パナソニックとソニーの3Dテレビラインナップに感じる「温度差」と「共通点」

ファイル・ウェブ編集部:風間雄介
2010年03月10日
パナソニックとソニーの3Dテレビが相次いで発表された。パナソニックは4月23日、ソニーは6月〜7月と発売時期に若干のタイムラグはあるが、この夏には両社の製品を店頭で見比べることができるようになるはずだ。

両社は、ともにAV機器の次の進化の方向性として「3D」を戦略的に推し進めている。ソニーは「3D&BDプロジェクトマネジメント部門」を立ち上げ、2012年度に3D関連商品の売上げを1兆円規模に伸ばそうとしているし、パナソニックはフルHD 3Dに対応したAV機器をグローバルに展開し、このところ成長が鈍化していると一部で言われているプラズマテレビの底上げを図ろうとしている。

両社はいずれも「3Dホームエンターテイメント」普及に本気で取り組んでおり、その点は共通しているのだが、今回の新製品のラインナップを見る限り、両社の商品戦略に“温度差”があるように感じられた。もちろん、それは両社が持つリソースと密接にリンクしている。

■フラグシップのみ3D対応のパナソニック、柔軟な商品構成のソニー

パナソニックは、フラグシップの“VIERA”VT2シリーズだけが3Dに対応する傍ら、Blu-ray 3D再生に対応したブルーレイDIGAとBDプレーヤーを同時に発表した。また発表会では、同社がハリウッドに構える「パナソニックハリウッド研究所」(PHL)の技術力をアピール。高品位なBlu-ray 3Dソフトを一つの軸にして3Dテレビを普及させる戦略を基本に据えている。

パナソニックはフラグシップのVT2シリーズのみが3D視聴に対応。同時にBDレコーダーやプレーヤーも揃えてきた

一方のソニーは幅広い商品ラインナップを揃えた。フラグシップ機の「HX900」シリーズはオプションの3Dトランスミッターとメガネを購入することで3D視聴が行える「3D対応」で、画質的にはその下に位置づけられる「LX900」シリーズだけが3Dトランスミッターを内蔵し、3Dメガネも同梱した「3D内蔵」モデルとなっている。

一方のソニーは「3Dレディー」を含む3シリーズをラインナップする

だがソニーが最も売れると見込んでいるのは、さらにその下の価格帯に位置する、3D対応のスタンダードモデル「HX800」シリーズだ。40V型で想定売価が22万円前後と、これまでの2D対応機とほぼ同等の価格帯を維持しつつ、トランスミッターとメガネを合わせて2万円足らずの追加出費を行えば3D表示に対応できるという、非常にコストパフォーマンスが高いモデルだ。同社は3D対応機について「将来も安心なモデル」と説明。まずは通常のテレビとして購入してもらい、コンテンツが潤沢に供給された段階でメガネなどを買い増してもらおうという戦略だ。

■本当にBRAVIAの方が安いのか

試みに、VIERAとBRAVIAの3D対応モデルについて、画質や画面サイズ、表示デバイスの違いを無視して最廉価モデルの価格だけを比べてみよう。ソニーは23万円台で3D視聴が行える一方、パナソニックの50V型モデル「TH-P50VT2」は想定売価が43万円前後なので、その価格差は約2倍に及ぶ。

もちろん、テレビは安ければ良いというわけではない。そもそもフラグシップ機とミドルクラス機を単純に価格だけで比べるのは乱暴であり、3D映像や2D映像のクオリティ、各種機能を綿密に検討する必要があるのは当然だ。

事実、今回のBRAVIAの3D対応機のうち、「最高画質」を謳うHX900シリーズの52V型モデルは想定売価が47万円前後。これにメガネとトランスミッターを加えると49万円弱になる。想定売価が43万円前後で、3Dメガネが付属するパナソニックのTH-P50VT2とはわずかに画面サイズが異なるが、フラグシップモデルで3D映像を見るのなら、VIERAの方がコストパフォーマンスが高いという見方もできる。

余談になるが、ソニーが2010年度にグローバルで2,500万台以上の液晶テレビを販売する計画を掲げており、このうち10%程度が3Dテレビになると見込んでいるという事実も無視できない。「3DテレビでシェアNo.1を目指す」と公式にコメントしている以上、現在熾烈な戦いを繰り広げているサムスン電子やLG電子などと、3Dテレビでも価格面で張り合う必要が出てくる。

3Dが新しい技術だからといって、必要以上の価格プレミアムを付けては、LED搭載モデルのときのようにサムスンに足下をすくわれかねない。このような危機感が、手頃な価格帯の3D対応モデルを用意した背景だろう。ちなみに米国の通販サイトを見ると、サムスンはすでに46V型の3D対応モデルを2,500ドル程度で販売している。

ともあれ、フラグシップ機での「最高の3D体験」をまずはじめに提案してきたパナソニックに対し、ミドルクラスの手頃な価格帯でも3D対応を実現してきたソニー、というコントラストは実に鮮やかだ。

■2D→3D変換の有無に見る3Dに対する考え方の違い

また両社には、3D映像に対する考え方にも違いがある。パナソニックは丁寧に撮影/オーサリングされたフルHD 3D映像をユーザーに届けることを優先した結果、2D→3D変換機能を搭載しなかった。同社は以前から2D→3D変換に懐疑的であり、これは3Dテレビが過去に何度も商品化されてきたにも関わらず、クオリティが低かったためにユーザーの不興を買い、本格的なブームに至らなかったという過去の教訓から学んだ結果だろう。

