日本橋高島屋にアウディのショールームがオープン。プレミアムEVブランドを目指すアウディの新戦略
栗原祥光100年に一度の大変革と言われる自動車業界。その中でドイツのプレミアムブランド「アウディ」と、我が国のディストリビューターであるアウディ ジャパンは、自らの生き残りとプレミアムEV(電気自動車)市場の覇者となるべく様々な取り組みを行っている。今年4月、都内にオープンした2か所の施設と共に、同社が行なうEVの「認知」と「拡大」策を紹介する。
EVに厳しい日本市場でも積極的な商品展開
2024年の世界自動車販売台数(約8900万台)のうち、EVは約1700万台と1/5近くを占めるなど、世界的にEVシフトが加速している。その状況に呼応しアウディはプレミアムブランドの中で積極的にEVを市場に投入し続けている。
いっぽう日本国内に目を向けると、政府が2035年から純ガソリンエンジン搭載車の販売禁止を掲げるものの、EVに対し冷ややかな印象だ。昨年の国内新車販売台数442万1494台のうちEVは5万9736台と僅か1.3%にとどまっている。これらはインフラをはじめとするEVの現状不安が要因と言われている。
その状況下にでもアウディ ジャパンは日本市場に9車種のEVを投入。コンパクトSUVの「Q4 e-tron」は、2023年に輸入車EVナンバー・ワンを獲得しただけでなく、2024年12月に大幅アップデートモデルの「Audi Q4 45 e-tron」「Audi Q4 Sportback 45 e-tron」を投入。今や昨年国内販売したアウディ車のうち、EVが占めている割合は1割を超えるなど、着実にプレミアムEVのポジションを築きつつある。
日本橋?島屋に都市型ショールームを設置
だが自動車に関心のない一般層は、EVに対し不安を抱いているのはもちろんのこと、アウディの名は知っていても、電気自動車に対して積極的であるという認識が薄いだろう。
そこでアウディ ジャパンとアウディ正規販売店契約をするAudi Volkswagen Retail Japan株式会社は、一般層とアウディを結ぶファーストタッチポイントとして日本橋?島屋S.C.新館1階にショールーム「Audi City 日本橋」を2025年4月18日にオープンした。老舗百貨店内にショールームを設けるのは、アウディとしては初めての試み。自動車業界を見回しても珍しい事例だ。
「Audi City 日本橋」は、百貨店内でも最も人通りの多い1階正面口、中央通り沿いに面したエリアに位置している。店内は誰もが気軽に入店できるようオープンスペースのような空間とし、EVのほかアウディのロゴが入ったライフスタイルグッズを数多く展示するなど、ディーラーとは異なる趣になっている。それゆえ車両やEVそのものに対する相談は受け付けるが、販売は行わない。入ったら最後、契約するまで出られないということはないので安心だ。
ライフスタイルグッズは購入可能で、その中にはAudi City 日本橋限定の屋号(店名)が刻まれたオリジナルの扇子とけん玉もラインナップ。トートバッグが約5000円など、比較的入手しやすい価格である点も見逃せない。
オープンを記念して5月30日まで、世界的に活躍する写真家・映画監督の蜷川実花氏とコラボレーションしたQ4 e-tronを展示する。ボディには蜷川氏がこれまでに撮影してきた数々の写真をコラージュされ、アウディの持つアーバンなイメージと、蜷川氏ならではの鮮やかな色彩美が愉しめる1台に仕上げられていた。
ブランド ディレクターのマティアス・シェーパース氏は、「アウディに触れるハードルを下げたいという想いがありました」と、同ショールーム開設の意図を語る。そして「そしてスペシャリスト達が、お客様が抱く電気自動車に対する素朴な疑問に答えると共に、アウディのブランドフィロソフィをお伝えし、このブランドを身近に感じて頂ければと思います」と期待を寄せた。
また「日本橋高島屋の中には、魅力に溢れる専門店が数多くあります。彼らとコラボレーションして、よりアウディを身近に感じ取れるアイテムの開発やワークショップを開催したい」と、百貨店という場所を活かした他業種とのコラボレーションに、早くも心を躍らせていた。
気になるのは、どうして出店場所を日本橋高島屋としたところだ。「東京は他の都市にはないエリアによる購買層が異なるという特徴があります。日本橋と銀座でも違いますからね。その中で日本橋は、落ち着いて堅実な方が多い印象を受けます」という。保守的、堅実的な層が多い日本橋に先進のEVをアピールするアウディの挑戦を見届けたいと思う。
積極的に急速充電施設を設置し、ユーザーメリットを高める
