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【特別企画】2000年以降の名盤を3人の評論家がセレクト

アニソンも洋楽ロックも手応え十分! マランツ「30シリーズ」の“懐の深さ”を堪能

2021/09/10 生形三郎/土方久明/岩井 喬
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■いずれのソースでも十二分に音楽の聴かせ方を心得ている(生形)

(1)Radiohead『Kid A』は、張りのある明瞭な歌声、浮遊感のあるシンセなど、音源の持つ世界観がハッキリと浮かび上がってくる。また、エレクトリックなキックドラムが張り出し良くも極めてキレの良いタイトな反応で描かれるところなど、全体に適度な潤いを湛えたメリハリがジャストマッチと言える。

(1)UK ROCK
Radiohead『Kid A』
XL Recordings Amazon Music HD

(2)Alicia Keys『ALICIA』もヴォーカルが明るい芯を持ってクリアに迫るさまが心地よい。それを取り巻くコーラスのリヴァーブの質感も明快で、ハンドクラップやアコギなど、ひとつひとつの楽器がスムーズな音色で積み重なっている。そして、やはりキックドラムの超低域の豊かな量感と、グリップ抜群の鋭さが快感だ。

(2)R&B
Alicia Keys『ALICIA』
RCA Records Amazon Music HD

(3)鬼束ちひろ『HYSTERIA』では、鮮明かつ高S/N、分離の良い現代的サウンドが活きている。僅かに音像の線が細い印象も受けるが、フロントの歌声やギター、ベースやドラムなど主要楽器の後方に浮遊するストリングスの表現が、3次元的な重層感を形成するさまが美しい。残響の滞空が特に綺麗なのである。

(3)J-Pop
鬼束ちひろ『HYSTERIA』
VICTOR STUDIO HD-Sound. PCM 96kHz/24bit

(4)Marcin Wasilewski Trio、Joe Lovano『Arctic Riff』は、深いリヴァーブを纏った瑞々しいピアノの音色が美しい。僅かにディテールが薄まっている印象もあるが、その恩恵か雑味が取り除かれたようにコントラストがハッキリとしており、メリハリの良さも相まって、ピントが合っている描写だ。

(4)Jazz
Marcin Wasilewski Trio、Joe Lovano
『Arctic Riff』
ECM Records PCM 88.2kHz/24bit

(5)アンドレア・バッティストーニ 『ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/ 吉松隆:サイバーバード協奏曲』は、比較的に近めの音像作りによる現代的なオーケストラ録音が際立つ。強奏部で楽器のタイミングが良く揃って演奏されている様子や、弦楽器と管楽器のモティーフの掛け合いなどが、実に俊敏且つ緻密に再現されるのだ。楽器の直接音とホール残響とが程よくブレンドされ調和している様子もよく分かる。

(5)Classic
アンドレア・バッティストーニ & 東京フィルハーモニー交響楽団
『ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/ 吉松隆:サイバーバード協奏曲』
Columbia COCQ-85466 UHQCD

(6)La Petit Bande『Bach: h-Moll-Messe』は、少人数編成による清澄な演奏表現が、透明度高く描かれる。アクセントの置き方など、演奏家一人一人の個性が手に取るように伝わるのだ。中低域がすっきりとシェイプされており、涼しげでスマートな音楽描写に繋がっている。また、中高域側は幾分カラフルに再現されるので、豊潤さや香しさが表現されていて実に美しい。いずれのソースでも、音楽の聴かせ方を十二分に心得ているのである。

(6)Classic
La Petit Bande『Bach: h-Moll-Messe』
Challenge Classics CC 72316 SACD

■躍動感ある音調と広大な空間。ヘッドホンも制動力が秀逸(土方)

筆者は、ポップス、R&B、ヒップホップ、EDMなど現在人気の楽曲をフィーチャーしたのだが、2021年の今、そのような楽曲を縦横無尽に試聴したい場合、「MODEL 30」「SACD 30n」は、音質的にも機能的にも最適な組み合わせだ。1台でSACD/CD、ハイレゾ、ストリーミングなど、新旧音源に幅広く対応できること、少し陽性で躍動感がある音調と空間表現に広がりがあることが理由だ。まずはスピーカーシステムで試聴した。

(1)『ホエン・ウィ・オール・フォール・ アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー? 』はグラミー賞を総なめにしたビリー・アイリッシュのアルバム。アンプの制動力が試される強力な低域の表現は素晴らしく、ナチュラルな質感のヴォーカルで音像定位に奥行きがある。

(1)Pop
ビリー・アイリッシュ『ホエン・ウィ・オール・フォール・ アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー? 』
Interscope UICS-1350 CD

