【特別企画】“伝統”と“革新” 2つのウッド

オーディオテクニカ開発者に聞く「ATH-AWKT」「ATH-AWAS」秘話。歴史ある“木のヘッドホン”の背景に迫る

岩井 喬
2019年12月12日
20年以上の歴史を誇る、オーディオテクニカ伝統の「木のヘッドホン」。その新作は美しい縞黒檀をまとった「AWKT」と、アサダ桜をまとった「AWAS」の2種。果たして、その開発背景とは?

(左)ATH-AWAS ¥OPEN(予想実売価格150,000円前後)/(右)ATH-AWKT ¥OPEN(予想実売価格200,000円前後)

やっぱりウッドといえばオーディオテクニカ

今から23年前の1996年、現在まで続くオーディオテクニカの人気シリーズ、木のヘッドホンの初代である「ATH-W10VTG」が発売された。当時のレファレンスモデル、アートモニターシリーズのプレミアム機「ATH-A10」を源流としているが、天然木のハウジングを用いた製品は数が少なく、決して安くはない価格設定ではあったが、その品位のよさ、木の響きの豊かさが高く評価され、その後も節目ごとに木のヘッドホンは製品化されてきたのである。

オーディオテクニカが発売してきた木のヘッドホンの歴史

とりわけその中でも定番といえる存在が2005年の登場以来10年以上にわたってロングセラーを続けている、縞黒檀を用いた密閉型高級機の草分け「ATH-W5000」であろう。そして本年、ついにその継承たる存在が登場した。

右の精悍な印象のヘッドホンが、ハウジングに縞黒檀を採用した「AWKT」。左の上品な赤い色のヘッドホンが、アサダ桜を採用した「AWAS」。いずれも世界にひとつしかない杢目(もくめ)を持ち、天然木材ならではの質感を生かすための半光沢仕上げが施されている。日本の職人が幾度も塗装と乾燥を繰り返して、ひとつひとつ丁寧に仕上げている。温度や湿度などの気候条件によって、塗装をおこなえる日が限られているというほど、熟練が必要な加工技術だという。

木のヘッドホンの集大成として“アートモニター(A)”と“ウッド(W)”から名を得たAWシリーズは、ハウジングに縞黒檀を用いた「ATH-AWKT」、今回で9品目の採用となるアサダ桜を用いた「ATH-AWAS」から構成され、ATH-AWKTは“伝統”、ATH-AWASは“革新”というテーマが与えられている。今回このAWシリーズの開発リーダーである、技術本部の小澤博道氏と、設計担当の塩飽氏、そしてマーケティング部の伊藤氏から詳細を伺った。

取材にご対応くださった、株式会社オーディオテクニカ技術本部の小澤博道氏(中央)と、塩飽乃野海氏(右)、そしてマーケティング本部の伊藤潤氏(左)

「今回は集大成として、ロングセラーとなっているATH-W5000をご愛用いただいているユーザーの皆さんの思いを受け止めて、ベースは継承しながら細部をもう一度見直そうということと、歴代ウッドで採用してきたアサダ桜を取り入れて、原点に立ち返って新たに挑戦してみようという2つの視点が開発背景にありました」(小澤氏)。また伊藤氏によれば、中国市場では黒檀の人気がとても高く、そういった背景も検討材料になったのだという。

ATH-AWKTは硬くて比重が重く、制振効果が高いインドネシア産縞黒檀を採用。53mmドライバーはATH-W5000と同じく、ドイツ製パーメンジュール磁気回路や6NOFCボビン巻きボイスコイルを取り入れている。ドイツ製パーメンジュールは保磁力が高く、応答性もよい素材であり、測定器のメーターの軸受けや航空機でも取り入れられている素材だ。音の立ち上がり・立ち下がりの特性が揃う理想的な磁性材料である。またボイスコイルにボビン巻きを取り入れているのは、短くして軽くできること、駆動力にも貢献することが利点で、6NOFCなどの高純度素材によって、落ち着いた音質を得ることができるという。

