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PR山形県の東北パイオニアと天童木工を訪問

TADスピーカー製造現場で見た「匠の技」。旗艦機「TAD-R1TX」から最新鋭機まで6モデルも一斉試聴!

公開日 2023/05/01 06:30 山之内 正
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「匠の技」で生み出されるTADユニット



続いて、いよいよTADのスピーカー生産現場に足を踏み入れた。天童工場は主にカーオーディオ用のドライバーユニットを生産する工場として稼働しており、その一角にTADの生産スペースを確保している。ちなみにカー用ドライバーユニットの生産はベトナムとメキシコの海外拠点の方が規模が大きく、生産台数の約99%に及ぶとのこと。天童で生産するのは工程数が多く緻密な作業が求められるハイエンドユニットに限られるそうだ。

TADユニットの製造現場を見学。細かいホコリなどの混入を避けるため帽子着用は必須

例えば生産工程の作業数で比較すると、一般的なドライバーは52作業で完成するのに対し、ハイエンドクラスのドライバーは約2倍の106作業、そしてTADのドライバーは279作業に及ぶという。その大半は繊細な手作業によって組み立てられるため、生産現場で目にするのは、大量生産で一般的な生産ラインの流れ作業とは対照的な光景だ。

TADユニットができるまで。多くが手作業で行われており、総作業数279、リードタイム8日と非常に手間暇をかけて作られている

しかも、主要な工程は同じスタッフが一貫して組み立てるスタイルなので、生産に携わるメンバーはすべての作業に精通していなければならない。その作業プロセスで実際に目にした「匠の技」は天童工場での忘れ難い経験の一つである。

コンプレッションドライバーTD-4002のカットモデル

非常に軽くて薄いベリリウムの振動板

私が見学した最初の工程ではコンプレッションドライバーの組み立て作業が行われていた。高性能なドライバーの組み立てには、限界をきわめた高い精度が要求される。しかも、驚くべきことに最も高い精度が要求される作業は、いずれも専用治具を用いながら人の手によって進められているのだ。

ダイアフラムアッセイと磁気回路の隙間を一定に保つために50ミクロン厚のスペーサーを貼る作業は測定を含めてすべて手作業で行われているし、100ミリ口径のボイスコイルを正確なサイズの真円に仕上げる工程も基本的に手作業で進められていた。

ボイスコイルを真円に仕立てる工程。ある程度のところまでは機械でできるが、最後の微調整はやはり人の手の感覚が大切

後者の場合、専用の治具によってコイルを内側から少しずつ広げるという手法自体はシンプルなのだが、機械ではなく人の手で調整する方が微妙な加減ができ、高精度に仕上げることができるという。中心軸を少しずつ慎重に回して治具を広げ、マイクロメーターで直径を測定する作業を何度も繰り返し、規定のサイズに追い込んでいくのは神経を使う上に根気が求められる。

磁気回路の組み立てに普通は接着剤を使う箇所でも、TADはより手間のかかる難度の高い手法をあえて選んでいる。接着剤の層が磁気損失につながるのを避けるため、「焼嵌め(焼きばめ)」と呼ばれる特殊な製法を用いて組み上げているのだ。最初にシリンダー状の金属部品をオーブンで加熱して膨張させ、その内側に部品を挿入する。外側の部品が冷えると収縮するため、接着剤を使わなくても堅固にしっかり固定される。余分な介在層が存在しないので音質面でのアドバンテージが大きいのはいうまでもない。

ダイアフラムアッセイの高さ測定の様子

手間と時間を惜しまずじっくり仕上げたドライバーユニットを待ち受けているのは過酷なエージング試験だ。大電流を流して損傷しないことを確認するプロセスはもちろん全ユニットに適用しており、厳しい試験をパスしたものだけが出荷される。

厳しい外観検査を合格したものだけが世界中に出荷される



試験の厳しさでは外観検査も例外ではない。取材当日は「TAD-CR1TX」と「TAD-ME1」のエンクロージャーがいくつも並んでいたが、よく見ると一台ごとにイラスト付きの書類が添付されていることに気付く。目視だけでは気付かないレベルの僅かな光沢ムラなど、微修正の対象になりそうな症状が詳細に記載さた「カルテ」である。

全台目視でチェックされた「TAD-ME1」たち

目を凝らして表面を確認しても、筆者の目にはなんの問題もないように見える。すべてそのまま合格としたいところだが、専用のLEDライトを当てながら仔細に確認すると、鍛え抜かれた目でカルテに記載された微細な症状を確認できるらしい。TADのスピーカーの外観は思わずため息が出るほど美しいのだが、その深みのある光沢を実現するうえで、この厳しい外観検査が果たす役割の大きさは計り知れないものがある。

「TAD-CR1TX」に吸音材を詰めているところ。さまざまな素材の吸音材を組み合わせることで自然な響きを実現している

次ページ翌日は天童木工でエンクロージャー製造現場を見学

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