公開日 2024/11/29 06:30
Acoustune(アコースチューン)の名を聞けば、金属的でメカニカルな外観と、ミリンクスドライバーを連想するポータブルオーディオファンは多いはず。音響チャンバー交換に対応するフラグシップモデル「HS2000MX SHO -笙-」がその典型、これぞAcoustuneというルックスとサウンドだ。
一方で、彼らは新たな取り組みにも余念がない。独自開発ダイナミック型ミリンクスドライバーによるフルレンジ構成は信念として貫き通すにしても、音響チャンバーの素材にチタンやブラスを採用したり、手頃な価格帯のステージモニターイヤホンを展開したり、さまざまな方法で音の可能性を追求している。ここに紹介する「HS1900X SHINOGI -鎬-」(以下HS1900X)も、Acoustuneの進取の気性をよく表した意欲作だ。鎬とは日本刃の側面にある山状に高くなった筋のことだが、それが製品コンセプトだというから面白い。
HS1900X の音響チャンバーには、軽量化のために肉厚を抑えながらもリブ形状によって強度を確保したチタンを採用。ボディには非金属でありながら高強度かつ軽量なボディを実現する積層ドライカーボンを採用している。まさに「鎬」の発想だ。
ドライバーユニットへのこだわりも彼らのアイデンティティ。ドライバーは医療用合成基材ミリンクスを薄膜成形した「第3世代コンポジットドライバー」で、もちろんフルレンジ。ただし、極薄膜加工を施したチタン製薄膜ドームとの組み合わせによる複合膜構成であり、一種のコンポジットドライバーとなる。
実物のHS1900Xを手にした最初の印象は、「ほどよい重量感」。金属製ボディを採用するHS2000MXはそれなりの負担があり、重さで耳から外れてしまうなどのデメリットも指摘されていたが、その心配はなさそう。錫メッキコートOFC採用の新レファレンスケーブル「ARC93」も丁寧なつくりで、音への期待が高まる。
外観もほどよい感じ。金属部分が大半でメカニカルな印象のHS2000MXは、ややもするとトゥーマッチな印象を与えかねないが、ドライカーボンを採用したHS1900Xにはアンダーステイトメントな趣がある。装着性も上々、肌への自然なフィットは金属素材では得られないもの。
HS1900Xのサウンドキャラクターを一言で表現するなら「凛」か。中高域方向は伸びやかで情報量がありつつも引き締まり、静謐な印象がある。ジョン・アバークロンビーとヤン・ハマーのデュオ曲『Love Song』では、アコースティックギターとピアノの音ひとつひとつが丁寧に描写され、掛け合いの “間” まで輪郭を感じてしまう。
帯域バランスはほぼフラット、曲によっては低域の量感が不足気味に感じるかもしれないが、音の正確さという点では正しいアプローチだ。ナイロン弦のバリトンギターを録音したパット・メセニー『Moon Dial』は、再生環境によっては低音弦の音が膨らみ楽器本来の音が崩れてしまうが、HS1900Xではまさに1本のバリトンギターを描写する。
“らしさ” を損なうことなく “新しいらしさ” を追求したアコースチューンの新モデル。音響チャンバーの交換にこそ対応しないが、納得の一台となるはずだ。
【SPEC】
●型式:ダイナミック型 ●ドライバー口径:10mm ●再生周波数帯域:10 - 25,000Hz ●インピーダンス:24Ω ●能率:110dB/1mW ●付属品:イヤーチップ(シリコン AEX50:S/M/L、AEX70:S/M/L)、ケーブルクリップ、ケーブルタイ、アルミニウムケース、キャリングケース
(協力:ピクセル)
本記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジンVOL.22 2024 WINTER」からの転載です。
ボディに積層ドライカーボンを採用し高強度かつ軽量に
カーボン筐体を初採用したAcoustune「HS1900X SHINOGI -鎬-」ブランド創業11年目の革新
海上 忍■コンセプトは「鎬」進取の気性を表した意欲作
Acoustune(アコースチューン)の名を聞けば、金属的でメカニカルな外観と、ミリンクスドライバーを連想するポータブルオーディオファンは多いはず。音響チャンバー交換に対応するフラグシップモデル「HS2000MX SHO -笙-」がその典型、これぞAcoustuneというルックスとサウンドだ。
一方で、彼らは新たな取り組みにも余念がない。独自開発ダイナミック型ミリンクスドライバーによるフルレンジ構成は信念として貫き通すにしても、音響チャンバーの素材にチタンやブラスを採用したり、手頃な価格帯のステージモニターイヤホンを展開したり、さまざまな方法で音の可能性を追求している。ここに紹介する「HS1900X SHINOGI -鎬-」(以下HS1900X)も、Acoustuneの進取の気性をよく表した意欲作だ。鎬とは日本刃の側面にある山状に高くなった筋のことだが、それが製品コンセプトだというから面白い。
HS1900X の音響チャンバーには、軽量化のために肉厚を抑えながらもリブ形状によって強度を確保したチタンを採用。ボディには非金属でありながら高強度かつ軽量なボディを実現する積層ドライカーボンを採用している。まさに「鎬」の発想だ。
ドライバーユニットへのこだわりも彼らのアイデンティティ。ドライバーは医療用合成基材ミリンクスを薄膜成形した「第3世代コンポジットドライバー」で、もちろんフルレンジ。ただし、極薄膜加工を施したチタン製薄膜ドームとの組み合わせによる複合膜構成であり、一種のコンポジットドライバーとなる。
■中高域は伸びやかながら静謐な趣の凛とした音
実物のHS1900Xを手にした最初の印象は、「ほどよい重量感」。金属製ボディを採用するHS2000MXはそれなりの負担があり、重さで耳から外れてしまうなどのデメリットも指摘されていたが、その心配はなさそう。錫メッキコートOFC採用の新レファレンスケーブル「ARC93」も丁寧なつくりで、音への期待が高まる。
外観もほどよい感じ。金属部分が大半でメカニカルな印象のHS2000MXは、ややもするとトゥーマッチな印象を与えかねないが、ドライカーボンを採用したHS1900Xにはアンダーステイトメントな趣がある。装着性も上々、肌への自然なフィットは金属素材では得られないもの。
HS1900Xのサウンドキャラクターを一言で表現するなら「凛」か。中高域方向は伸びやかで情報量がありつつも引き締まり、静謐な印象がある。ジョン・アバークロンビーとヤン・ハマーのデュオ曲『Love Song』では、アコースティックギターとピアノの音ひとつひとつが丁寧に描写され、掛け合いの “間” まで輪郭を感じてしまう。
帯域バランスはほぼフラット、曲によっては低域の量感が不足気味に感じるかもしれないが、音の正確さという点では正しいアプローチだ。ナイロン弦のバリトンギターを録音したパット・メセニー『Moon Dial』は、再生環境によっては低音弦の音が膨らみ楽器本来の音が崩れてしまうが、HS1900Xではまさに1本のバリトンギターを描写する。
“らしさ” を損なうことなく “新しいらしさ” を追求したアコースチューンの新モデル。音響チャンバーの交換にこそ対応しないが、納得の一台となるはずだ。
【SPEC】
●型式:ダイナミック型 ●ドライバー口径:10mm ●再生周波数帯域:10 - 25,000Hz ●インピーダンス:24Ω ●能率:110dB/1mW ●付属品:イヤーチップ(シリコン AEX50:S/M/L、AEX70:S/M/L)、ケーブルクリップ、ケーブルタイ、アルミニウムケース、キャリングケース
(協力:ピクセル)
本記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジンVOL.22 2024 WINTER」からの転載です。