高いハイファイ性能と音楽再現力。CDからQobuzまで、マランツ“10シリーズ”の豊かな音楽性に浸る
マランツの孤高のフラグシップとして君臨する「10シリーズ」。過去のトップラインを大幅に上回る物量と音質技術を投入した意欲作として、日本はもとより世界中のオーディオファンから熱狂的に迎え入れられた。
ネットワークプレーヤー「LINK 10n」は今年のオーディオ銘機賞2026にて“ネットオーディオ大賞”を受賞、「SACD 10」と「MODEL 10」は昨年“金賞”を受賞するなど、華々しい躍進を飾っている。
Bowers&Wilkinsのスピーカーと組み合わせて紹介される機会の多い「10シリーズ」だが、今回は日本で急速にファンを増やすカナダ・パラダイムのスピーカー「Persona B」と組み合わせた試聴レビューをお届けする。パラダイムを愛用する鈴木 裕氏が、マランツの持つ音質の底力を改めて検証!
パラダイムのスピーカーが引き出すマランツの新しい魅力
マランツの10シリーズは、現在のマランツのフラグシップである。3機種用意されており、値段の高い方から紹介すると、「MODEL 10」がプリメインアンプ、「LINK 10n」がストリーミング・プリアンプ、そして「SACD 10」がSACD/CDプレーヤー、というラインナップ。
これらを集めて試聴するというのが今回の趣旨であるが、オーディオ好きとしては非常に興味深いテストである。今回はリファレンスのスピーカーとして、パラダイムの「Persona B」を鳴らしてみることにした。
以前「MODEL 10」と「SACD 10」をB&Wの「802 D4」と組み合わせて試聴したこともある。その結果を踏まえた上で、この“10シリーズ”の新しい魅力をPersona Bが引き出してくれるのではないか、という期待を持って試聴に挑んだ。
「Persona B」については、以前A級やAB級、D級、さらに真空管アンプまで含めて様々な作動方式のアンプと組み合わせてテストしたことがあって、その懐の広さ、アンプの音になり切ってしまう対応力の深さに舌を巻いた。また、ノミナルインピーダンスが8Ω、能率92dBというメーカー発表のスペックの割には、アンプに駆動力を要求するスピーカーで、そういった意味でもリファレンスとして好適ではないかと考えたのだ。
オーディオ界の天辺に果敢にチャレンジする
最初はSACD 10からの信号をMODEL 10に入れて、CDから聴き出した。ソフトはエリック・クラプトンの『アンプラグド』から「ロンリー・ストレンジャー」。基本的な音調としては中域の存在感が高い。しかし、音の重心は低く、最低域の再生レンジもPersona Bの能力の限界まで鳴らしているように聴こえる。
802 D4を鳴らした時にも感じたことだが、このアンプの駆動力はかなり高い。MODEL 10のパワーアンプ部はクラスDだが、出力は500W×2(4Ω)という大出力を誇る。この力がスピーカーを見事にグリップし、プレーヤーが再生した音の情報を血肉化させる。
クラプトンの声の複雑なテクスチャーを見事に聴かせてくれる一方、女性コーラスの雰囲気も良く、クリーミーな感じも出ている。音像はしっかりと定位し、オーディエンス一人一人の拍手が見えてくるので、その人数を数えられそうだ。音の立ち上がりとしゃがみは速い。
続いて、同じくCDで竹内まりやのアルバム『クワイエット・ライフ』から「シングル・アゲイン」を聴くと。このボーカリストの声の良さを上手に聴かせてくれる。ジャズらしいサウンドとボーカルということで若い時代のカサンドラ・ウィルソンの歌を聴けるアルバム『ソング・ブック』からの「ブルー・イン・グリーン」や「アイム・オールド・ファッションド」を聴くと、ドラムスのキックドラムのドスドスいう感じが良く出るし、ウッドベースのピチカートの弾み方も良く、グルーヴ感が実に楽しい。
クラシックのオーケストラで『ワーグナー前奏曲と間奏曲集』から「ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲」を聴くと、トゥッティでも音の重心が高くならずしっかりと鳴っている。分解能も高く、音の色彩感も感じられる。
