オーディオ通に「刺さる」有機的サウンド。個性派ブランドGRADOの新ヘッドホンシリーズの魅力に迫る
思わず声が出る有機的サウンド。それぞれマッチする楽曲は?
試聴は、MacBook Proをトランスポートに利用して、D/Aコンバーター・ヘッドホンアンプのゼンハイザー「HDVD800」と接続。音源にストリーミングサービスのQobuzを利用した。
まずは洋楽ポップスの定番として、レディ・ガガの新作『Mayhem』をSignature S950で試聴した。中音域が生々しく、程よい響きが印象的で、パワフルなベースと距離感の近いボーカル。体全体が音に包まれるような有機的なサウンドで、音楽の魅力をいっそう引き立ててくれる。「これこれ!」と、思わず声が出るほどの気持ちよさだ。
一方のSignature HP100 SEも、シンセやボーカルが近くに感じられる点では共通しているが、響きはやや抑えられ、ディテールはよりシャープに。独特の高域のエッジ感がグラドらしい。レディ・ガガの楽曲にある “かっこよさ” は、HP100 SEがより的確に表現している。


しかし、ジャズ・ボーカルを聴いたとき、GRADOの印象はまた一段と深まる。
女性サックス奏者、レイクシア・ベンジャミンの初のスタジオ・ライヴ作品『Phoenix Reimagined』を再生すると、彼女のルーツにあるジョン・コルトレーンへのオマージュを感じさせる奔放なフレージングと、現代的なサウンドプロダクションが交錯する。その熱量と情熱に、S950のわずかに響きを帯びた温かみのある音色と、閉塞感とは無縁の広大な音場が実にうまく呼応するのだ。
GRADO独特の高域のエッジ感が、彼女のサックスに含まれる微細なビブラートや、ブレスのニュアンスを生々しく描き出し、往年の “スモーキーさ” が現代ジャズに宿る瞬間を確かに感じさせてくれる。このアルバムを聴くと、GRADOが単なる “モニター的” な製品ではなく、音楽性に寄り添う表現力を持ったヘッドホンであることを再認識させられる。
続いて、ヘイリー・ロレンの「For All We Know」。このしっとりとした女性ボーカル曲ではHP100 SEのクリアでストレートな描写力が活き、まるで口元の動きまで伝わってくるような臨場感を味わえる。一方で、感情がこもった節回しの表現力という点では、S950の温かみが引き立つ瞬間もあり、甲乙つけがたい。
そして今回試聴したSignature S950とHP100 SE、いずれも音だけでなく装着感の進化にも注目すべきだ。新たに採用されたヘッドバンドアセンブリと、ステンレススチール製のフレーム、高さ調整がしやすいロッドにより、装着時の側圧を自然に調整できるようになった。結果として、長時間のリスニングでも疲れにくくなっており、これは従来のGRADOを知るリスナーにとっては、嬉しいアップデートだろう。


さらに、メーカーから4.4mmバランス端子に対応したケーブルも借用できたため、両モデルでバランス接続も試してみた。音色や音調はアンバランス時と同一ながら、位相の整合性が一段と向上し、センターに定位する音像の輪郭がより明瞭になる。特にボーカルやピアノの位置感がグッと前に出て、空間の見通しも良くなった。もしこの2台を手元に置くことになったら、間違いなくこのケーブルも一緒に揃えたくなる。
GRADOの魅力のひとつは、モデルごとにキャラクターが異なり、同じ楽曲であっても別の表情を見せてくれるところだ。音楽の “本質” に多面的にアプローチできる——その奥深さこそが、オーディオの通たちがGRADOを手放さない最大の理由かもしれない。
(協力:ナイコム)
