【レビュー】密閉型を再定義、オーディオテクニカの“ウッドヘッドホン”「ATH-AWX7000」を聴く。『TCbA』思想の実力とは?
正確なピストン運動=振動板を正確に動かす
開放型の『TOA』に対しても、入力100%を限りなく出力100%で鼓膜へ届けることを理想としているが、「振動板の動きを妨げない最大開放の筐体設計」「余分な振動を止めるべく空気の流れを精密制御」「低域まで量感良く届けるため振動板を正確に動かす」という3点を満たす必要があると定義しており、密閉型と近しい点もあれば、方式の違い故に異なるアプローチで理想を追求していることがわかる。
この両者に共通する要素として挙げられるのは “正確なピストン運動=振動板を正確に動かす” という点だ。昨年は発売された開放型フラッグシップ「ATH-ADX7000」でも用いられたHXDT(High-Concentricity X Dynamic Transducer)技術がこの正確なピストン運動に大きな効果をもたらしている。
HXDTはドライバーユニットを構成するバッフルや振動板、磁気回路、ボイスコイルなどの部品それぞれの中心を、より正確に揃える生産・製造技術であり、振動板成形からドライバーアッセンブリーまでを含めた全体の精度向上を図っている。
これによって従来製品と比較して製造誤差を1/10にまで抑えたという。この結果、振動板は柔軟性と強度の向上、軸ずれによるピストン運動のローリングも解消し、意図した通りの動きを実現。全帯域での音質向上に繋げている。
さらにATH-AWX7000では振動板そのものにも強い空気バネに負けない強度の高さを追求したHMD(Hybrid Matrix Diaphragm)をΦ58mmドライバーに採用。
中心部にアルミドーム、外周部に高分子フィルムを用いる異種複合振動板の改良版で、大信号入力時、異種素材のつなぎ目に力が集中し振動板が変形するという問題があり、これを解消した。
旧来はボイスコイル位置で異種素材を接合していたが、HMDではボイスコイル周りから外周部側へ接合部分を延長し、アルミドーム端をフィルム部のコルゲーション形状に揃えたHXDTによる高精度な振動板製造技術も併せることで、接合部での力の集中を解消しつつ、振動板の強度も向上。
大入力時でも振動板の変形を減少させ、あらゆる音量域、帯域での音の立ち上がりとダイナミクスの改善に繋げている。
軽量化のため成熟するまでに約300年かかる木曾檜を採用
ハウジングは構造的に重量が増す傾向にある密閉型の装着性向上という観点で、軽量化とフラグシップに相応しい品位を備える材料を探し求め木曽檜にたどり着いたという。
成熟するまでに約300年という長い年月を要する希少な木材で、本製品には寺社仏閣の建築用に確保されている森の間伐材を活用しているとのこと。
『TCbA』で目指した音響的に密閉された筐体構造とするべく、マグネシウム製フレームとウッドハウジングはビス留めとともに、工業用接着剤で隙間なく接合。
これはATH-W2022でも用いられた手法を基としているが、一方で完全な密閉空間では空気バネが硬すぎて振動板は振幅できなくなるため、空気バネの硬さ調整用にハウジング後室には圧力調整ポートが設けられている。
ハウジング内部の吸音材を極力減らし、鹿革イヤーパッドも前室側の適度な密閉構造をもたらし、チューニングに役立てているという。
従来の同社製密閉型ヘッドホンではハウジング内にD.A.D.S.構造と呼ばれるインナーバッフルが設けられていた。これは低域再生の量感を高めるために、振動板が動きやすいよう、空気の粘性を利用するという手法だ。
しかし、ATH-AWX7000ではHMDによって振動板の精度や強度が向上したおかげで、従来のような空気の抵抗を与えなくとも低域が出せるようになったため、DADS構造は排除しているという。
『TCbA』で目指した3つめの分割振動の抑制についてはHMDによって高域の分割振動を抑制できたことによって解決。旧来、高域再生時はドーム中心部の高速振動に外周部が追随できず、部位ごとに動きがばらついて波打つことで高域の分割振動が発生していた。
これが独特のピーク感や色づきに繋がっており、積極的にチューニングに取り込む向きもあったが、原音再生とは相いれない事象であることは確かだ。
ATH-AWX7000ではHMDの導入によってドーム部も外周部も全音域で一体に動くため、振動板の形が崩れず、音源に忠実な再生を実現している。オーディオテクニカがフリーエッジ方式を用いないのもこうした理由があるからこそだ。
バッフルはグラスファイバーを混ぜ込んだ樹脂素材PPS製。軽量でありながら強度も高く、不要共振を抑えている。また磁気回路には、ATH-ADX7000と同じく、磁気の流れがどの方向にも均一になるよう設計された無方向性電磁鋼板を採用。
磁気回路内での磁束の流れをスムーズにしつつ、エネルギーロスも最小限に抑え、電気への変換効率を高めている。またノイズの発生も抑えるため、音の透明度を高め、純度感も追求しているという。
ケーブルはA2DC端子による両出し・着脱式。6.3mm標準プラグ仕様のものと4ピンXLRプラグ仕様のバランスケーブルの2種類が同梱するが、取り回しの良さ、タッチノイズに配慮した編み込みタイプのケーブル仕様となる点が新しい。

