてこれだけデバイスが増えると、DACを動かすだけで大きな電流が必要になるはずです。電源も大きいですし、ディスクプレーヤーとしては稀にみる大きな電流が必要なのではと推察できます。この点は、ディスクリートのデメリットはないのでしょうか。回路規模が大きくなるということで、ノイズ対策についても従来とは異なるアプローチが必要になるように思えます。

デジタルオーディオ基板は、写真のように全体を銅板で覆われている

尾形氏 今回、最後までノイズ対策が最大の課題で、エンジニアは苦労しました。ノイズ除去にはフェライトコアがよく使われますが、これまで作ってきたCDプレーヤーの中で最大個数を使っています。信号経路のあらゆる部分に使っていますね。他にも様々なノイズ除去のノウハウを用いています。安全規格そのものは考慮つつ、かつ音質への影響を最小限にしていかなければなりません。

消費電力が大きくなった理由のひとつに、2基のDSPの消費電力が大きかったことがありますが、ここから放出されるノイズへの対策が重要でした。内部をご覧いただければわかるように、デジタルボードをまるまる銅板で覆うということもやっています。他にも各部に様々な対策を施しています。ちなみにSA-10に搭載された電源トランスは、贅沢を言わなければアンプが作れてしまうサイズです。それほど大きな電流を使っているということです。

ディスクリートDACによる単体D/Aコンバーターへの発展の可能性

前のページ 1 2 3 4 5 次のページ

関連記事