PRエンジニアの声を交えつつ徹底レビュー
驚くべき開放感と解像力。「ATH-R70xa」「ATH-R50x」に見るオーディオテクニカのこだわりを紐解く
■リファレンス機の刷新という重要命題。「ATH-R70xa」のこだわりとは
開放型リファレンス機に求められる要件をクリアしたATH-R70xだが、後継のATH-R70xaをリリースするにあたっても、細心の注意が払われている。メインユーザーであるプロにとっては、前モデルから音が大きく変わってしまっては業務に差し支えるため、音質が異なってはいけないからだ。
そこで、開発を担当したエンジニアの塩飽乃野海氏は、要となるドライバー部分は基本的に前モデルを継承しつつも、新たなヘッドバンド機構を採用。ATH-R70xで採用されていたウィングサポートを敢えてやめヘッドバンドとすることで、よりユーザーにフィットする調整を可能とするとともに、210グラムから199グラムへのさらなる軽量化も実現した。
実際に手にとってみると、大口径ドライバーを搭載した開放型としては驚くほど軽量で、装着した際も実に開放感に満ちている。昨今はヘッドホンだけで、レコーディングだけでなくミキシングやマスタリングまでを完結させるクリエーターも多く、長時間の使用でもなるべく疲労が生じないようにすることに配慮されている。設計段階でも重きをおいた要素だと塩飽氏。
さらに、ヘッドパッドやイヤーパッドはユーザー自身で簡単に交換ができるので、メンテナンス性もアップしている。ちなみに、ATH-R70xで採用していたイヤーパッドの材料が入手困難となり、新しいイヤーパッドによる音の変化も調整する必要があったといい、ここにもユーザーに対する細やかな配慮がなされている。
■開放型モデルの“棲み分け”を意識した「ATH-R50x」。
一方で、ATH-R70xaと同じく45mm径ドライバーを搭載した弟機のATH-R50xも、同様のトゥルーオープンエアー設計思想によるものだ。こちらは、「ATH-R70xaでは少し本格的すぎるというユーザー層に向けて開発した、もう少しエントリー向けのオープンモニター」とのことで、ATH-R70xaに対して、より手頃な価格が実現されている。
異なるのが、ヘッドバンドではなく、ヘッドトップパッドを採用すること。これによって、ATH-R70xaとはまた異なるフィット感が実現されている。海外マーケットのニーズも大きく意識した製品とのことで、欧米人型の頭部にもフィットしやすいそうだ。ちなみに、筆者自身は、頭部の形状的にATH-R50xの方が高いフィット感を得られた。
ほかにも、ATH-R50xはインピーダンスが低く抑えられているため、その意味でも使用環境が広く、よりエントリー向けと言える。また、ケーブルが両出しのATH-R70xaに対して、ATH-R50xは片出しとなっていることも大きな違いだろう。両出しの方がケーブルが左右均等となり音質的には左右差が無くなるため有利だが、片出しは接続ケーブルが一本となる取り回しの良さもあるので、この辺もニーズによって棲み分けができそうだ。
■「遮るものがない素肌感」開放型だからこそ楽しめる“ナチュラルな音色”
両機を試聴してみると、先述したように、驚くべき開放感に圧倒される。本体が持つ軽さと相まって、まさに遮るものがない素肌感というか、ネイキッドな爽快感を味わえるのだ。また、開放的で俊敏ながらも、力強い低音の駆動が心強い。開放型で感じがちな低音の物足りなさや、逆に量感があっても違和感を覚える低音などとは一線を画す、素直なレスポンスの低音が快感だ。低域から高域までリニアで癖や詰まりのないナチュラルで実直な音色は、まさにトゥルーオープンエアー思想が成せる業と推察する。すべての音像が均質な音色と距離感で持って耳の直近で立ち現れるのである。
ATH-R70xaとATH-R50xはかなりサウンドが近似しているが、やはり傾向は異なる。基本傾向は同じとしながらも、音色バランス的にはATH-R50xの方がほんのりと明るくメリハリある音色と感じる。その分、レコーディングモニターとしては、パッと聴いた際の細かい音色に気が付きやすい場合もあるかと感じた。
しかしながら、ATH-R70xaはより音色の質感が高く、マイクロホンが捉えた音の定位感やリーゲージ(マイク間の音の被り)なども微細に捉えて描写するため、例えばヘッドホンだけでミキシングやマスタリングを行おうとする場合にも、さらに有用だろう。そして何よりも落ち着いた質感があるため疲労も少なく、長時間の使用にも有利であろう。
いずれにせよ、両者の開放感や音の視認性、そして低音域の力強さは、極めて高いポテンシャルがある。実際に、試しに筆者宅のスタジオで、グランドピアノを同社のマイク「AT4050」とSTUDERのミキシングコンソール「962」を用いて録音及びモニタリングしてみたが、ハンマーのフェルトが弦を叩くアタックの、質感の分解能の高さには、大変に感心させられた。
音の立ち上がりが全ての帯域で揃っている印象で、マイクの微妙な角度の違いによる音像の際が驚くほどよく分かる。レコーディング時のコントロールルームでのモニタリングにも大変有用だろう。
以上のように、オーディオテクニカから新たに登場したプロフェッショナル用の開放型モニターヘッドホンATH-R70xaとATH-R50xは、驚くべき開放感と音の解像力を実現したプロダクトである。同社が積み上げてきた、40年にも及ぶ開放型ヘッドホン開発の粋が活かされた、まさしく「トゥルーオープンエアー」なリファレンスヘッドホンなのである。その高い写実性は、プロフェッショナルユースだけでなく、コンシューマーユースにも大変魅力的な逸品である。
劇伴音楽家 高梨康治氏による「ATH-R70xa」使用感インタビューはコチラから
(提供:オーディオテクニカ)




