アキュフェーズの旗艦プリアンプ「C-3900S」、その進化を検証。諸特性の向上が「音楽のリアリティ」を真に伝える
ACCUPHASE(アキュフェーズ)のプリアンプ「C-3900S」は、2020年に創立50周年記念モデルとして発表された「C-3900」の後継機となるフラグシップモデル。C-3900でのノウハウを全て受け継ぐとともに、SN比や歪み率などの所特性を改善。回路の安定度がさらに高まったモデルである。
その完成度の高さが高く評価され、オーディオ銘機賞2026の栄えある「金賞」に選出された。その実力を、審査員である角田郁雄氏が体験する。
ハイエンドモデルに相応しい精密さと美しさ
オーディオ再生において、プリアンプの存在と役割は大きい。単に接続されるSACDプレーヤーやフォノイコライザーアンプなどの切り替えを行い、音量調整するだけではない。その音に不要な音やノイズを加えず、パワーアンプに純な音を送り込むことが、現代の高解像度ステレオ再生では重要なことである。合わせて、どの位置であろうと音質を変化させない微妙な音量調整ができることも大切である。
このような理想を常に描きアキュフェーズは、1972年創業以来、プリアンプの銘機を開発してきた。近年のフラグシップモデルとしては、創業50周年を記念するC-3900を発売し世界で高い評価を受けた。そして5年が経過した今年、新製品としてC-3900Sを登場させた。
シャンパン・ゴールドのフロントパネルとブラック・ディスプレイは、ブランドの顔。操作の手応えのあるボリュームとセレクターの目盛り部にゴールドのリングが添えられ、ポジションインジケーター部にもブラック・ヘアライン・アルミが採用された。伝統の深みのあるウッドケースとともに、一層の高級感が漂うデザインとなった。
その内部も実にハイエンドモデルに相応しい精密さと美しさがある。本機は前作と同様、デュアル・モノ・コンストラクションのバランス・アンプである。
内部構成としては、中央の2基のトランスを中心として、平滑コンデンサーと増幅部がシンメトリーに配置されている。増幅部には、贅沢にもゴールドのグリルまでも設置されている。こうした佇まいこそ、ハイエンドオーディオなのである。
その同社の技術特徴は、同じ増幅回路や素子を並列駆動し、歪み率やSN比などの諸特性を向上させることにある。これは、マスター音源の真の音や音楽の躍動をリスナーに伝えたいという根本的なポリシーがあるからである。
本機においても、増幅回路の並列駆動方式は進化している。そのコアは、画期的なボリューム・コントロールAAVAである。
これは抵抗体で入力信号を減衰させず、様々のV/I(電圧・電流)変換回路を組み合わせることで、ダイレクトに音量が調整できる独自技術である。可変抵抗器ではなく、画期的なアナログ方式可変利得アンプなのである。
その優位点は、弱音でも左右誤差が発生せず、インピーダンス変化もないことだ。ノイズレベルの変化も極小で、SN比にも優れている。そして、可変抵抗器と同様、滑らかな操作感があり、細かな調整が可能となる。
本機は、AAVAの2回路並行駆動であるBalanced AAVAをさらに2回路並列駆動させた、「Dual Balanced AAVA」を搭載し歪み率やSN比など諸特性を向上させている。
実際の信号の流れとしては、入力アンプ、AAVA、出力アンプの順となるが、今回は低雑音電流帰還入力アンプを新設計した。これは後段の出力アンプに対して負荷が大きくなるためである。
AAVAに対しては、その出力となるI/V変換アンプの歪み率を向上させるため、ANCC回路を採用。さらなる低雑音化と高域の低歪み化を実現している。
なお、ANCCは、主アンプと副アンプの構成で、主アンプ出力からの歪みと雑音を副アンプが検出、電流帰還させ、打ち消す独自の回路である。
出力アンプを4回路から8回路並列動作へと変更
そして、今回は雑音に対して影響の大きい出力アンプを4回路から8回路並列動作とした。その結果、EIA S/N 113dBを達成した。
これはC-3900よりも約10%の性能向上となる。歪み率も含め、世界的にも、最高の諸特性(保証値)だと推察される。
さらに今回は、コンペンセーターを3ステップから5ステップへ増設し、深夜の小音量リスニングなどでの活用度を高めた。併せて左右チャンネルバランス調整機能の精度も向上させている。
従来から好評のドライブ力のある左右独立基板のヘッドホンアンプでは、回路を一新したディスクリート増幅回路を搭載。その雑音や歪み率も向上させている。
これらのAAVAや増幅回路は、左右合計16基板という壮大な構成である。贅沢にも、現在、世界で類を見ない、高速伝搬特性と低誘電率、低損失特性を併せもつガラス布フッ素樹脂基板(いわゆるテフロン基板)を採用。本機の音質にも貢献している。
これらを支え、音質に影響する電源部では、新規設計のトロイダル・トランスを2基搭載し、合計120,000μFの新開発のブロックコンデンサーも搭載した。
また、愛用者の使い心地を考慮し、高精度で堅牢なボリューム・メカや新型ロータリースイッチも搭載している。
音質レビュー:空間描写性と演奏の実在感がさらに鮮明に
本機の音質特徴は、回路と諸特性の向上が大きく反映されている。それは、録音マスターに迫る空間描写性と演奏の実在感が、さらに鮮明になったことである。
愛聴盤のヴォーカル曲やピアノ・ジャズトリオでは、さらにベールを一枚も二枚も剥いだような生々しい演奏が再生され、弱音や余韻、ホール・トーンなどの空気感に、さらなる透明感が加わっている。
特に弱音に音のコクや旨みのような深い味わいを感じさせる。一方で、ストラヴィンスキーの『春の祭典』のような壮大なバレエ音楽を再生すると、本機の瞬発力のある音がパワーアンプに送り込まれ、胸を打つかのようなダイナミックレンジの広い、高い音圧を感じることができる。パワーアンプ駆動力にも優れているのである。
そして、背景にある本機自体の音色には、どこまでもシルクやビロードのような滑らかさがあり、アナログ再生であろうと、デジタル再生であろうと、その本質となるサウンドは変わらない。それだけにオーディオシステムにおけるプリアンプの重要性が理解できるのである。
C-3900Sは、このように技術と諸特性の向上が音楽再生に大きく反映されており、アーティストの演奏の情念まで再現するかのような、真の音楽リアリティが伝わってくる。
まさに所有の喜びまでも感じさせるハイエンド・プリアンプの登場である。日本はもちろん、世界でも高く評価されることであろう。
(提供:アキュフェーズ)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー 199号』からの転載です。
