公開日 2022/01/28 07:00
パナソニック「DMR-ZR1」が起こす“4Kトランスポーター革命”。開発者ロングインタビュー前編
UB9000を凌駕するクオリティの秘密
秋山:拙宅でもUB9000のアナログ音声出力をアナログプリアンプに接続する際には、LINNの「PURIFI」というライントランスを使って、オーディオシステムとビジュアルシステムのグラウンドを切り離してノイズの流入を防いでいます。ZR1であれば外部のDACと同軸デジタル接続をした際にも同じメリットがあるわけですね。これは地味ながら大変有意義な改良だと思います。
濱野:ZR1のコンセプトが決まったことで、ハードディスクをBDドライブの真後ろという構造的にも理想の場所に配置することも可能になりました。
秋山:あまりに見た目の収まりがいいので、当たり前のように錯覚してしまいますが、これも初めてのことでしたね。取り付け方法も変わったと伺っています。
濱野:これまでのプレミアムDIGAの開発で、ハードディスクはダンパーを使ってフローティングさせなければ、音質に悪影響を与えるという経験があったので、ZR1の設計も当初はフローティングありきで考えていました。
ところが開発が進むうちに、むしろUB9000のシャーシの剛性と重量をもってすれば、それだけで振動を抑え込めるのではないかと考えるようになりました。そこでリジッドに取り付けた試作機を作って、宮本のところに「騙されたと思って聴いてみてくれ」と持っていったのです。そうしたら宮本が血相を変えて飛んできて、「こっちの方が全然良い!」と(笑)。
秋山:内覧会で双方のハードディスクを触らせてもらいましたが、フローティングの方は動作振動が明らかに手のひらに伝わってきましたが、リジッドの方はほとんど感知できないレベルでした。
濱野:筐体全体に伝わる振動の絶対値はフローティングの方が少ないはずなのですが、あれだけの振動源が機器の中に存在しているということ自体が各所に悪影響を与えているのだと思います。もちろんフローティングが絶対にダメだという話ではありません。あくまでUB9000のシャーシの剛性と重量があっての結果です。
谷口:ハードディスク自体も振動の少ない低回転タイプで、音質重視の特注品を使用しています。さらに、弊社の工場内でも特別な検査項目を設けて全数チェックを行っています。
神園:ハードディスクは、3.2mmと0.8mmの鋼板を貼り合わせた専用ドライブベースの上に取り付けています。鋼板の材質についても宮本と音質検討しながら決めていきました。大変ではあるのですが、こうした作業はやっぱり楽しいですよね。このような取り組みが脈々と続いていくことは大切だと思っています。
秋山:リアパネルの取り付け方法も変わったそうですね。
宮本:アナログ端子が無くなったのでネジの数が減りました。それに合わせて濱野と一緒にネジの種類や締め付け方法の見直しを行いました。
濱野:トップパネルをリアパネルに取り付けるためのネジ4本が、従来のものよりピッチの細かいネジに変わっています。ピッチの細かいネジはネジ山の角度が寝ていますから、従来のネジと比較しても締め付ける力が変わってきます。
これには裏話があって、このネジはハードディスクの取り付けがまだフローティングだった頃に検討していたものなんです。従来のネジでは長すぎてハードディスクに当たってしまい使えなかったんですね。ところが、フローティングをやめることになったので元のネジに戻したら、宮本が「新しいネジの方が音が良いから戻さないでくれ!」と(笑)。
■クロック、LAN端子の強化、USBパワーコンディショナー搭載…全てはクオリティのため
秋山:レコーダーの開発秘話とは思えない話ですね(笑)。そういう意味ではシステム用クロックとAV用クロックにメスが入ったことにも驚かされました。
宮本:UB9000の開発が終わってから1年半ほどは次の高級機の話が無い状態でしたが、個人的にはUB9000マーク2を作るとしたらと仮定して様々な要素検討をしていました。先ほどの同軸デジタル出力の改善もその1つですが、それに加えて、クロック周りの強化も必要不可欠と考えました。
そこで様々なものを試した結果、システム用クロックには軍事転用も可能な超低位相ノイズの水晶発振器を、AV用クロックには超低ジッターPLLのものをそれぞれ選別しました。さらに、高周波ノイズ対策のためのチップフィルムコンデンサーや、電力供給を安定させるためのローカルレギュレーターも追加しています。これらの対策はUB9000を超えるデジタル出力の実現に大きく貢献しています。
秋山:LAN端子まで同様の手法で低ジッター化を図っていますね。そこまでやってくれるのかと、内覧会ではマスクの下でニヤニヤが止まりませんでしたよ。
宮本:開発当初はLAN端子の強化までは考えていなかったのですが、途中からやれるところは全部やりたくなってしまって(笑)。その効果はVODやネットワークオーディオの再生時に実感していただけると思います。
秋山:そして極めつけは、USBパワーコンディショナーの回路をフロントとリアのUSB端子、さらには映像用と音声用HDMI端子の計4箇所に内蔵してしまったことです。UB9000はフロントUSB端子のみでした。
宮本:USBパワーコンディショナーは、オーディオ用ではすでに定評あるアクセサリーですが、秋山さんもよくご存知のとおり、画質に対しても改善効果があります(筆者注:私は「SH-UPX01」を6本所有している)。そうした声はあちこちから届いていましたし、商品化はされませんでしたが、試作レベルではHDMIパワーコンディショナーというものも存在していました。甲野とは「ZR1ではその要素を内部に取り込みたいよね」と話していたんです。
回路自体は歴代の中で最も色付けが少ないと評価しているmk2(UBZ1の付属品)と同等ですが、さらにチップビーズやチップフィルムコンデンサーを追加して、5V電源の高周波ノイズをより一層低減しています。
次ページチーム全員の協力があったから実現できた“UB9000超え”
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