レコードに入っている情報を全て引き出す―LINNのCEO ギラード・ティーフェンブルン氏に尋ねる「LP12」の進化
2025/12/27
世界初のデジタルファイルプレーヤーであるLINNの「KLIMAX DS」が登場して、今年で19年。今やデジタルファイルプレーヤーはCDプレーヤーに取って代わったというだけでなく、Qobuzをはじめとするサブスクリプションサービスの登場により楽曲との付き合い方が変わったといってもよいだろう。
昨年末に、デジタルファイルプレーヤーの生みの親でありLINNを統括するギラード・ティーフェンブルンCEOが訪日した際、誕生の経緯と未来を尋ねることができた。
なお50年を超えていまなお生産され続けるアナログプレーヤー「LP12」の最新トピックについては、別インタビューにてまとめているのでそちらも合わせて参照して欲しい。
ギラード氏がLINNの創業者であるアイバー氏の御子息であることは、この記事に目を留めるような方ならば誰もが知るところだろう。だがギラード氏は当初、父の跡を継がずノキアでソフトウェアエンジニアとして働いていたという。
「私は90年代後半から2003年頃までネットワーク(3G回線)に関する研究をしていました」。その立場から「インターネットを通じて高音質で音楽が愉しめる時代が来ると分かっていました」と、未来の音楽販売や再生の在り方が頭に浮かんでいたという。
ギラード氏がLINNに入社したのは、iTunes Music Storeがローンチした2003年のこと。早速、社長であるアイバー氏にデジタルファイルプレーヤー構想を打診したという。
「当時LINNからユニバーサルプレーヤーのUNIDISKが登場した頃でした。社長は『そういう時代は来るだろう。だが今はデジタルディスクプレーヤーを売らなければならない』と語りました」とのこと。
当時はデジタルディスクが隆盛だったが、会社を説得し、デジタルファイルプレーヤーの開発をスタートした。
開発が始まった頃、業務機を中心にUSB入力端子を備えたDAコンバーターがちらほらと見かけるようになった。それに呼応し、PCをCDトランスポートの代わりに用いる愛好家たちが現れはじめ、「PCオーディオ」という言葉を耳にするようになった。
ギラード氏は、開発の傍らリンレコーズのデジタル音源販売を2006年に開始した。
「1つの曲にMP3、CDクオリティ、そしてスタジオマスタークオリティの3種類のレゾリューションを用意しました。ローンチ当初はMP3が最も売れると思っていたのですが、いざスタートすると9割以上の方が高額なスタジオマスタークオリティを選択されていたんですよ」(編集部注:リンレコーズのダウンロードサイトは現在は閉鎖され、Qobuzのダウンロード販売にて購入できる)。
これに驚くと共に、手応えを得たようだ。ちなみにHD TRACKSがハイレゾ音源販売をローンチしたのは2008年であるから、LINNは2年も時代を先取りしていたことになる。
翌2007年、世界初となるデジタルファイルプレーヤーであるKLIMAX DSがリリースされた。構想から4年かけて誕生した渾身の作を携え、ギラード氏は日本に訪れた。
「何度も訪日し、様々な方に聴いて頂き、色々な反応を頂きました」と当時を振り返る。
だがギラード氏の顔はどこか苦笑いだ。というのも、アジアの諸外国に比べ日本市場の立ち上がりは遅かったのだ。
「日本は長年にわたりレコードを愉しみ、その後CDに移行していくなど、長年にわたって培われたオーディオ文化があります。いっぽうで他のアジア諸国は、日本に比べてオーディオ歴が浅いことから、受け入れやすかったのでしょう」と当時を分析する。
日本でDSが売れ始めたのはそこから少し遅れた頃であったとギラード氏は振り返る。その理由はLaCieやQNAPなどDLNA対応NASの選択肢が増えたからではないかとリンジャパンは分析する。
それもあるが、この頃からオーディオメーカー各社からデジタルファイルプレーヤーを出始め、日本市場で珍しいものではなくなったように思える。
だが後追いのメーカーとLINNのネットワークプレーヤーが決定的に異なっていたのは、リアルタイムオペレーションの安定性であった。
当時のデジタルファイルプレーヤーは動作安定度が低く様々な不具合が散見された。だがLINNは確実に、ストレスフリーで動作した。