同社はPHLを持っており、Blu-ray 3Dのオーサリング環境もすでに整えている。現在、もっとも高画質な3Dソフトを作れる数少ない会社の一つがパナソニックだ。だから同社は、3DにおいてもフルHD 3Dこそ「ホンモノ」だと強くアピールしている。だが一方で、Blu-ray 3Dによる再生環境は整えたものの、現時点で入手できるBlu-ray 3Dパッケージソフトが存在しないことも事実だ。

一方でソニーは、フルHD 3Dを重要視していることは当然だろうが、3D対応機の全機種が2D→3D変換機能を装備しているという事実からも、もう少しクールに現状を分析しているように見受けられる。

2D→3Dの変換精度は現状ではさほど高くなく、丁寧にオーサリングされた3D映像と比べたら、その3D効果は見劣りする。シーンによってはあまり3D効果を感じられなかったり、映像解析エラーによって不自然な映像となる可能性もあるだろう。現在、BRAVIAの2D→3D変換機能はチューニングの真っ最中とのことだが、同社はその効果の限界について百も承知のはずだ。それでもなお内蔵したのは、3Dコンテンツの少なさを少しでもカバーしようという意識の現れだろう。

■PS3の3Dゲームを当初のメインコンテンツと位置づけるソニー

一方でソニーは、3D対応テレビを発表しながら、Blu-ray 3D再生に対応したBDレコーダーやBDプレーヤーのアナウンスは行わなかった。北米ではBDプレーヤーの発表をすでに行っているが、国内では夏から秋にかけて順次発売する計画となっている。パナソニックがテレビとBDを同時に発表したのに比べて何とも悠長に感じるが、これは同社がPS3という資産を持っているからこそ可能な戦略と言える。

国内において、家庭用3Dコンテンツがほとんど無いと言ってもいい現状では、まず真っ先にまとまった数のコンテンツが登場する可能性が高いのは、PS3向けの3D対応ゲームだ。

すでに、3D対応BRAVIAの発売と同時期にPS3の3Dゲーム対応アップデートが行われることがアナウンスされており、PS3用の3Dゲームの登場も間近に迫っているはず。またPS3では、年内にはBlu-ray 3Dの再生も可能になる予定だ。Blu-ray 3Dタイトルのラインナップが潤沢に揃うまでは、慌てて据え置き型プレーヤーやレコーダーを発売する必要もない。しばらくはPS3の3Dゲームで十分ではないか、というのが同社の本音ではないか。

さらに言えば、PS3で3Dゲームを楽しむ用途を考えたら、テレビの価格が高すぎては普及が進みにくいし、画面サイズは40V型程度でも十分なはず。3Dテレビの普及初期段階で何をメインコンテンツとして捉えているかも、前述した商品戦略の差異につながっているのだろう。

■両社が「3Dテレビ普及」の先に思い描く方向性

このように、両社の3DテレビやBDの商品戦略には、考え方の違いが如実に現れている。ただし、これは新規格の普及初期段階に特有の、些細な違いと言えないこともない。両社が3Dテレビを大量に売ると意気込んでいることは確かだが、その先に両社が見据えている方向性は共通していると予想できるからだ。

世界中のAVメーカーで、3Dの入り口から出口まで、つまり業務用の3D映像撮影機材や編集機器、3Dパッケージソフトのオーサリングから、それらを家庭で楽しむためのテレビとプレーヤー、あるいは家庭用3Dビデオカメラなどまで、一貫して供給する能力を備えているのは両社だけだ。

今年1月、パナソニックはアメリカの大手衛星放送サービス、DIRECTVとの協業を発表。ソニーも同時期にESPNやディスカバリーチャンネルとの提携を相次いで発表した。これは3D放送コンテンツを増やすねらいももちろん大きいだろうが、その副産物として業務用機材の刷新需要も見据えていることは明らかだ。

またソニーは傘下のソニー・ピクチャーズを通して3D映画制作を積極的に進める計画を明らかにしているし、パナソニックもPHLを通してハリウッドのメジャースタジオに太いパイプを持っている。さらにソニーはデジタルシネマ用カメラやデジタルシネマプロジェクターでも、今後3D対応機を積極的に拡販するだろう。一方のパナソニックも3D映画撮影用カメラなどの充実に積極的に乗り出すはずだ。

フルHD 3D映像の楽しさをなるべく多くのユーザーに理解させ、その結果、ユーザーが3Dコンテンツに対する渇望感を持てば、経営環境が厳しいと言われる放送局も重い腰を上げ、3D収録に積極的に取り組むかもしれない。そうなればテレビやプレーヤーといった家庭用機器だけでなく、映画撮影/表示機材や放送機器などBtoB需要も膨らみ、大きなビジネスチャンスが生まれる。両社はそのような大きな視点で、今後数年の3Dビジネスのシナリオを描いている。

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3Dテレビもすぐ技術的に陳腐化し、価格競争に巻き込まれてしまうのではないか。そんな声が方々から聞こえてくるし、実は記者自身もそのような危惧を抱いていた。だがソニーは初めから手頃な価格設定の商品を用意することで、とにかく販売数を増やし、3Dテレビをより多くの家庭に届けるという戦略を鮮明に打ち出してきた。3Dによる単価引き上げには、初めからさほど執着していないということだろう。

パナソニックもソニーやサムスンの価格設定を見て、特に北米などでは販売価格を調整してくる可能性が高い。1台あたりの収益性にこだわっても、とにかく数が出なければ、トータルの収益性という面で勝負にならないからだ。

価格を下げれば、買い替えや買い増し需要によって3Dテレビの普及が徐々に、しかし着実に進むだろう。その普及を足がかりとして、3D映像ソリューションの上流から下流までを取り込み、そこにビジネスチャンスを見いだす。それこそが、両社が共通して思い描いている3D戦略といって間違いない。

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