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ゼンハイザー「HDB 630」発売当日レビュー。初の“オーディオファイル向けワイヤレスヘッドホン”はどこが凄い?

公開日 2025/10/21 07:00 山本 敦/ファイルウェブ編集部
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「HDB 630」試聴レビュー:老舗のこだわりの音質と先端技術が調和した、唯一無二のヘッドホン

執筆:山本 敦

2016年にゼンハイザーが発売した密閉型のオーディオファイル向けヘッドホン「HD 630VB」は、筆者にとって思い出深いプロダクトだ。

「HD 630VB」(2016年発売)

右側イヤーカップの側面にダイヤル式の低音コントローラーを搭載するユニークな機構。シルバーのフレームにダークブルーのイヤーパッドを組み合わせたゴージャスなデザインのプレミアムモデルは、当時ゼンハイザーでオーディオファイル向けヘッドホンの開発を指揮していたアクセル・グレル氏が手がけた銘機のひとつに数えられる。

「HDB 630」のシンプルでありながら上質なデザイン、柔らかく包み込む装着感は、HD 630VBの高い完成度を彷彿とさせる。この最新モデルの開発を指揮したのは、ゼンハイザーの現オーディオファイル部門の責任者であるヨハン・エヴァンノ氏だ。そのサウンドはゼンハイザーが約9年前に発売したヘッドホンよりも一段と熟成されていた。

「HDB 630」にはHD 630VBを彷彿とさせる質感/装着感と、より芳醇な音質が備わっていた

ゼンハイザーが培ってきたプレミアムヘッドホンとワイヤレスオーディオの先端技術を惜しみなく投じた本機は、Bluetoothオーディオによる2種類のリスニングスタイルに対応する。本機をスマートフォンやPCと直接ペアリングしても良いし、付属するUSBドングル「BTD 700」を介すると、iPhoneやMac、その他多くのスマートフォンやPCと、aptX Adaptiveコーデックによる最大96kHz/24bitのハイレゾワイヤレス再生が手軽に楽しめる。

また、HDB 630のパッケージに付属するUSB-Cケーブル、またはアナログヘッドホンケーブルを使ってハイレゾ再生を楽しむこともできる。USB接続時には6Hzから40kHzまでの再生周波数帯域をカバーする。

三角形のキャリングケースに、HDB 630本体、BTD 700、USB-Cケーブルとアナログケーブル、航空機用アダプターが収納されている

今回はワイヤレスとUSB接続によるリスニングを試した。ワイヤレス再生は「iPhone Air」をリファレンスにして、Bluetoothで直接つないでAACコーデックによる音質を聴いた後に、BTD 700とのaptX Adaptiveによるサウンドを比較している。楽曲はAmazon Music Unlimitedで配信されている、96kHz/24bitクオリティのタイトルから選曲した。

BTD 700との組み合わせで音楽を聴く際は、スマートフォン/タブレット側のオーディオ出力設定も要チェック。BTD 700ではなく、スマートフォン/タブレットからBluetoothオーディオが伝送されている場合がある

大貫妙子のアルバム『Mignonne(Mastered by Bernie Grundman)』から「横顔」を聴いた。シルキーなボーカルの質感に耳を惹かれる。エレキピアノの和音に優しく包み込まれる。軽やかに刻まれるエレキギターのカッティングは心地よく、楽曲に爽やかな推進力を与えている。

特筆すべきはずっしりとした安定感のあるベースラインだ。ボトムをしっかりと支えながらも、滑らかで熱のあるグルーヴを生み出しており、アンサンブル全体の完成度を飛躍的に高めている。

接続形態による音質の変化も明らかだ。iPhoneに直結して聴いた時には微かなザラつきが感じられた。BTD 700に変更することで、これが完全に解消される。ノイズフロアがぐんと下がり、S/Nが向上することで、静寂の中から音が立ち上がる様が実にリアルに描かれる。高音域の透明感はいっそう際立ち、シンバルの余韻が空間に華やかに広がっていく様も圧巻だった。

Smart Control Plusアプリの「シグナルパス」画面で、オーディオ信号がどのように届いているのか確認できる

続いて上原ひろみのアルバム『SPARK』から「Wonderland」を再生した。まず驚かされるのは、HDB 630の卓越した制動力だ。トリオの激しい演奏を持て余すことなく、巧みにコントロールする。アグレッシブなピアノのメロディは、しなやかさが同時に描き出される。トップスピードでエネルギーが満ちていく高揚感と、きらびやかに拡散していく高音域のイメージが、見事に両立されている。

音像がシャープで、各楽器が立体的に定位する。複雑なアンサンブルの中でも決して混濁することなく、それぞれのフレーズを明確に描きわける。タイトに引き締まったベースラインが、バンド全体に心地よい緊張感を生み出し、グルーヴの根幹を力強く支えている。

BTD 700との接続では、やはりサウンドのふくよかさが格段に増す手応えがある。特に、余韻の豊かさが変わる。ドラムスのハイハットや細やかなパーカッションの残響が、ふわっと柔らかく空間に溶けていく様子がとても美しい。アコースティックな空間の響きと空気感が加わることで、音楽への没入感が一層深まる。

BTD 700を挿し換えるだけで、再生機器をiPhoneからMac、Androidデバイスへと自由自在に切り替えることもできる。上質なサウンドとシンプルな使い勝手に慣れてしまうと、もはや普通のBluetoothヘッドホンに後戻りできなくなりそうだ。

ゼンハイザーによるプレミアムサウンドへのこだわりと、最新のワイヤレスオーディオのテクノロジーによってもたらされる自由度の高いリスニングスタイルが、HDB 630を唯一無二のヘッドホンにしている。

 


(企画協力:Sonova Consumer Hearing Japan)

 

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