(2)『スリル・オブ・イット・オール』は、男性R&B/ポップスで人気No.1のサム・スミスの作品で、実は大変録音が良いタイトル。ハイレゾ楽曲らしく、ヴォーカルからバックミュージックの分解能が高く、fレンジもワイドに聴かせてくれる。

(2)POP
サム・スミス『スリル・オブ・イット・オール』
Capitol Records PCM 88.2kHz/24bit

(3)人気の邦楽グループ、YOASOBIの『怪物』は、このような音源を定額制のAmazon Music HDで試聴可能なことが嬉しい。空間表現が広く、バックミュージックの質感表現もソースに忠実。

(3)J-Pop
YOASOBI『怪物』
YOASOBI PCM 48kHz/24bit

(4)『4:44』は、人気ヒップホップアーティスト、ジェイ・Zの最新タイトル。弾力感のある低域はグルーヴ感が高く、中高域はノイズフロアが低くナチュラルで印象が良い。

(4)Hip Hop
ジェイ・Z『4:44』
Def Jam Recordings Amazon Music HD

(5)『マダムX』は、マドンナがバラエティ豊かなアーティスト達とコラボした、近年の名タイトルだが、積極的で面白みのあるサウンドで、適度に色艶の良い音色で楽しく聴ける。レジェンドたる彼女が過去に発売したCDを持っている方は、再生能力の高い30シリーズのような組み合わせで聴けば、新しい新鮮な発見があるかもしれない。

(5)Pop
マドンナ『マダムX』
UICS-1352 CD

(6)ここからは、ゼンハイザー「HD 800 S」を使ったヘッドホン再生を試した。まずはBTS『BUTTER』だが、キレの良い中高域が印象的。音像の距離も近すぎず遠すぎず適切な表現。

(6)K-Pop
BTS「BUTTER」
BIGHIT MUSIC Amazon Music HD

(7)EDM音源からは、A.C.E『Fav Boyz(Steve Aoki’s Gold Star Remix)』を聴いたが、鋭いビートを効かせる打ち込み系音源とも相性が良く、キレがあり制動力の強いエレクトリックドラムと透明感とスピード感の強いエレクトリックシンセサイザーが表現できている。

(7)K-Pop
A.C.E『Fav Boyz(Steve Aoki’s Gold Star Remix)』
Beat Interactive Amazon Music HD

(8)米津玄師『Pale Blue』は、クリアで余裕を感じられ、異なる楽器が同時に鳴っているときの描き分けも秀逸だ。ヴォーカルには適度な色艶があり、音像や空間もしっかりと立体的に表現する。MODEL 30はヘッドホンアンプ部の性能が高く、ヘッドホンの制動力も秀逸、上下の帯域レンジ、S/N、ダイナミックレンジなど、本質的な音の良さを実感した。

(8)J-Pop
米津玄師『Pale Blue』
Sony Music Labels Inc. PCM 48kHz/24bit

■ディスクもデータも高音質かつシームレスで最高の組み合わせ(岩井)

SACD 30nは様々なフォーマットに対応していることがポイントだ。そして音楽ジャンルとして多岐にわたる要素を持つアニソンに対しても柔軟に対応してくれる。今回はディスク、ストリーミング、ハイレゾデータ音源を用意し、その魅力に迫った。

(1)まずディスクプレーヤーとしてSACD『Pure3 Feel Classics -Naoya Shimokawa-』を聴く。楽器の質感を丁寧に引き出した涼やかな音色に加え、録音を行ったホールの響きなど、SACDそしてDSDフォーマットならではのエアー感の表現が素晴らしく、録音の意図に迫る実直なサウンドだ。

(1)アニソン
『Pure3 Feel Classics -Naoya Shimokawa-』
F.I.X.RECORDS KIGA30 SACD

(2)宇多田ヒカル『One Last Kiss』はAmazon Music HDのハイレゾ版を聴いたが、シャキッとした芯のあるヴォーカルが目前に浮かび、口元の動きを丁寧にトレース。シンセベースの音伸びも逞しいが、細やかなフレーズはつぶれることなく鮮明に定位。

(2)J-Pop
宇多田ヒカル『One Last Kiss』
Amazon Music HD

(3)SawanoHiroyuki[nZk]『Avid/Hands Up to the Sky』は録音の良さもあり、彫りの深いニュアンスや細やかなヴォーカルがスッと前に出てくる。潤い良く爽やかな音色で、ストリングスやコーラスワークも分離良い。ローエンドはずしんと深く響くが制動性も高く、引き締めて安定的に描き出す。

(3)アニソン
SawanoHiroyuki[nZk]
『Avid/Hands Up to the Sky』
Sony Music PCM 96kHz/24bit

