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ネットワークプレーヤー「KLIMAX」、その尽きせぬ魅力

「アルバムを1000枚聴きたいならLINNが最高」。ダイナミックオーディオ・厚木繁伸さんが語る“オーディオ道”

公開日 2025/10/30 08:41 インタビュー:山之内 正/構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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ダイナミックオーディオ トレードセンターの名物店長として知られる厚木繁伸さん。JBLのParagon(パラゴン)を愛し、LINN(リン)を愛し、リンのネットワークプレーヤー「KLIMAX」を初代からずっと使い続けてきた、日本のハイエンド業界におけるカリスマ・ディーラーのひとりである。

過日、ダイナミックオーディオにて開催されたネットワークオーディオのイベントにて、同じくリンを愛用してきたオーディオ評論家の山之内 正氏と思わぬ意気投合。山之内氏のリスニングルームにて、厚木さんの炸裂する“オーディオ愛”を語ってもらった。

ダイナミックオーディオ トレードセンター店長の厚木繁伸さん(左)とオーディオ評論家の山之内 正氏(右)
 

たくさんの音楽を聴きたい僕にとってLINNはベストな選択

ーー4月末に、ダイナミックオーディオ5555の4Fでネットワークオーディオのイベントが開催されました。その時のLINN(リン)についての厚木さんの語りがあまりに情熱的で、さらに深くお話を伺いたいと思って今回お越しいただきました。リンの製品との出会いはいつ頃でしたか?

厚木 リンはCDプレーヤーの「CD12」から使い始めました。アナログレコード再生にはEMTの「930ST」を長年使っています。CDプレーヤーについていうと、それ以前はスチューダーの「A727」、さらに前はメリディアンを使っていたこともありました。

1998年に発売されたリンの最上位CDプレーヤー「CD12」。当時の価格で280万円(税抜)

1998年にリンの「CD12」が最初に出た時に、頭の中で180万円くらいかな、と思ったら280万円もしてびっくりしました。これは困ったぞと、スチューダーの支払いも終わっていないのに(笑)。でもすぐに買ってしまいました。買わざるを得なかったんです。

ーーその決め手となったのは何だったのでしょう?

厚木 自宅で聴いて、スタイル的にも内容的にもこれしかないだろう、と。当時はすでにダイナミックオーディオで働いていましたので、他の製品ももちろん聴いていました。当時の製品では、ESOTERICの「P-0」や、WadiaのトランスポートやDACも人気でしたね。ですが、それらと全く違う設計思想である、という点に惹かれました。

これは僕の個人的な考えですが…アルバムを1000枚聴きたいのであれば、リンが最も素晴らしいと感じています。ある特定のディスクに関しては、リンがとても敵わないものもたくさんあります。ですが、1000枚と考えると、もっとも高い点数を出せるのがリンだと考えています。僕自身がたくさんの音楽を知りたい、さまざまなジャンルを聴きたいと考えていますから、そう考えるとリンに行き着いたのは必然かなと思っています。

あと、やっぱりデザインです。リンは1台で完結している。クロック入力もない。パッと置いて、それで完結。それがいいんです。

ーーリンを選ぶ人の多くにとって非常に納得できる話です。コンパクトでいながら密度が高く、高級感がある。そして2007年、ネットワークプレーヤーKLIMAX DSの初号機が登場します。

リンのネットワークプレーヤーの初号機にしてフラグシップ「KLIMAX DS」。2007年発売、当時の価格で280万円(税別)

厚木 僕はコンピューターが苦手で、エクセルとワードくらいは使えますけど、それ以外はコンピューターの作法を知らなかった。ですが2000年代中盤くらいからPCオーディオが広がってきて、USB-DACをつないで再生する、というスタイルが出てきた。ですから、困ったな、これからどうしようと思っていたのです。

そうこうしているうちに、リンがネットワークプレーヤーを出してきた。これからの時代はこれだ!と思って早速自宅に導入したのですが…。最初はとにかく苦労が多かったですね。NASをどうしたらいいか、ルーターは、ハブは。操作はどうやってやるのか?パソコンショップに教えてもらって、NASにトンキーを入れるにもさぁ大変。

リンの勉強会で、「NASや操作端末もセットにした、導入のパッケージで売って欲しい」と伝えました。そうしたら苦もなく言われましたよ、「すぐ腐りますよ」って。ぐうの音も出やしない(笑)。

でもそうやってネットワークの知識を増やし、だんだん安定して動くようになってきました。そうすると次、ショップとしての課題はじゃあどうやってお客様に紹介していくか、ということです。CDをたくさんリッピングしても、ちゃんとタグがついていないとお客様にお見せできない。曲をリッピングして、タグをつけて、僕は音楽を聴きたいはずなのに、なんでパソコンとばっかり睨めっこしてるんだろうって(笑)。

ーー初代のKLIMAX DSの音質はいかがでしたか?

