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A2DP、aptX…高音質Blutoothのポイントとは

【海上忍のAV注目キーワード辞典】第10回:Bluetoothオーディオ - 「Bluetoothは音が悪い」って本当?

公開日 2012/09/05 18:25 海上 忍
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【第10回:Bluetoothオーディオ】

Bluetoothオーディオは音がいまひとつ……そう言われてきたことには理由がある。今回は、Bluetoothオーディオを支えるプロファイル「A2DP」のしくみと、音質を左右するソフトウェア「コーデック」の働きについて解説してみよう。

■Bluetoothのオーディオプロファイル

Bluetoothは、2.4GHz帯を使用する近距離通信規格のひとつ。指向性が弱く、半径10m程度の範囲であれば安定した通信が可能なことから、普及開始当初はマウスやキーボードといったパソコン用周辺機器、現在ではリモコンや携帯電話など幅広いデジタル機器に採用されている。

そのBluetoothは、多様なメーカーのさまざまな機器に使用されることから、機器の種類や用途ごとに策定された「プロファイル」と呼ばれる規格に基づき通信が行われる。Bluetoothをサポートするだけでなく、どのプロファイルに対応するかで、通信の可否が決まってくるのだ。

Bluetoothでは、オーディオ機器用のプロファイルとして「A2DP」(Advanced Audio Distribution Profile)を用意している。オーディオ関連では、他にHSP(Headset Profile)も存在するが、名前のとおりヘッドセットなど人間の声を扱うことを主目的としているため、音質という点ではA2DPに遠く及ばない。

A2DPは、モノラルもしくはステレオ(2ch)のオーディオデータを、ACL(Asynchronous Connectionless Link)というチャンネルを通じてストリーミング配信する。ACLは非同期通信を行うため、同期を図りながらデータをやり取りする方式と比較すると音質面で有利とされる。Bluetoothの数あるプロファイルのなかでも高品質オーディオ向けとされ、現在販売されているスピーカーやヘッドフォンなどのBluetooth対応オーディオ機器は、ほぼすべてがこのA2DPに準拠している。


Bluetooth機器を利用する場合は、事前に「ペアリング」と呼ばれるヒモ付け作業が必要(画面はiPhoneの設定画面)
なお、ストリーミング配信は配信側と受信側が「1対1」の関係のときのみ可能で、「1対多」の関係は許されない。配信側がスマートフォンだとすると、そのオーディオデータを受信できるBluetooth/A2DPデバイスは1台のみだ。これはペアリング(Bluetooth通信の利用前に行うデバイス間のヒモ付け作業)とは関係なく、例に沿っていえば、スマートフォンに2台のBlutoothヘッドフォンがペアリングされているとしても、スマートフォンの音楽を聴けるのはそのうち1台のみ、ということになる。

■音質を語るなら「コーデック」に注目

A2DPでは、オーディオデータが"素のまま"やり取りされるわけではない。A2DPの規格で定められたルールに従い、オーディオデータを圧縮してから送信するのだ。たとえば、現行規格のBlutooth 3.0では非対称型通信時の帯域幅は最大約2.17Mbpsだが、実効レートはより狭い数百kbps程度に抑える必要がある。

その圧縮用ソフトウェア(オーディオコーデック)としてBluetoothでは、「SBC」(SubBand Codec)を用意している。A2DPでは必須のコーデックとされ、A2DP対応をうたうBluetoothデバイスでは、SBC非対応のものは存在しない。

A2DPではSBC以外にも、オプションとしてMEPG-2/4 AACとMPEG-1オーディオ(MP3)、ATRACが定義されている。しかし、圧縮/展開に複雑な計算を伴わないため高い演算性能は要求されず、かつロイヤリティーフリーというSBCはコストを抑えられるため、市販のA2DP対応BluetoothデバイスはSBCのみサポートしているものが多い。

Bluetoothデバイスの音質を語るとき、このコーデックは重要なポイントとなる。なぜなら、A2DPでオーディオデータがやり取りされる場合、パソコンやスマートフォンで再生(デコード)されたAACやMP3といったオーディオファイルは、いちどSBCに変換(トランスコード)されてから他のA2DPデバイスへと転送されるからだ。元の音源がAACだとすると、AAC(圧縮状態)→未圧縮データ(展開)→SBC(再圧縮)→未圧縮データ(展開)の順に展開/圧縮を繰り返すため、不可逆圧縮コーデックであるSBCでは音質劣化が避けられない。

そのため、Bluetoothオーディオには音質を期待できないとする意見が支配的だったが、状況は変わりつつある。より圧縮効率に優れるコーデックを採用するメーカーが増えていることが、その証明だ。


LBT-AVAR300
たとえば、Logitecのステレオオーディオレシーバー「LBT-AVAR300」(関連ニュース)は、SBCに加えてAACにも対応、音源がAACの場合は展開/圧縮工程を短縮できる。AACをSBCにトランスコードするプロセスを省略できるので、オリジナルのAACそのままの音質を再現できるというわけだ。

A2DPの規格には定義されていないが、「aptX」というコーデックも見逃せない。英Audio Processing Technology社(2010年に英CSR社により買収)が開発したこのコーデックは、元々は低遅延/高音質のオーディオコーデックとして音声伝送に利用されてきたが、CD品質(44.1kHz/16bit、約1.4Mbps)のオーディオソースを352kbpsにまで小さくできる圧縮効率が注目され、特に音質にこだわるBluetoothオーディオ機器での採用事例が増えている。


AQUOS PHONE SH-07D
同じくaptXに対応したレシーバーが必要になるが、前述したLBT-AVAR300のほか、シャープAQUOS PHONE「SH-06D」や「SH-07D」(関連ニュース)など最近のAndroid端末にも採用されているので、高音質でワイヤレスオーディオを楽しみたい向きは要チェックだ。

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