BDや映像配信での課題とは?

【海上忍のAV注目キーワード辞典】第14回:DRMフリー − 音楽配信以外へも波及するか?

海上 忍
2012年11月29日

【第14回:DRMフリー】

■DRMを取り巻く状況

DRMは「Digital Rights Management」の略称であり、文字どおり「デジタル著作権管理技術」を意味する。音楽や映画、電子書籍といったデジタル化可能なコンテンツは、このDRMを元データに加えた形で配信、またはパッケージ化を行い、閲覧するハード/ソフトには、そのDRMを解除(復号化)する機構を要求する。DRMが一種の「鍵」として機能することで、無権利者による閲覧や違法コピーを防ごうというわけだ。


DRMの明確な定義はないが、身近なところでは市販のDVDタイトル(DVD-Video)に採用されている「CSS(Content Scrambling System)」もDRMの一種といえる。CSSは数年前に解読(クラック)されてしまい、パソコンを使えばデジタルコピーが可能なことはよく知られているが、今年10月に改正された著作権法により、リッピングソフト(解除ツール)の提供は刑事罰の対象となった。

Blu-rayに目を向けると、違法コピー蔓延の原因となったCSSの反省を踏まえ、より強力な「AACS(Advanced Access Content System)」が用意されている。AACSも一種のソフトウェアである以上、クラックされる可能性を完全には払拭できないが、最新のBlu-rayディスクを再生することによって一層強固な暗号鍵に更新されるしくみのため、DVDと比較すると違法コピーされる可能性は低い。

一方、DRMはユーザの利便性を阻害する一面を持つ。DVDやBlu-rayのようにパッケージ化されたコンテンツの場合、ディスクと物理的に一体化しているため問題視されにくいが、音楽/映像配信サイトのようにデータの形で流布される場合には、「デバイスAでは再生できるがデバイスBでは再生できない」「デバイスを買い換えたときに移動できない」などという問題が発生する。コンテンツを販売する企業ごとに、あるいは企業グループごとにDRMが異なり、それぞれ互換性がないためだ。

【音楽/映像配信サイトが使用するDRM】
 音楽映像
2012年以前現在2012年以前現在
Apple○(FairPlay)なし○(FairPlay)
Mora○(OpenMG)なし※1(映像サービスなし)※2
レコチョクなし(映像サービスなし)※3
e-onkyo△(混在)△(混在)(映像サービスなし)

※1:Mora win(2012年3月にサービス終了)ではDRMにWindows Media DRMを採用
※2:Mora winでは2006年〜2011年までWMVでのミュージックビデオ動画配信を実施
※3:携帯電話/スマートフォン向けにミュージックビデオ配信のみを展開



■DRMフリーの動き

消費者は、金銭を支払うことはその物/サービスを「買う」ことであり、いつ・どこで利用できるかも対価に含まれると考えがちだ。だが、DRMにはその社会通念と相容れない部分があり、それが自由な流通を妨げているという指摘が繰り返し行われてきた。

そこで生まれたのが「DRMフリー」の動きだ。先鞭をつけたのは、Appleが運営する音楽/映像コンテンツ販売サイトの「iTunes Store」で、2012年2月には本邦でも全楽曲がDRMフリー化された(関連記事)。それ以前は、取り扱う楽曲にApple独自のDRM「FairPlay」を付与し、iTunesまたはiPodやiPhoneでなければ再生できなかったが、すべての楽曲がDRMなしで提供するよう方針を転換、Apple製品以外のソフト/ハードでも制約なしに再生できるようになった。

DRMを取り除いたことは大きな決断だが、コンテンツホルダーであるレコード会社の理解と協力なしに進めることはできない。Appleの場合、iTunes Storeの販売力という交渉材料があったにせよ、前CEOのSteve Jobs氏が早い段階から「消費者にとってはDRMフリーが最善の選択肢」という考え方を明確に示し、レコード会社に対し働きかけてきたことが大きい。

そしてiTunes StoreのDRMフリー化から遅れること半年、ソニー系の日本国内向け音楽販売サイト「mora」もDRMフリー化を実施(関連記事)。コーデックにはAAC-LCを採用、ウォークマン以外にもiPod/iPhoneなどさまざまなデバイスで再生可能になった。さらにその2ヶ月後には、携帯電話やスマートフォンに強みを持つ「レコチョク」もDRMフリー化を決断、PCでも変わらず再生できるようになった。

■DRMを巡る今後の課題

このように、音楽に関しては「DRMフリー」がスタンダードとなりつつあるが、映像や電子書籍など他のコンテンツの状況はあまり変わらない。

音楽のDRMフリー化で先行したAppleも、映像コンテンツに関しては変わらずDRMの縛りがある。繰り返し聞かれる音楽と、一度鑑賞すれば満足してしまう映像とではコンテンツの性質差もあるが、コンテンツホルダーの考え方やスタンスが大きく影響しているからだろう。DVDやBlu-rayにおける状況を見ると、音楽のような流れに移行するとは考えにくいところだ。

一方、ソニーの「Music Unlimited」など、定額制の音楽配信サービスも開始されている。ほとんどのサービスが楽曲データ本体をクラウド上に持つことから、そもそも楽曲の移動が発生しないことが特徴だ。しかし今度は、サービスの対象となるデバイスやソフトウェアにより再生の可否が決まることから、DRMに代わる新手の"縛り"とする見方もある。音楽配信サービスについても、自由な利用を期待したい。

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