次にSACDの音を確認しようと、ブーレーズ指揮、ベルリン・フィルの「ラヴェル集」から、「道化師の朝の歌」を聴くと、SACD 10とMODEL 10の音の方向性は見事に揃っており、情報量の多いプレーヤーからの信号に付帯音を付けることなく、MODEL 10がシャープにリアルに電流増幅している印象だ。コンサート・ホールの天井の高さがわかるような空間表現力。さすがに開発時期がいっしょだけのことはある。
ディスクプレーヤー開発の集大成として、最新最高のメカエンジンSACDM-3(CDやSACDをチャッキングして回転させる最新のドライブ部)を高剛性なシャーシに設置したオリジナルのアルミのメカベースに組み合わせている。
そしてDAC部は既成のデバイスを採用するのではなく、マランツオリジナルのディスクリートDACであるMMM(Marantz Musical Mastering)の最新バージョンを自社開発のアルゴリズム、パラメーターで行っている。
そして、筆者がデジタル・プレーヤーを評価するときに重視するアナログのラインアンプ部にはHDAM(ICを使わず個別の素子で回路を組む方式)による高速アンプモジュール回路の最新バージョンを投入。電源部はデジタル、アナログそれぞれにトロイダルコアトランスを搭載した完全独立電源部。
いや、こうして、個々の技術を紹介していくと、本質が見えにくくなる。はっきり書こう、世界で最初にCDプレーヤーを開発した数社のうちのひとつであるマランツが持てる技術の全てを投入して、オーディオ界の天辺を狙って開発したSACD/CDプレーヤーなのだ。
そういう高い志、漲る意欲のようなものが、その造りや再生音から感じられる。それと同じことがMODEL 10にも言える。
音楽をリラックスして聴きたくなるLINK 10n
SACD 10のテストはここまでにして、次にLINK 10nをMODEL 10に接続して聴き始めた。ちなみにボリューム調節などの機能は使わないで、ネットワークプレーヤーとしての性能をテストした。
音源はハイレゾストリーミングのQobuzから、自分が良く聴いているマケラ指揮、パリ管弦楽団による「ベルリオーズ:幻想交響曲」から、1楽章の冒頭、5楽章と聴いていく。オーケストラの手前から弦楽器、木管楽器、金管、打楽器と並んでいる前後のレイヤーが良く見えてくる。木管や弦楽器の倍音を含めた音色感の再現性、5楽章終盤のティンパニーの強打の盛り上がりも良く、低域の密度も高い。
さらにノラ・ジョーンズ「カム・アウェイ・ウィズ・ミー」、スティング「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」、サラ・ボーン「バードランドの子守歌」、チェット・ベイカー「アイム・オールド・ファッションド」と聴いていく。
念のために、自分のテスト用のUSBメモリからチャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルトや、高田 漣がギターを弾き語りしている実験的なアルバム『BOW』からと聴いていったところでよくわかった。腑に落ちた。
LINK 10nのハイファイ性能は高く、情報量は素晴らしいが、その聴かせ方がSACD 10とは違う。先述したように高い志と漲る意欲のようなものがSACD 10には感じられるのだが、そこで獲得した技術や評価という自信をもってLINK 10nは開発されている。
天辺を取ろうと漲ぎっていたSACD 10に対して、LINK 10nの音は、いい意味でのマイルドさ、聴き心地の良さを持っている。それは普及価格帯のマランツのアンプにあるもので、仕事で疲れて帰宅して、音楽を聴きたくなるような音調である。
開発時期の違いによる音の違い。非常に興味深いテストだった。そしてマランツの10シリーズは、「多くのオーディオ好き、音楽好きの方に絶対的に薦められる」というのが結論である。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
