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4K化で撮影も演出も変わる − IMAGICAに聞く4Kコンテンツ制作の現状

公開日 2013/11/11 10:27 ファイル・ウェブ編集部
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映画やテレビ、CMやパッケージメディアなど映像を撮影した後処理を担当するポストプロダクション(ポスプロ)大手の「IMAGICA(イマジカ)」。同社社屋のロビーに、東芝の液晶テレビ“4K REGZA”「84Z8X」(関連ニュース)が設置された。フィルム時代から映像制作のプロたちからの要求に応え続けてきているIMAGICAは、4K制作についてどのように考えているのか。同社技術推進室 チーフリサーチャーの清野晶宏氏と、テクニカルディレクションチーム ラインマネージャーの竹谷卓郎氏、そしてREGZAの商品企画を担当する東芝の本村裕史氏に話を訊いた。(※以下、文中敬称略)

イマジカのロビーに84Z8Xが設置された

清野晶宏氏(左)と竹谷卓郎氏(右)

■映像のプロにとっての4Kの現状とREGZAを選択した背景

ーー 今回、社屋ロビーに4Kテレビを設置されたわけですが、4K対応テレビは東芝も含め各社から発売されています。そのなかでなぜ「84Z8X」を選択したのでしょうか。

清野:4Kになると必然的に大型のモニターで見る必要が出てきますが、現在のマスターモニター(マスモニ)には50インチオーバーなど大型のものはなかなかないという状況です。お客様に立ち会っていただいて4K映像を確認することがあっても、30インチで見ても細かいディテールがなかなか分からず、お客様にもご納得いただけないことがあります。4Kの映像をきちんと4Kで確認できるというニーズになかなか応えられなかったのです。

その点、REGZAは民生用ではありますが、まず大画面に応えてもらえるという点がありました。また、画質モードがかなり自由に動かせる点も大きかったですね。「○○モード」のように固定されたものだけでなく、RGBごとなどパラメーターをかなり細かく設定できますので、我々も色管理に力を入れていることもあり、IMAGICAらしいトーンに整えてお客様にお見せできますから。

ーー ロビーに4K REGZAを設置してからの反応はいかがですか。

竹谷:我々のお客様が、さらお客様連れで来社されることもあるのですが、その際に「やっぱり凄い」「こんなに違うんだ」と驚かれますね。お客様に4Kの素晴らしさに気付いてもらえるという意味でも、設置してもらってよかったなと感じています。

清野:「このカットはフォーカスが甘い」など、やはり大きな画面で見て初めて気付くこともあるんです。そこから議論が始まってカットが決まっていくということがあるので、そういった意味でも大画面で見るのはマストだと思います。また、家庭のテレビが大きくなっているので「大画面で見ないでどうするの」ということも、もちろんあります。

ーー 先ほどのお話にあった「IMAGICAらしい4K映像」とはどのようなものなのでしょうか。

清野:大前提として、どんな環境でも同じ映像を見ていただけることが大切です。いつみても同じ色再現ができる、という部分ですね。そこで独自の色管理をしています。フィルムから培った色再現になるようにデジタルでも処理しているというのが、IMAGICAらしさと言えるでしょうか。


ーー やはり4Kへのニーズは右肩上がりなのでしょうか。

竹谷:爆発的に増えているという感じですね。ただ実際に4K放送をキー局が始めるだとか、そういう段階ではありませんので、まだ限られた方の世界ではありますが、展示会向けなどの4Kコンテンツというお話はかなりいただいています。

イマジカでは「4K IMAGICA」ロゴを制作

ーー CM映像の4K撮影に対するニーズはどのような状況なのですか。

竹谷:CMはかなり4K撮影が行われていますね。CMはこの10年くらいの間にフィルム撮影からデジタル撮影への移行が進みました。CMの場合、撮影したものをテレシネといって、フィルムをデジタル化する際に拡大やトリミングすることがよく行われます。フィルムの場合はフルHDよりも画質が高いので拡大やトリミングをしても問題ないのですが、デジタルの場合、最初からフルHDで撮影していると、後処理での拡大などができないので、4K撮影をするという方法を採るケースが増えていますね。

ーー 現段階での、業界からの4Kニーズはいかがですか。

清野:テレビ放送の新しい魅力という点は、皆さん考えていらっしゃるように感じますね。この数ヶ月の間にスポーツや音楽番組を4Kで制作して観ることが増えてきましたので、制作者の方々も新しい表現技法、演出技法を考えていくのかなと思いますね。


ーー 具体的にIMAGICAさんに寄せられる要望とはどのようなものなのでしょうか。

清野:弊社には4K撮影のノウハウを持っている弊社のカメラマンがいたりすることもあって、4Kの良さを引き出す画作りのアドバイスを求められますね。また、4Kではデータ量が莫大になります。そこをいかにコストを抑えながら処理するかが、我々ポストプロダクションの役割です。

ーー ここまで様々な作業を行ってきての4Kへの手応えをどう感じていますか。

清野:総務省のバックアップもあり、様々なジャンルで4K化が進んでいるなと感じています。4K放送へ着実な準備をしている段階だと思います。7年後には東京オリンピックがありますが、それくらいの時代には普通に4K放送が始まっているのだろうなというイメージがありますね。我々としても新しいものに飛びつく性質がありますので(笑)、そこをうまく社内的にも調整しながらお客様の相談に応えていけるよう、色々と試しながらやっているところです。

