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Suaraさんが語る「Pure2」ここが聴きどころ! − F.I.X. RECORDS「Pure2」制作現場レポート(3)

公開日 2011/06/07 20:57 岩井 喬
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橋本まさしさんが語る「アナログ録音にこだわったワケ」

続いてはプロデューサーとレコーディング&ミキシングエンジニアを務めた、橋本まさしさんのインタビューである。この段は橋本さんだけでなく、下川さんやShuntaroさんにも同席してくださった。

 『Pure2』プロジェクトのキーマンたち。左からエグゼクティブ・プロデューサーの下川直哉さん、ジャズアレンジ及びピアノ担当のShuntaroさん、プロデューサー/レコーディング&ミックスエンジニアの橋本まさしさん

下川さん(以下、敬称略) SACDの『アマネウタ』リミックスが終わった後、橋本さんと食事を一緒にしているときに、“ジャズをやらないか”と話してくれたんですよね。任せてくれたら段取りから何から全部やるからということだったから、それがスタートとなったんですよ。

橋本さん(以下、敬称略) 何でもできるってとりあえず言っとかないとね(笑)。色んなものができそうだという予感があったんですよ。オーディオを楽しむ人たちへ色々な音源を提供したい。色々なジャンル、色々な空間を楽しむことができるようなものにするために、エンジニアとしてはあらゆるジャンルに挑むことができるだろうと思いましたし、プロデューサーとしても、いろんなジャンルを内包した幅のあるジャズにすると面白いのではと。これに合わせて事前に500枚くらいジャズのCDを聞き込んで参考にしましたね。

『Pure2』制作に当たってのテーマは3つ。オーディオファンが楽しめる高音質なものであること、スーさん(『Pure2』セッションで生まれたSuaraさんの愛称)をフィーチャーすること、そしてあまりジャズに親しみのない人たちでも楽しめるものを、です。

まずは誰にアレンジをお願いするかを考えました。スーさんがジャズをいつも歌っているわけでないから、その温度感にうまく合わせてもらえそうなのはShuntaroさんだろう、ということでお願いしました。

そして楽曲アレンジの方向性を詰めるための大阪での打ち合わせの前に、2曲だけもらっていたボーカルトラックを元にプリプロダクションのデモを自分でざっくりと作ったんです。そしてコードアレンジを作って一番初めにできたのが5拍子にした「キミガタメ」。後は打ち合わせ当日、その場でギターを弾いてボサ・ノヴァ・アレンジで詰めた「トモシビ」ですね。下川さんがどこで気持ちよさを感じているかを汲んで自分なりに解釈して進めました。当初のアレンジでは難色を示していた下川さんも、その場で歌ったボサ・ノヴァのギターで演奏したものは大丈夫というで、曲の持っている雰囲気を壊さないようにしないといけないと確認できたのです。

それと同時進行でShuntaroさんには事前に参考になりそうなCDの音源を送っておいたので、大阪から帰ってきた時に曲のイメージや方向性を一緒に話し合い、メンバー候補を決めたんです。


インタビュー中の一幕。録音中のセットリストを眺めながら、セッションを振り返ってもらった
Shuntaro:ほとんど一発録りに近いスタイルだから、大事なメンバーは早めにスケジュールを押さえる必要があったので、その場で電話をかけましたね。

橋本:ジャズ好きな人だと延々と難しいソロとかのプレイを好みますが、入門の人には決して向かないでしょう。そうした中でちゃんとジャズもできるがポップスも分かるジャズプレーヤーにお願いしました。

− 今回のレコーディングではアナログ・マルチ・レコーダーを使った、アナログ録音が一つのキーポイントでしたね。

橋本:アナログ録音を選んだのは、やはり音の良いものを作りたいという思いからです。「デジデザイン192I/O」(ProToolsのデジタル・インターフェース)だけに頼るのも面白くないし、音の良いADも借りられそうになかったことも要因ですが、当初からこのプロジェクトはアナログの音に近いものを目指そうと考えていたので、それならアナログ・マルチで録ってしまおうと。ボーカル曲は取り回しが大変になるので、ProToolsベースでというのは当初から考えていました。

アナログの音は文化ですよ。あれは今なかなか聴けない。「君のままで」のキックの音を作ってるときに、気持ち良い音でね、昔のPAの音みたいだなと思いました。今のPAはみんなデジタルだから、帯域を分けるチャンネル・ディバイダーもデジタル化されているけれど、対応するサンプルレートが44.1kHz/16bitか48kHz/24bitなんですよ。だからスピーカーの前でボトルネックになってしまって、明瞭感はあっても薄い、情報量がなくてうるさく感じてしまう。音圧も太いというより、ただでかいという感じ。でも以前のスタックPAはキック一発でもすごくレンジが広かった。あれは全部アナログの音だからなんですよね。しかし、なんでそういうオーディオの文化をなくしちゃうんだろう…。今改めてその問題を突きつけられてる気がしますよ。

− なるほど、今後の課題も浮き彫りになったセッションだったということですね。ありがとうございました。


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