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【特別企画】フィルター調節で低域量を調整可能

イタリアの芸術性と工業技術が産んだ唯一の音空間。Spirit Torinoのパッシブラジエーター搭載ヘッドホン「RADIANTE」を聴く

2019/12/23 佐々木 喜洋
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ドライバーの動きをパッシブラジエーターで最適化

パッシブラジエーターとは、主にスピーカーのドライバーからコイルやマグネットを省いて稼働する振動板だけを持ったユニットのことを指す。ドローンコーンとも呼ばれるが、スピーカーオーディオでは主に低音域の改善のためによく使われており、これ自体は新しいものではない。しかし、密閉型ヘッドホンの性能向上にパッシブラジエーターを採用したというのはいままでに例がない。ユニークな着目点だ。

先にも書いたように、密閉型ヘッドホンは振動板の動きが空気圧で阻害されてしまう問題がある。音量が小さい時は加圧の影響も無視できるが、音量が大きくなればなるほど影響は大きくなっていく。しかし、もしヘッドホン内部の密閉空間に十分な容積があれば、圧力は振動板の動作の抵抗になりにくくなる。

本機はハウジング外側の押すとへこむ黒い部分がパッシブラジエーターとなっており、外部に向いている高い空気抵抗値を持ったフィルターと、内側にある低い空気抵抗値をもったフィルターの組み合わせによる精巧なシステムにより、仮想的にエンクロージャー容量を拡大する。

ハウジング上部に高抵抗のフィルターを装備。音量が大きくなると作動する仕組みだ

音量の小さい時には低い抵抗値のフィルターのみがこの圧力変化に対応するが、音量が大きく、つまり圧力が高くなると高い抵抗値のフィルターから空気が放出され、加圧を発散。するとパッシブラジエーターがその発散を補うように駆動し、ドライバーの動きを最適化するのだ。

こうした二段構えの対策によって音量の大小、聞くジャンルを問わずにRADIANTEでは安定した特性を得ることができる。具体的には、よく密閉型にありがちなどろどろとした遅い低音ではなく、ハイスピードで整った低音が得られるいう。これは音量が大きくなるほど効果が高くなる。

低音量時は左図のように、ヘッドホン内部のフィルターのみが駆動。そこから音量を上げていくと、右図のように外部フィルターが加圧を発散し、それを補うようにパッシブラジエーターが駆動する

また後述するが、フィルターの開口部を調整することで低域のレスポンスを変えられるため、ユーザーが音のチューニングをすることも可能だ。

立体的な音世界だが、小宇宙に閉じ込められるような感覚

RADIANTEは、大きな木製の箱に収納される。高級ヘッドホンで木製ケースが用いられることは珍しくないが、本機の箱は、左右に開く扉の中央にSpirit Torinoのロゴが飾られたかなり凝ったデザインを採用している。この箱はシシリアの建築家にデザインしてもらったものだという。Spirit Torinoのマークが浮き彫りにされた木製の箱の左右の扉を開けると、ヘッドホンとケーブルが格納されている。

ケーブルは3.5mm/6.3mm/2.5mm/4.4mm/4pin XLRの中から選択が可能。本試聴機には6.3mmアダプターが付属した3.5mmのシングルエンドケーブルと、4pin XLRタイプのバランスケーブルが付属していた。

外形デザインは少しGRADOを思わせるが、実際に手に持ってみるとまったく別物であると感じる。金属製のシャーシはとても精密感の高い仕上げがなされており高級感が高い。むしろGRADOでいうならば、初期の幻のモデルである“HP1000”シリーズに例えたくなるような工芸品としての魅力を感じる。

密閉型においては正しく密閉するためにイヤーパッドも重要なポイントとなるが、RADIANTEには最近より知られてきたデコニ社との共同開発イヤーパッドが付属。耳にあたる部分にはアルカンターラが使われ、またパッドは頭の形に合わせやすいようやや斜めに作られていている。そのため装着感は良好で快適性は高い。

試聴はiFI AudioのDAC「micro iDSD BL」を、音響効果スイッチ等はすべてオフの状態でPCに接続して行なった。ちなみにRADIANTEのフィルター位置はデフォルト(FLAT)である。

試聴はiFI Audio「micro iDSD BL」と接続して行なった

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