(4)ヴィヴィ『Sing My Pleasure』はCDとAmazon Music、ハイレゾ配信版を聴き比べる。CDはヴォーカルが力強く際立つが輪郭は滑らか。ストリングスは優しく響き、どっしりとしたローエンドをキレあるリズムで刻む。Amazon Musicは低域のエッジが丸く全体的にマイルドでストリングスやヴォーカルは明瞭だが柔らかい。ハイレゾ版はS/N良くダイナミックレンジも広く、各パートの分離が良く丁寧さが際立つ。コンプレッションも少なく上品だ。

(4)アニソン
ヴィヴィ『Sing My Pleasure』
アニプレックス SVWC-70534
CD/Amazon Music HD/PCM 96kHz/24bit

(5)井口裕香『HELLO to DREAM』もCDとハイレゾ版を聴き比べたが、『Sing My Pleasure』の傾向と近く、声の際立ち、存在感を前に押し出すCDに対し、ハイレゾ版は全体のバランスと分離感、質感の丁寧さが優先され、ベースも柔らかく爽やかだ。

(5)アニソン
井口裕香『HELLO to DREAM』
ワーナー・ブラザーズ ホームエンターテイメント 1000746062
CD/PCM 96kHz/24bit

(6)アイドル系のLiella!『START!! True dreams』はメリハリ良いヴォーカルがパワフルに押し出され、口元も鮮明。5人の声質の違いも分かりやすく、メロディラインの軽快さ、バックのストリングの見通しも良い爽快なサウンドだ。

(6)アニソン
Liella!『START!! True dreams』
Lantis PCM 48kHz/24bit

(7)鈴木このみ『TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」2nd seasonオープニングテーマ「Realize」』はメタル的な曲調であり、エレキギターのリフに厚みを持たせて小気味良く響かせるが、力強く麗しいヴォーカルを前面に押し出しており、バンドサウンドよりは声の質感に重きを置いたミックスバランスであることが良くわかる。

(7)アニソン
鈴木このみ
『TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」2nd seasonオープニングテーマ「Realize」』
KADOKAWA PCM 48kHz/24bit

(8)春奈るな『HARUNA LUNA BEST 2012-2020』は少し憂いがありつつも爽やかに描かれるヴォーカルの滑らかさとウェットなストリングスが心地よく融合。しかしテンポそのものは早く、リズム隊はダイナミックに全体をリード。ピアノやギターの粒立ち良いピッキングもクリアに拾い上げてくれる。

(8)アニソン
春奈るな『HARUNA LUNA BEST 2012-2020』
Sony Music Labels Inc. PCM 96kHz/24bit

30シリーズはいずれの楽曲も録音のテイスト、フォーマットの違いを鮮明に引き出しつつも、音楽そのものの本質をそのまま耳元に届けつつ、聴きやすいサウンドでまとめてくれる印象を持った。アニソン系はヴォーカルの存在が最もウェイトが高いが、人の声の自然さ、際立ち感に関しても申し分ない。ディスクもデータも高音質かつシームレスに楽しめる、最高のシリーズである。


<MODEL 30 Specification>
●定格出力:200W×2(4Ω、1kHz、T.H.D.0.1%)、100W×2(8Ω、1kHz、T.H.D.0.05 %)●全高調波歪率(50W、8Ω、1kHz):0.005%●周波数特性(CD、1W、8Ω): 5Hz 〜50kHz ±3dB●ダンピングファクター(8Ω、20Hz 〜20kHz):500●SN比:(IHF Aネットワーク、8Ω):75dB/0.5mV入力(PHONO/MC)、88dB/5mV入力(PHONO/ MM)、107dB/定格出力(CD、TUNER、LINE、RECORDER)●入力端子:RCA× 5、PHONO×1、POWER AMP IN×1●出力端子:プリアウト×1、RECアウト×1、ヘッ ドホン×1●消費電力(待機時):150W(0.2W)●サイズ:443W×130H×431Dmm● 質量:14.6kg

<SACD 30n Specification>
●再生周波数特性:2Hz 〜50kHz -3dB(SACD)、2Hz 〜20kHz ±1dB(CD)● SN比:112dB(SACD)、104dB(CD)●ダイナミックレンジ:109dB(SACD)、98dB (CD)●高調波歪率:0.0008%(SACD)、0.0015%(CD)●出力端子:RCA(FIXED) ×1、RCA(VARIABLE)×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1、ヘッドホン×1●入力 端子:同軸デジタル×1、光デジタル×2、USB-A×1、USB-B×1、Bluetooth/Wi-Fiア ンテナ×2、フラッシャー×1●その他入出力:ネットワーク×1、RS-232C×1、マランツリモ ートバス(RC-5)入出力×1●消費電力(待機時):48W(0.4W)●サイズ:443W× 130H×424Dmm(ロッドアンテナを寝かせた場合)●質量:13.7kg



本記事は季刊オーディオアクセサリー vol.182 AUTUMNからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから

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