厚木 正直にいえば、最初からいい音がしたわけではないのです。というか、買い替えたCD12の音質の方がはるかに良かった。でも諦めなかった。こんなはずではないと。

最初の1年間くらいは毎日KLIMAX DSを再生していましたね。そうするとね、ある日ふっと気がつくんです、「全然違う!」って。部屋や機械たちがその音を覚えてくる、DSが本来持っているサウンドクオリティを受け止めてくれるようになるんじゃないか、って思っています。

素敵な形のものが自分の家にある、というのは前提として必要なのですが、同じものを使い続けて、僕自身は音が成長する、その姿を大切にしたいんだと思っています。年単位でオーディオと向き合っていく、そうすることでだんだん見えてくるものがある。特別に画期的なことをしているわけではないのですが、そこだけはちょっと自信を持っています。

そういう経験がショップの販売担当としてはすごく大切です。入れてすぐにいい音になるとは限らなくて、DSの本来のスピードに、他の機器がついてくるまで待ってあげる。するとだんだん良くなってくる、というのが実感として分かるのです。

僕はKLIMAX DS、3回ハードウェアのアップデートをしました。もうこれで終わりにするつもりだったのですが、2021年に「KLIMAX DSM/3」が出て、また買ってしまいました。下取りサポートもあったとはいえ、かなり思い切った金額でしたが…。

厚木さんの自宅に置かれている「KLIMAX DSM/3」。2021年発表。それまでのKLIMAXシリーズとはデザインが一新され、ディスプレイが大型化したほか、天板にガラスのボリュームが搭載されたことも話題となった photo by amigraphy

LINNの音調は変わらずグレードアップしていく

ーー私もだいぶ迷いましたが、2022年にKLIMAX DSM/3を導入しました。ですが、本当に買ってよかったと思っています。

山之内氏の自宅にある「KLIMAX DSM/3」

厚木 ひとつ大切なことですが、リンは音が変わらないのですよ。CD12から、KLIMAX DSになって、DSも3回バージョンアップしていますけれど、何も変わらない。クオリティだけが違う。彼らの音決めの厳格さを感じます。

ーーわかります。エンジニアも経営者も代替わりして、CD12の頃の人はもういません。でも変わらないんですよね、不思議です。Qobuzが昨年末からスタートして、データをリッピングしてタグづけをする苦労からはだいぶ解放されました。

厚木 それはもう、本当に。ですが、特にクラシックの検索にはまだ課題を感じますね。作曲家から選ぶか、指揮者か、オーケストラか。カタカナか英語か。ジャケットで探せるというのはありがたいことですが。

ーー私はPINの機能が気に入っています。PINにニューリリースを設定しておくと、いつでもワンタッチでニューアルバムを聴くことができるのでとても便利です。

厚木 「音楽を探す」、その探し方が楽しいかどうかも僕にとっては大切です。その点、リンのソフトは楽しい。僕はKazooが好きなので、いまもKazooを使い続けています。

ーーKazooはキューを表示しながら曲ごとにお気に入り登録できるけど、LINNアプリはその手順が面倒だったり、使い勝手が微妙に違うんですよね。私も2つのアプリを使い分けてます。

厚木 それに、オンラインコミュニティにはとてもコアなユーザーが集まっていて、アップデートの直後には色々意見を出し合っている。メーカーのエンジニアさんがアドバイスをくれることもあります。そういったファンのコミュニティがしっかりしていて、困ったら助けてくれる人がいる。それも信頼につながっています。

ーーストリーミングの音質についてはどう考えますか?

厚木 僕の自宅の話に限りますが……僕はストリーミングの音質、とても好きです。自分の装置に合ってると思います。ストリーミングにない音源もたくさんありますから、そういうのはハードディスクから聴きますけどね。

お客様の中には、ハードディスクの方が音がいいって方もいます。力感などを重視される方はそういう方も多い印象です。TIDALとQobuzを両方契約して聴き比べる方もいますが、僕としてはリンで聴いた時のQobuzが好きなんだと思います。

Qobuzで用意されているプレイリストやアーティストの特集は面白くて、ずーっと聴いていられるのです。沢山のお客様から、新しい音楽や曲と出会えるのが新鮮だとお話をいただいております。プレイリストをかけておくと、新しい音楽にどんどん出会えるというのがすごいことです。

 

低域のスピード感と広がりを重視してセットアップ

ーーオーディオのセットアップとして重視していることはありますか?