その理由はどこにあるのか? 約3年という年月でアプリケーションがブラッシュアップしたためか? いや、そうではない。最初からLINNは安定動作していたのだ。
「私たちはハードもファームも操作アプリも全てゼロベースで設計・開発をしました。その際にこだわったのがリアルタイムオペレーションです。それゆえ動作そのものは軽い設計になっています。他社はPCアプリをベースに機能を削減したり、既存のアプリを使っていたからではないでしょうか」。
オリジネーターであることが、逆に強みにつながったともいえるし、それを実現させたLINNの技術力の高さと思想の高さに脱帽せざるを得ない。
デジタルファイルプレーヤーは、それ単体では音が出ない機械である。別途NASを用意し、音源を貯めておかねばならない。だが2024年末より、日本でも高音質音楽配信サービスのQobuzがスタートし、NASがなくてもハイレゾ音源が楽しめる環境ができた。
LINNに入社し約22年。ギラード氏が考えた未来が遂に現実となった。本当に最初から、このような時代が来ると予見されていたのですか? と再び同じことを尋ねると「SURE(もちろん)」と一言。そして驚きの言葉を続けた。
「2007年に登場したKLIMAX DSは現在も動作するのはもちろんのこと、ストリーミングサービスも利用できます」というではないか。
それこそ「SURE」の根拠そのものであり、ヴィジョンをしっかり描くオリジネーターの凄みだ。2010年頃に登場したデジタルファイルプレーヤーで、Qobuzが利用できる機械はどれだけあるだろうか?
「そして2025年、Spotifyでロスレスサービスが始まりました。こちらにも対応していきます」
そんなLINNのネットワークプレーヤーの現行ラインアップの位置づけをギラード氏に紹介して頂こう。
「KLIMAX DSMは、とにかく最高の物を求める方にオススメしたいです。SELEKT DSMは、自分で必要な機能をチョイスして頂く仕様になっています。MAJIK DSMはアンプまで入ったエントリーとなるオールインワンのコンポーネントです」
MAJIK DSMは2025年春、6世代目にチェンジした。
「今回は筐体構造を変えたほか、最新のクラスDアンプを搭載し、MM/MC対応のフォノ入力など、ほぼ全ての部分で刷新しています」
その中にはDAコンバーターをTIからAKMへのチェンジがあったが、その理由はと尋ねると、もともと第5世代DSMはAKMだったが、半導体工場の火災によりTIへのチェンジが余儀なくされたのだそうだ。

デジタルファイルプレーヤーのオリジネーターであり、オーディオの未来を予知し当てたギラード氏に、これからのDSMとオーディオの未来を尋ねて本稿を締めたいと思う。
「DSMはもっと簡単にセットアップできる時代がくることでしょう。以前は導入するにあたって家庭内LANの設定などスキルが必要でした。ですがインターネット回線につなぐだけで、プラグ&プレイのようにすぐに使えるようになったら便利ですよね」
今でもDSMは簡単にセットアップできるが、さらに簡易になることを目指しているようだ。そして「今後、オーディオはスピーカーとMAJIK DSMだけというコンパクトなシステムが主流になると思っています」とのこと。インテグレーションでしか実現できないクオリティーがあると考えているようだ。
思えばLINNは高級スピーカーのパワード化に対しても早い時期から積極的に行ってきた。出始めた頃は「こんな高いパワードスピーカーを買う人はいるのか?」と思ったが、今では様々なハイエンドスピーカーメーカーがパワードスピーカーの分野に力を入れている。
もっと時代を遡ると、1974年にアイソバリック方式のスピーカー配置を開発したのもLINNであり、幾つかのメーカーは現在もこの方式を用いて素晴らしい音を奏でている。
誰よりも早くオーディオに新技術を投入するという社風が、デジタルファイルプレーヤーを生み出したのだろう。これは偶然ではなく必然だったのだ。
別れ際、「LINNは常に私たちオーディオファイルに、未来を見せてくれる数少ない企業だと思います。これからも私たちに新しいオーディオ体験を与えてください」とギラード氏に伝えた。
すると、隠しごとをしている子供のような顔をしながら「ありがとう」と答えてくれた。2026年もLINNには驚かされそうだ。













