公開日 2025/02/12 14:51

リチウムイオン蓄電池搭載製品の発火事故増加やインターネット通販の台頭で高まる第三者認証「Sマーク」の意義

電気製品認証協議会セミナー「電気製品の安全に関する課題と対策」
編集部:竹内 純
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■電気製品の事故から身を守るには



電気製品の安全を確保するとともに、より安全・安心な電気製品を消費者に届けるため、電気製品の認証制度の定着とSマークの普及・促進を行っている電気製品認証協議会(SCEA)では、「電気製品の安全に関する課題と対策」と題したオンラインセミナーを開催。認証制度共同事務局事務局長・平井雄二氏が、日本市場における第三者認証の定着へ向けた背景と必要性について講演した。

Sマーク。電気用品安全法との車の両輪としての、電気製品の安全のための第三者認証制度で、Sマークの付いた電気製品は、第三者認証機関による製品試験及び工場の品質管理の調査が行われている「安全・安心」の証となる

はじめに、昨今の電気製品の事故事例として、過去に発生した様々な事故の原因を調査しているNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)が、再現映像として発表している動画を紹介。昨今、リチウムイオン電池に起因した火災事故が多発しているが、取り上げたのは、インターネットで購入したモバイルバッテリーが発火した事故と、電気ケトルに子どもが触れてやけどを負う事故。

NITEではこの他にも様々な事故の再現映像を公開し、注意を呼び掛けているが、決して他人事とは言えない身近な問題に私たちの誰もが直面していると言える。続けて、リチウムイオン蓄電池に起因する重大製品事故事例として紹介したのは、宇都宮市の男性会社員がネット通販で購入した中国製モバイルバッテリーの充電中に発火し、自宅マンションの一室が火事になった事故。被害総額は1,000万円以上にのぼるという。

出火原因はバッテリー内部の絶縁体の劣化によるショートと判定された。被害者は、中国製モバイルバッテリーを購入したネット通販事業者に対し、製造会社への交渉の仲介を依頼したが拒否され、複数の弁護士に依頼して中国国内での訴訟も検討するが、訴訟費用だけで数百万円かかることが分かり断念を余儀なくされた。

ネット通販事業者に対して損害賠償を求めて東京地裁に提訴。2022年4月15日に出た判決は、「出品する商品の審査については義務とまではいえない」として請求を棄却された。この判決のベースとなる法律「電気用品安全法」では、製品の品質責任は海外製品の場合、日本法人の輸入事業者となっており、ネット通販事業者には責任を問えないこととなっているという。

認証制度共同事務局事務局長・平井雄二氏

消費者団体からの強い要望もあり、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」が成立、2022年5月から施行が開始された。初めてネット通販に関する消費者保護の法的枠組みがスタートしたのだが、平井氏は「この法律はネット通販事業者に対して何ら罰則規定のない “努力義務” の法律となっている」とその効力に疑問を投げかけている。

■第三者認証の重要性に対する社会通念の欠如が大きな課題



ここで、重大製品事故を起こした製品の入手先に注目してみると、平井氏が指摘したのはインターネット通販で購入した製品の割合が年々増加していること。2013年には3.8%だったが、10年後の2023年には26.7%にまで拡大している(出典:経済産業省大臣官房産業保安・安全グループ製品安全課)。

そこから見えてくる2つの大きな課題を指摘した。一つ目は、電気用品安全法におけるリチウムイオン蓄電池及び関連製品に対する規制方法と現実とのミスマッチ。二つ目は、インターネット通販手法と電気用品安全法での規制のミスマッチだ。

一つ目については、そもそも電気用品安全法が施行された2001年にはリチウムイオン蓄電池が現在ほど普及していなかった。事故の多発を背景に、2019年2月にリチウムイオン電池を使用したモバイルバッテリーが丸形PSEの対象とされたが、「他の電気製品と比べて評価項目が多く、製品のバラツキを確認する理由からサンプル数も多い。結果として費用が高額となり、はたして海外メーカーが自己確認をきちんと行っているのだろうか。そもそも自己確認でよいのか」と疑問を呈する。

二つ目については、「電気用品安全法が施行された2001年には、現在のようなビジネスモデルは一般的ではなかった。電気用品安全法では、輸入品の責任は “輸入事業者” となっているが、ネット通販の出品者が海外メーカーや中間エージェントの場合もあり、輸入事業者が存在しないケースもある。これはかなり根の深い問題」と一筋縄ではいかない。

それでは、海外の法規制はどうなっているのだろうか。国・地域によって安全認証の考え方は異なり、中国では、政府が指定する試験機関で合格しないと販売できない強制認証方式。米国およびカナダでは、元々は民間の損害保険会社であるULが民間認証で行う第三者認証(UL認証)。州によってはUL認証がないと販売できないところもあり、一部強制認証的な面も見られるという。

欧州ではCEマークが義務付けられ、その認証については製造業者が自己安全宣言を行うことで販売できるようになっているが、「欧州では歴史的な背景などから、他の国や地域からの輸入品は、事業者の自己安全宣言に対して消費者が第三者認証を求める体質がある。民間の認証機関も数多く存在し、その認証が重んじられている」と説明する。

世界の電気製品安全認証の考え方は、国・地域によって異なっている

日本が2001年に電気用品安全法を制定する際に参考にしたのが、この欧州の考え方。「日本では特定電気用品を除いて大半の製品が自己確認でよいとされる方式となった。国が前面に立って認証をリードせずに、メーカーの自主性に任せる方式で、国の税金を使わなくていい素晴らしい制度」とメリットも認められる。

その一方で、「問題は、日本では第三者認証の重要性についての社会的通念が引き継がれていないこと。要は日本の消費者は欧州のように第三者認証という概念をまったく持っていない」と根幹に関わる大きな問題点を指摘する。

■野球の「ストライク」「ボール」をもし投手が判定したら?