厚木 僕が一番オーディオで重視しているのはウッドベースなんです。ウッドベースがどういうふうに目の前で展開されるかは最大の命題です。「床下50cm」といっていますが、ピチカートが下に“刺さる”イメージ。それがウッドベースの鳴り方の一つの指針です。

特にモノラル音源では、それが絶対的に真ん中にないといけない。古いジャズの音源、ウッドベースがスパーンと真ん中にある。

ーー私もコントラバスを弾くので、その気持ちはよく分かります。ベースのエンドピンって、床に穴が空いてデコボコになるのでホールや練習場ではすごく嫌がられるんです。でも、下にしっかり刺さないと芯のない音になっちゃうんです。

厚木 低音は音楽の基本であり、低域のハーモニーがあって上のバランスがより豊かになると考えています。低音の鳴りにくいパラゴンを長年使っているので、鳴ってくるとすぐに分かるんです。ウーファーって動きたがらないんですよ。重たいからかもしれませんが。ですから、僕の中で基準となるレコードがあるので、それを一週間に1回は再生して、パラゴンに「怠けるな!」と喝を入れています。

低音って言葉で簡単に片付けられやすいですが、一番難しいものだと思っています。オーディオマニアの皆さんは、低音を締めたい方が多いと思います。僕は緩めたいんです。きついパンツはいてるみたいで嫌だなぁって。適度なゆるさが欲しいと思っています。スピード感と響きの広がりというのが、低域の醍醐味だと思っています。

古いジャズのレコードを聴くと分かるのですが、指2本で掴んで離す、それだけのことがしっかりとしたビートを生むんです。ウッドベースというものが少し理解できるようになったら、次はベーシストの差を出していく。チャールズ・ミンガス、レイ・ブラウン、ポール・チェンバース、ダグ・ワトキンス。オーディオの先輩には「常にイメージを持ちなさい」と言われました。たくさん聴いて、聴きまくって、イメージを広げていくしかありません。それらがわかるにつれて、パラゴンの音が豊かになってきた感じがします。

結局は、パラゴンと僕の対話なんです。

ーーなるほど、コントラバスについても同じことが言えるかもしれません。練習を何日かサボると途端に鳴らなくなって、元に戻すのが大変。良い楽器ほど手に入れた瞬間はまるで鳴らなくて、演奏家は楽器と格闘を続ける。何年もかかることもありますよ。

厚木 ジャズはもちろん大好きですが、すばらしいクラシック音楽にも多く出会いました。会社にいると、四六時中音楽を聴けるんです。僕はそれ役得だなって思ってて、お客様にもたくさん鍛えられました。それはダイナミックオーディオに入社した1番の財産ですね。時代を超えて、ジャズ、クラシック、ワールド、さまざまな音楽を知ることができました。自分一人でマニアとしてやっていたら、きっと分からなかったことでしょうね。たくさん聴いてきた多々の演奏家の音楽を、沢山のお客様と共有できたら嬉しいです。

ーー楽器も、こちらから話しかけると応えてくれる。今日は嫌だって言われる日もあるけど、良い音出してくれる日が重なると、どんどん良くなっていくのがわかります。

厚木 40年やって、まだオーディオに飽きていない。まだまだ家でやって確かめたいって思うことがあります。そう、僕の想定リスナーにはミュージシャンがいるかもしれません。僕のシステムをワルターが聴いたら、カラヤンが聴いたら、マイルスが聴いたら、何ていうだろうか、って。彼らに「よくやった」って言われたいんですよ。そのために頑張りたいなぁと思います。

ーーオーディオと音楽、両方をこよなく愛している厚木さんならではの熱いお話をありがとうございました!

山之内氏のリスニングルームにて音楽を聴く厚木さん。メインスピーカーはフランコ・セルブリンの「Accordo Goldberg」、ネットワークプレーヤーはもちろん「KLIMAX DSM/3」

対談を終えて 〜闘いながら音を育てる text by 山之内 正

5月の連休直前、厚木さんとイベントでご一緒する機会があった。リンで聴くネットワークオーディオの楽しさを語るのを「そうそう!」と強く共感しながら聞いていたのだが、私には小さな心配があった。試聴会なのに、音楽をかける気配がないのだ。

話があまりに楽しいので、まあそれもありかなと思い始めた頃、「そろそろ音楽を」と言いながらS&G(サイモンとガーファンクル)の「水曜の朝、午前3時」をQobuzで再生。鮮烈なギターと澄み切ったハーモニーが会場に広がる。

わずか2分の曲だが、音が出た途端、リンで聴くストリーミングの価値はここにあると、強く実感した。しばらく聴いてなかった懐かしい曲に再会したり、好きになるのが間違いないのにまだ聴けてなかった音楽に最良の音で出会う。余計なことを考えずに曲選びができ、一瞬で出会えるのがリンの境地でもある。

根っからの音楽好きで、音に妥協しない。厚木さんのオーディオは40年以上一貫していて、ブレがないのだ。ソースコンポーネントは30年近くリンを使い続け、パラゴンとの格闘もいまだ終わる気配がない。格闘しながら「音を育てる」オーディオ。パラゴンとの壮絶な戦いぶりは次回あらためて紹介しよう。

厚木さんの愛用するJBLの「パラゴン」。パラゴンとの数年にもわたる“格闘”を経て、「いまは結構いい音でなっていると思っていますよ」(厚木さん) photo by amigraphy

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