BLUESOUND「NODE ICON」はまさにピュアオーディオグレード・ストリーマー。VGP「審査員特別賞」の実力を聴く
BLUESOUNDのストリーマー、そのフラグシップモデルたる「NODE ICON」が、オーディオ・ビジュアルアワード「VGP2025 SUMMER」のピュアオーディオ部会にて栄えある「審査員特別賞」を受賞した。ピュアハイファイの文脈に、ストリーミングを持ち込む意欲的なプロダクト、その受賞背景を、VGP審査員長の大橋伸太郎氏が解説する。
ストリーミング時代を見据えたプロダクト開発
BLUESOUNDはこの十数年で台頭したカナダのハイファイメーカーである。急伸長した背景が、アナログ時代のハードウェアベースを脱したソフトウェアベースの製品開発がある。
「ミュージック・ストリーマー」(かれらはネットワークプレーヤーをこう呼ぶ)でハイファイの新星として名乗りを上げたBLUESOUNDの背骨となったのが、自前のOS開発である。
ネットワークオーディオの進歩のスピードは旧来のオーディオの比ではない。既存のOSに依存していたら、機能拡張の自由度が制限されエンドユーザーにとって魅力の薄い製品になる。そこでかれらはオリジナルのBluOSを開発した。ユーザーが音楽を聴く上で向き合うのはハードウェアでなく操作アプリである。その省察から扱いやすくきめ細かい機能を持つストリーミング時代の優れたアプリを開発した。この “BluOS” アプリは他社からも高く評価され、BLUESOUND以外のダリ、ロクサン、モニターオーディオ等々の製品を操作することができる。
ソフトウェア重視のいっぽう、技術の地道な探求から生まれる音質の良さも見逃せない。今回紹介する “NODEシリーズ” のフラグシップ「NODE ICON」の技術密度の高さはハイエンドオーディオのそれ。心臓部にESSの2chDAC ES9039Q2Mを2基、デュアルモノDACとして使用。ノイズ密度を二分の一に低減、低ノイズレギュレーターの使用で従来を大きく越えるノイズフロア閾値を達成した。
また、MQA Labs開発のQRONOd2aを世界初搭載した。DA変換時に発生する時間的なスミア(ぼやけ)を取り除くデジタルフィルターで、たとえば192kHzのハイレゾファイルを入力した場合の時間応答性能のよどみなさはアナログ再生に匹敵するという。
ハイエンド機に比肩する情報量を聴かせる
「ミュージック・ストリーマー」の現時点の集大成NODE ICONを聴いてみよう。黒いアルミ筐体の佇まいはさりげなくコンパクト。アナログ時代のオーディオ機器の居丈高な存在感と一線を画す。しかし、ただの「ハコ」ではない。5型カラー液晶ディスプレイの美しい情報表示がユーザーを挑発する。ワイヤレスネットワーク対応だが今回はルーターと有線接続した。操作はiPadにBluOSをインストールして行った。
汚れ、にじみのない澄み切った再生音だ。最上級機だけに誇張やカラレーションのないモニター調で音源をありのままに描き出す。Qobuzの『ピンク・フロイド・アット・ポンペイ』(FLAC 96kHz/24bit)。NODE ICONで聴くストリーミング音声はスペック、クオリティともにBlu-rayディスクのリニアPCM(96kHz/24bit)と同等だが、BDに比較すると、DACのキャラクターが反映されてデヴィッド・ギルモアのギターの鮮度がきわだち試聴室に高々と舞い上がる。うかつにふれると手が切れそうな鋭利さだ。
つぎに、やはり筆者の常用ディスクのアンドラーシュ・シフ『シューベルト・ピアノソナタ第18番』のQobuzストリーミング(FLAC 96kHz/24bit)を聴いてみよう。CDはコンプレッションとリミッターの使用を極力控えた自然な録音(ECM)だが、ここで聴くストリーミング音源もたいへん優れている。ダイナミックレンジ、帯域共十分。フォルテピアノのアクションの音がかなたから聴こえる。ハイエンドのCDプレーヤーでの再生に負けない情報量だ。
いっぽう、NODE ICONがストイックな衣をかなぐり捨てストリーミング音源のパワフルなパフォーマンスを存分に引き出したのが、Qobuzのボブ・ジェームス・トリオ『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』(FLAC 96kHz/24bit)。演奏の実在感という点で常用のSACDに優る再生である。何よりトリオが聴き手に近い。ドラムスのスケール感と鮮度、インパクトの音圧感、ローエンドまで伸びたベースの音圧、胴鳴りはみごと。トリオの定位が研ぎすまされアンサンブルの精度が上がって聴こえる。イマーシブ(没入)という言葉にふさわしい一体感が味わえる。
近年の印象深い録音の一つが、坂本龍一の最終録音『Opus』。曲は「戦場のメリークリスマス」(FLAC 96kHz/24bit)。NHK509スタジオにピアノを運び入れてのソロ演奏は、大きく立体感豊かな音場が現れ、響きが柔らかく聴き手を包み込む。ステレオ音声だがさざ波のように前後に広がりナチュラルサラウンドする。デュアルモノDAC設計の恩恵は顕著で倍音が伸び高音が光輝に満ちている。ラストの連打、クレッシェンドの音圧はNODE ICONのコンパクトな筐体から想像できない豊かさだ。
192kHzファイルを聴いてみよう。再びQobuzでハイレゾファイルの定番、ノラ・ジョーンズの『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』(FLAC 192kHz/24bit)。ボーカルの解像度の高さが印象的で温かい息がかかりそうに近い。スライドギターの音色、奥まったところに息づく控え目なパーカッションの響きも美しい。この音のバランス、ニュアンス、どこかで聴いている。そう、ANALOGUE PRODUCTIONSのLPの音にちかいのだ。デジタルフィルターQRONO d2aのみえざる触手が音源本来のすがたと響きのニュアンスを探しあてたのだ。
ファイルウェブの配信元・音元出版が提唱したオーディオ製品のカテゴリーに「エントリー・ハイエンド」がある。幅広い層が手を伸ばすことのできる常識的な範囲の価格を実現しながら、高い技術密度と志を持つオーディオをさす。もしかして、NODE ICONの登場を待っていたのではないか……ピュアハイファイの近寄りがたい壁を取払ったNODE ICONはハイレゾストリーミングへ大きく開かれた入り口であると同時に、深遠な音世界へ続く扉である。VGP2025 SUMMERピュアオーディオ審査員特別賞受賞もけだし当然だろう。
(提供:PDN)
