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「ベータの40年」を振り返る

さようなら、ベータマックス。AVレビュー元編集長が見た誕生、敗北、そして終焉

2015/11/13 大橋伸太郎
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知り合いにベータ購入を薦めた苦い思い出

筆者のベスト・ベータマックスを挙げてみよう。まずベータハイファイ第1号機「SL-HF77」。ステレオ音声を採用、オーディオビジュアルはここから始まった。次がベータプロ「SL-HF900mkII」。ハイバンドベータ第2作で、ジョグダイヤルを搭載した。現在、唯一筆者の手元にあるのが「EDV-7000」だが、非酸化鉄テープ(ED METAL)を使い、NTSCを越える高解像度を技術目標に開発されたEDベータは「ホームビデオ・ベータマックス」とは若干カテゴリーの違うビデオに思える。

EDベータのテープも終了する

私のお馬鹿なエピソードを一つ。私が音元出版に入社する前の1982年頃の話だ。職場で私の助手をしていた女性社員からホームビデオを買いたいと相談を受けた。私はベータ/VHS両方を持っていたが、知っている事はすべて言いたい、好みを押し付けたいという馬鹿な若造だったので、映画とロックの好きな彼女に「ベータ方式がいいよ、それもちょっとひねって、パイオニア(OEMでなくれっきとした自社生産)にしたら」と同社製ベータを推薦した。そうしたらお嬢さん育ちの彼女は薦められた通り、パイオニアのベータを買ってしまったのであった。

その後ベータ方式の劣勢が次第にあらわになり、東芝と三洋がVHSに転向、レンタル店の陳列棚から次第にベータソフトが消えていくと彼女の恨み節を延々聞かされたのはいうまでもなく、本当にすまないことをしたと思う(もしかすると、それが音元出版へ転職した理由だったかも)。もし彼女のパイオニアのベータ機が今も完動品だったら、ヤフオクでレアアイテムになりそうだが。

改めて振り返る「VHSの勝因」「ベータの敗因」

VHSとの1/2インチホームビデオ戦争の顛末は語り尽くされているので、ここで深入りはしない。戦後家電史、いや我が国の産業史に残る大勝負である。ベータ方式に対するVHS方式の勝因に必ず挙げられるのは、

(1)長時間録画でつねに先手を取った。フットボールやMLB等スポーツ中継をLPモードでそっくり記録出来ることが北米市場(メーカー、消費者)で好感された。

(2)欧州のソフト産業まで含めたファミリー作りでプリレコーデッドソフト(レンタルソフト)の充実を実現。

(3)日本国内においては、強大な販売力を持つ松下電器産業(現パナソニック)という家電業界の大きな力を引き込んだ。

すべてが正しいとも言えるし、どれも決定打ではない。1/2インチアナログホームビデオ戦争が繰り広げられた1980年代を象徴する言葉(概念)に「グローバル化」がある。この言葉を技術にあてはめると、「世界中どこでも通用する一つの明解で優れた着想」と考えられがちだ。しかし、地域や社会の差は、バリアとして厳然と存在する。「異なった地域、社会へ柔軟に適応の出来る着想」が本当の技術のグローバル化だ。

感覚に訴える技術の洗練(ベータ)は前者だ。北米だったら長時間記録、欧州ならソフトの量に対応する柔軟性(VHS)が後者。一見大きくてダサいが柔軟性に富み、「ぬえ」のように特長を繰り出し、国境を越えてはびこり、したたかに住み着いていくのがVHSだったのだ。

二方式間の競争が激化し、次々に機能を競い合うようになると、先行していたベータが追う立場へ入れ替わり、βIIがデフォルトに変わると、最大の長所だった画質がVHSと大差なくなった。アドバンテージを再び築くために記録帯域を繰り返し拡張した結果、ベータ方式内での下位互換性、あるいは他己録再での互換性が取れなくなってくる。この点、VHSはつねに規格の枠の中で連続性を確保し、自他録再の互換性にも優れていた。

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