EV導入において懸念となるのがインフラだ。月極駐車場を利用されている方は充電設備の設置が難しく、事実EV購入者のうち自宅に充電設備がないユーザーが3割。その場合、近くの急速充電スタンドを利用することになるが、2025年3月末現在、日本全国の急速充電スタンドの充電口数は1万2552口。政府は2030年までに3万口までに増やす目標を立てているが、2024年3月から2025年3月の1年間で増えた充電口数は僅か約2100口。このペースでは未達になることだろう。
その急速充電も日本では50kW〜90kWタイプが主流。さらに充電時間は30分までと制限がかけられている。世界に目を向けると、充電した電力量に対して課金される従量制で、しかも欧州では350kW機も当たり前のようにあるというのに……。
アウディ ジャパンはEVとインフラは両輪であると考え、充電環境の整備にも力を入れている。2022年にはポルシェ ジャパンと共に90〜150kW級出力の急速充電器を時間制限なく利用できる高速充電サービス「プレミアムチャージアライアンス」を策定。アライアンスに加入するブランドのオーナーなら、24時間無休で充電サービスを受けることができる。その後、フォルクスワーゲン、そして今夏からレクサスがアライアンスに加入。2025年2月段階で、ディーラーネットワークを中心に370拠点で急速サービスを提供している。
そして4月23日、プレミアムチャージアライアンスの新たな充電ステーションとして、東京タワー近くに「Audi charging hub 芝公園」を新設した。同施設では2口の150kW急速充電口が用意されており、「プレミアムチャージアライアンス」加入者はもちろんのこと、Power Xのアプリをスマホにインストールすれば他社EVも利用できる。なおテスラやFIAT(アバルト)など、充電時にCHAdeMO変換アダプターを利用する車種では充電できない。
充電中の待ち時間をいかに過ごすかというのも、EVと付き合う上で重要なポイントだ。高速道路なら休憩施設が用意されているが、街中ではそうはいかない。まして芝公園のあたりは深夜営業のカフェやコンビニが近くにないため、車内で過ごすことになるだろう。
そこでアウディユーザーのみ充電中に2階のスペースでくつろげるラウンジを提供。利用方法は充電を開始すると、スマートフォンにショートメッセージ経由で送られるQRコードで解錠するだけ。ラウンジ内は極上の座り心地を提供するソファを用意するほか、24時間フリードリンクを提供する。
アウディ ジャパンの担当者に尋ねると、EVユーザーの中には週に1度、決まった時間に急速充電を行うケースが多いという。つまりEVを手に入れると、充電が生活の一部になるということだ。ひと昔前、EVの充電について「ガソリンなら給油しに行かなければならないが、EVは買い物中に充電できる」と訴求するメーカーや媒体を目にしたが、急速充電器を設置する大規模小売店は未だ少ないばかりか、30分しか充電できないため、買い物途中で車両に戻らなければならない。時間制はタイムパフォーマンスがよくないのだ。
24時間無休で充電でき、かつ充電の待ち時間を車内ではなく、ゆったりと過ごせる場所を提供する「Audi charging hub 芝公園」のような施設が増えれば、人とEVとの関わり方は大きく変わるだろう。何よりそのメーカーのEVを選ぶ動機になる。
顧客満足度を高めるのがプレミアムブランドの活きる道
自動車の電動化は避けては通れない状況だ。冒頭にも記した2035年の純ガソリンエンジン車販売禁止に留まらず、政府は2050年には自動車のライフサイクル全体でCO2排出をゼロ(カーボンニュートラル)の実現を目指している。だがその実現には、クリアしなければならない壁が幾つもあり、価格面も含めEVは縁遠い存在なのが現実だ。
その中でプレミアムブランドが成すべきことは何か。オーナーが納得し選び、満足度を得るには何が必要か。車両の性能や魅了そのものは言うまでもないが、気軽に立ち寄れるファーストタッチポイントを設ける「認知」と、快適な充電設備を提供する「拡大」がプレミアムブランドにとって重要であると感じた。
様々な輸入代理店から「EVが売れない」という声を耳にする。商売の基本は「知る」「触れる」「販売する」そして「アフターフォロー」で、それが顧客満足度へとつながるのに、売ろうとすることに一生懸命で、そもそも知ってもらうための努力や、その後のフォローを疎かにしていないだろうか? アウディは商売の基本を忠実に、でありながら顧客満足度を高める施策を愚直に実践しているのだ。
アウディの施策は、自動車のプレミアムブランドに限った話ではなく、すべての高級品ビジネスに通ずるものがある。高くても高性能だから売れる時代ではない。今の時代、高性能は当たり前。さらにその上のサービスを提供することにブランドの価値はあるのだ。
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