電気用品安全法を遵守してもらうにはどうすればいいのか。電気用品安全法では電気用品を、第三者による技術基準適合性検査を義務づけた特定電気用品(116品目/菱形PSE)と、自己確認となる特定以外の電気用品(341品目/丸形PSE)とに分けられ、一般的な家電は大半が「特定以外の電気用品」となる。

単純にすべての電気用品を強制認証にしてしまえばいいとも思われるが、「確かに事故は減らせるが、真面目に取り組んでいる事業者にさらに負担をかけることにもなる。それは消費者へコスト高としてはね返り、ベストな選択ではないと思われる」と説明する。その上で、「日本の電気製品の安全・品質を確保するには第三者認証が当たり前の世界にすること。欧州のように、消費者が第三者認証を求めるようになることが一番の近道。そのためには製造事業者、流通事業者、消費者の共通認識が必要となる」と力を込める。

「自己確認でよいというのであれば、野球に例えれば、ピッチャーが自分でボール、ストライクを判定するようなもの。それではまともなゲームにならず、やはり公正公平な審判が不可欠」と例を出してわかりやすく説明する。

第三者認証機関によって基準適合性が確認されたSマーク認証製品は、より信頼性のある製品と言える

日本における電気製品の第三者認証は「Sマーク認証」のみ。PSE(特定電気用品以外の電気用品)との制度・仕組みにおける主な違いを比較すると、Sマーク認証は対象製品も認証基準も拡大され、さらに、初回・定期工場調査を実施して管理体制も審査を行うモデル毎の製品認証となっており、Sマーク認証製品は、より信頼性のある製品と言うことができるだろう。

■俄然クローズアップされるネット通販の安心・安全



大きな課題のひとつとして俄然クローズアップされるのがネット通販における法令遵守だ。「これまで電気製品はもっぱら店頭での販売であり、責任をメーカー、輸入事業者が負っていた。インターネット通販事業者に対しては、電気用品安全法においてはその役割の規定が何もなく、また、ネット通販の出品者が海外メーカーや中間エージェントの場合もあり、輸入事業者が存在しないケースも見受けられる」。

ネット通販事業者には必要な法令遵守が進まない背景として「そのための人材が不足している。電気製品の出品前の審査も、近年では電気用品安全法遵守の書類提出を義務化している事業者も増えてきたとはいえ、決して十分とは言えない。また、技術基準へ適合することを示すテストレポートを要求していないが、それはネット通販事業者がチェック機能を有していないからとも言える。さらに、輸入事業者すら存在しないルートもある」と課題は山積だ。

消費者保護の観点から、前記のように「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」はできたが、努力義務の規定のみのため効力は薄い。さらに、消費者庁が主体となり、リコールや安全ではない製品から消費者を守るための日本版「製品安全誓約」もスタートし、ネット通販事業者大手8社が署名している。

これに対して平井氏は、「消費者や当局から安全でない製品が販売されていた場合には要求された出品を停止することになっており、かなり改善した」と一歩前進は認めるが、「そもそも安全でない製品を販売しないため仕組みが盛り込まれていない」と課題解決への道筋は遠い。このようななか、電気用品安全法の一部を改正する法案が2024年6月に成立、2025年末からの施行が予定され、その効果に期待を寄せた。

それでは、カギを握るSマークはどれくらい普及、認知されているのか。SCEAでは毎年行Sマーク店頭普及実態調査を行っている。2015年から徐々に普及率は下落しており、「Sマークを取得されていない海外製品比率の上昇がその影響のひとつ」と分析する。2020年からはネット3社に対する調査もスタートしたが、実販中心の従来の調査チャネルよりも約10ポイントも普及率が低くなっている。

2020年からネット3社の調査もスタート。従来の調査チャネルより約10ポイントも普及率が低い

低減傾向だったSマークの普及率は、ここ数年回復傾向が見られる。「SCEAでの地道な広報活動の成果が出たのならうれしいが、SCEAではSマーク認知度の市場調査も行っており、消費者向け広報活動にてこの数字を少しずつ上げてきたが、そうはいっても32.9%はさほど高い数字と言えない。ただ単にSマークを見たことがあるというだけで、本当の意味で理解されているかというと、さらにほど遠いものがある」。

SCEAでは幅広くSマークに対して興味を持ってもらうために、SNSやYouTubeを活用した広報活動にも力を入れている。平井氏は「電気用品安全法は法律として罰則もあり、その分、改正には時間がかかる。第三者認証であるSマークはその機動性を活かし、車の両輪であると自負している。ただし、任意の制度であることから、消費者の側からの後押しが何より不可欠と考えている」と電気製品の認証制度の定着とSマークの普及・促進へ気を引き締めた。

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