■4Kで撮影技法も変わる

ーー 4K映像の処理に関して苦労話などはありますか。

清野:やはり4Kは処理に時間がかかります。システム含め、今はまだ黎明期ですのでどうしても時間がかかり、お客様にご迷惑をおかけするというのはありますね。

また、お客様が4Kカメラで映像を撮影したけども、見る環境が整っていない、ということもあります。表示デバイス自体はあっても、30pまでしか対応していないとか、4:2:2までしか色が出ないだとか、再生する装置が意外とないのです。そういった部分もふたを開けてみて気付いた部分ですね。

本村:4Kだと撮影の仕方も変わってきますよね。

竹谷:立体感の表現が一番大きいですね。今までは被写界深度を浅くして立体感を表現していましたが、4Kでは逆に被写界深度があるほうが立体感が出るように感じます。これに代表されるように4K用の撮影技法がこれから出てくるのではないかと思いますね。


本村:それにあわせて編集の方向性も変わりますよね。

竹谷:例えばライブ映像でも、「寄り画」と「引き画」の演出があります。ダンスを間違えただとか、演出的に見せたくない箇所では引き画で逃げるという演出をすることがありますが、4Kでは引き画でも間違えているのが分かってしまいます。引き画と寄り画の考え方もこれからは変わってくるでしょうね。

また、例えばサッカーでは引き画でも選手の表情が分かったりしますから、アップという考え方がなくなるかもしれませんね。

本村:野球でもバッターがボールを打つ瞬間に歯を食いしばっている表情だとかは本当にリアリティーがあります。サッカーであれば、パスするときに視線でサインを出すのが分かります。これはやっぱり、コンテンツの見方もかなり変わりますよ。ということは当然ながら、撮影の仕方も変わることにつながると思います。

■映像業界からも引き合いの多いREGZA Z8X

ーー 東芝さんにとっても、IMAGICAさんに使ってもらってフィードバックが得られるメリットがあるということでしょうか。

本村:もちろんです。実は、そもそもREGZAブランドを立ち上げたときに、映像制作に関わる皆さんに「いいね」と言ってもらえる、通好み、プロ好みの画質にしようという目標を持っていました。4K時代になって、こういう業界の方々から「REGZAがいいね」「使ってみたい」というお話を色々といただけて、本当にありがたいですね。意見交換させてもらうことで、我々の技術者も「プロからみたときの映像とはこういうことだ」という情報を知ることができますし。

実はINTER BEEなどでもREGZAを使っていただけるケースが多いんです。REGZAは民生機ではありながら映像パラメーターの調整をかなり開放しており、画質を追い込めるからでしょう。

公式サイトでプロユース推奨画質設定値を公開していますが(関連ニュース)、実はIMAGICAさんと色々とお話させていただいくなかで「これはもうオープンにしたほうが業界の方々も使いやすいだろう」という判断からのことでした。お問い合わせも結構多くて、面倒になったのでネットで見てもらったほうが早いだろうと(笑)。

また、入力系統でいうと、HDMI 2.0というのは民生機では重要なのですが、プロユースの世界ではHD-SDIの4パラで60p非圧縮で出すというのが常識です。4K映像のダイレクト表示を可能にする専用アダプター「THD-MBA1」を使えば、プロの方々がカメラで撮影したものをそのまま放り込んでもらえます。このようにプロユースでも取り回しがいいというのもREGZAを選んでいただいた理由なのかと思います。

東芝 本村氏

ーー 最初のお話にもありましたが、設定を本当に細かく調整できるという点はやはり大きかったわけですね。

清野:我々としては「これ以上は変えられません」というのが本当にストレスなんです。実はREGZAについても、一番初めのころは超解像が常時オンなのかと思っていたくらいです。

本村:そもそも、信号伝送の途中で劣化してしまった映像をなんとかして元に戻そうとするのが民生機です。しかしそれは、業務用機器ではいらぬおせっかいになってしまいます。民生機は普通はスッピンにならないのですが、我々の技術者は本当にまじめというかマニアックで、「これは評論家の方々でも絶対に使えないぞ」というパラメーターまで全部開放しています。民生機でここまでのセッティングを開放しているのは珍しいのではないでしょうか。そういった点をプロの方々は喜んでいただけているのかなと思いますね。

また、ちょっとだけ自慢させてもらうと、我々はすべてを自社開発しているのが大きいかと思います。LSIの“中の中まで”理解していますので、何かお話をいただいたら「じゃあこうしたらこうなりますよ」というリアクションがすぐ返せます。

ーー それだけ密なやりとりをされているのですね。


竹谷:業務用機器の方々とは頻繁にやりとりをしますが、民生機の方々との間では、これまででは考えられなかったくらいの密度ですね。

清野:我々としても、「ここをこうして欲しい」という要望を出せるというのはメリットですね。いい商品を作ってもらうのは、我々はもちろん、お客様も助かるのです。ディテールが確認できないモニターだと画作りにも支障をきたしますから。

本村:本当に色々と情報交換をさせてもらっていますね。

ーー 本日はありがとうございました。

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