待望の“Grandioso”ネットワークトランスポート、堂々の完成!エソテリックのデジタル再生、その到達点を聴く
ESOTERIC(エソテリック)の最高峰シリーズである「Grandioso」に、待望のネットワークトランスポート「Grandioso N1T」が加わった。N-05の発売以来、10年近く培ってきたデジタル再生の最新の知見を投入、物量投入型フラグシップがついに誕生した。そのサウンドを、山之内 正氏がレポートする。

デジタル出力に特化したトランスポート型
これまでエソテリックのGrandiosoシリーズにはネットワークオーディオのソース機器が存在しなかった。性能面では1年前に登場したN-01XD SEで不足はなさそうだが、共通の筐体デザインにこだわるGrandiosoのオーナーは物足りなさを募らせていた。それは海外のエソテリックファンも変わらない。国内と同様、最上位機種の登場を期待する声が日増しに高まっていたという。
その期待に応える待望の製品がついに登場した。デジタル出力に特化したトランスポート、Grandioso N1Tの誕生である。トランスポート形式としたのは、同シリーズに君臨するモノラルDAコンバーターGrandioso D1X SEとの3筐体システムを前提にしているためで、HDMIケーブル2本でつなぐ独自規格「ES-LINK5」での接続を推奨する点もSACDトランスポートのGrandioso P1X SEと共通する。

機能ごとに筐体を独立させるGrandiosoの基本コンセプトに合致するし、コアとなるD1X SEにデジタルのソースコンポーネントを集約するのは合理的な方法だ。
ちなみにP1X SEとマスタークロックジェネレーターのGrandioso G1Xまで含めるとディスクとネットワークのソース機器だけで計6筐体に及ぶ。優美なカーブのGrandiosoが6台並んだ様子はまさに壮観で、セパレートアンプまでフルに揃えたエソテリック試聴室の光景は圧巻だ。

N1TをGrandiosoシリーズに組み込むもう一つのアプローチとして一体型ディスクプレーヤーのGrandioso K1X SEとN1TをUSBでつなぐ方法がある。オーディオデータとLRクロック、ビットクロックを分離して伝送し、送受信の際に変調と復調が不要なES-LINK5の方がデジタルリンクの規格としては優位に思える。
だが、N1Tは磁気系のデジタルアイソレーターを導入したオーディオ専用設計のUSB回路を新たに設計することで音質改善を果たしており、ES-LINK5に迫る純度の高い伝送を実現しているという。K1X SEとN1Tでペアを組むとディスクとネットワークでソース機器が2つのシャーシに集約されるので、設置スペースを広げたくない場合はお薦めの組み合わせだ。


N1Tのネットワークエンジンは最新の第4世代に相当する。複数の電源回路をほぼ全てリニア電源化し、オーディオ回路との干渉を避ける対策にも妥協はない。LAN端子は従来のイーサネットに加えて光LAN接続を実現するSFPポートを追加し、この2つを併用することでオーディオグレードのスイッチングハブとして活用することもできる。

ネットワークオーディオはローカルサーバーとストリーミングサービスを併用するスタイルが主流になり、LANケーブルを介したノイズの伝送を回避することが高音質再生の肝となった。N1Tのノイズ対策は万全と言っていいだろう。再生音への期待が高まる。
スケール感と骨太なフォルティッシモ
最初にN1TとK1X SEをUSBケーブルで接続し、ローカルサーバーとQobuzの音源を再生した。アルベニスの『スペイン組曲』(DSD 11.2MHz)はパーカッションまで含めたオーケストラ各楽器の前後左右の配列を精度高く再現しつつ、トゥッティの力強さも全開となり、オーケストラが一つになって鳴り切ったときの音圧の凄まじさを改めて思い知らされた。

それは最新録音にも当てはまり、バルトーク『管弦楽のための協奏曲』でオーケストラ全体がクレッシェンドの頂点に向かって音量を上げても一向に飽和する気配がない。むしろ期待する最大音量からさらに踏み込んだ強靭な瞬発力を発揮し、高揚感が一気に上り詰める。ネットワーク再生でここまでのスケール感と骨太なフォルティッシモを体験するのは稀なことだ。
ストリーミング再生に切り替えても力強い音調をそのまま保ち、特にブレのない低音の質感に感心させられた。ニッキ・パロットのヴォーカルを支えるベースのアタックが緩まず、サックスも息の吹き込みの速さを感じさせるほど勢いがある。ヴォーカルの発音はクリアだが刺激的な子音が顔を出すことはなく、強調感は微塵も感じさせない。
低音の造形が明瞭でリズムがクリアに聴こえる
次にD1X SEとN1TをES-LINK5で接続し、3筐体のプレーヤーシステムを構築した。この組み合わせでは伝送方法のメリットに加えて左右チャンネルのセパレーションが最高水準に到達することになる。その効果は顕著で、特に楽器編成が大きい管弦楽曲やピアノの再生音に明瞭な違いを聴き取ることができた。

バルトークの最終楽章でティンパニとコントラバスが刻む低音の音形をスコア通りに鮮明に描き出し、リズムの構造が瞬時に明らかになる。低音の造形が明瞭になることで木管やヴィオラが刻むリズムがクリアに聴こえるようになり、一体となって前に進む推進力の強さが体感上1.5倍ぐらいに強まったように感じる。
シベリウスの『ヴァイオリン協奏曲』をQobuzで再生したときの広大なパースペクティブにも強い印象を受けた。オーケストラ後方の楽器群はスピーカー後方に明確に定位し、手前の弦楽器群と独奏ヴァイオリンとの立体的な関係を3次元で描写。さらにステージを取り巻く空間にホールトーンがゆったり浸透して広大な空間を生成し、演奏会場にワープしたような錯覚に陥った。
DACによる違いは存在するものの、N1Tの音には力強い骨格と広大なパースペクティブという共通の長所を見出すことができた。良い意味でアナログ的な感触もあり、音の肌触りがクールに偏ることがない。ネットワークオーディオの新たな表現を切り開く可能性を秘めた音である。
(提供:ティアック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.196』からの転載です