「ATH-AWKTのドライバーは、伝統を受け継ぎATH-W5000と同じもの(注:ユニット構造・構成の基本設計について/2020年1月6日追記)を搭載しています。いくつか新しいドライバーも試しましたが、過去のものの完成度が高かった(笑)。ただ宿題として残していた部分、低域をもう少し伸ばしたいと思っていたので、そこに今なら手を入れられると考えました。そうした点でATH-AWKTはATH-W5000を継承しつつ、それをブラッシュアップした内容となっています」(小澤氏)。

もうひとつのWoodシリーズ、ATH-AWASは硬さと粘りを持つアサダ桜を採用。最終的なフィニッシュはATH-AWKTと同じ半光沢仕上げでハウジングサイズは共通。53mmドライバーはATH-AWKTと違い、今できることを全部盛り込むというテーマで設計されたといい、DLCコーティング振動板を採用。6N-OFCボビン巻きボイスコイルやハウジングの中にもうひとつの音響空間を設ける独自の「D.A.D.S.構造」はATH-AWKTと共通だが、D.A.D.S.のダンパーの厚みをミリ単位で調整して仕上げるなど、ATH-AWKTとは違う音の個性を目指したという。

「イヤーパッドはAWKTがシープスキン、AWASが合成皮革となりますが、装着性の高さ、密着度を求め、従来と同じ立体縫製を採用しています。この手法のよさは面積が広く、力が分散されることですね」(塩飽氏)。

さらに今回、2モデルともオーディオテクニカのハイエンドヘッドホンの代名詞でもあった「3Dウイングサポート」を見直して、「ATH-ADX5000」と同じスタイルのヘッドバンドを取り入れている。世界的な視野で製品設計するうえで、別方式に変更する時期が来たと判断したそうだ。

どちらのモデルも、ハウジングを支えるアームにマグネシウム合金を採用。フラグシップ「ATH-ADX5000」の設計ノウハウを生かして、従来の頭頂部を保持する「3Dウイングサポート」を使わずに、密閉性や装着性を高める構造を実現している。しなやかな肌触りのヘッドバンドを採用。また、イヤーパッドも立体縫製となっており、包み込まれるような快適な着け心地が味わえる。

そして着脱式ケーブル構造は、接触性と耐久性の両面で優れるオーディオ専用に自社開発したA2DCを全面的に採用している。加えてXLR4pinのバランスケーブルが同梱されていることもうれしいポイントだ。

ケーブルは着脱式。コネクターには、耐久性と音質面で優位な「A2DC」を採用している。

どちらのモデルも、XLR 4pinのバランスケーブルを同梱。ただし、線材はAWKTが6N-OFC、AWASがOFC。それぞれに最適なチューニングのケーブルが付属されている。

「色付けや脚色のないストレートな音が理想です。ATH-ADX5000を出したときにブレイクスルーがありまして、ATH-W5000の後継がつくれると自信を深めました。ATH-AWKTはATH-W5000ユーザーにぜひ聴いてほしいですね」。(小澤氏)

「Woodシリーズの2台は、見た目はもちろん、音の個性も違います。ハウジングは人の手で削られ、塗りも数回、天候を気にしながら細心の注意を払って製作されています。木の存在を目立たせつつシンプルかつシームレスな形状になるよう設計しました。自然に馴染んでいくその経年変化も楽しんでもらいたいです。愛着を持って聴いてもらえたら設計者冥利に尽きます」。(塩飽氏)


しっとりシルキーなAWKT、現代的でエッジィなAWAS

ATH-AWKTはしっとりとしたシルキータッチな質感で、艶があって丁寧な音像描写と、深くゆったりと響く豊かなホール感を味わえる、大人びたサウンドだ。ボーカルは艶やかで、かつなめらか。クールに浮かび上がる。バランス駆動ではダンピングのよさが際立ち、余韻の滲みがなく、階調豊かな表現になる中低域の粘りが音像の逞しさにもつながり、濃密かつスムーズな描写性も見事だ。穏やかな余韻を堪能できる重厚な音だ。

いっぽうATH-AWASは高域にかけクリアかつ輝き感を伴ったシャープなエッジ表現を得意とする、現代的なサウンドだ。低域はタイトで締まりがいい。ベースの伸びもよく表現できる。オーケストラの旋律はハリがあって爽やか。フォルテッシモの押し出し感も流麗かつ丁寧だ。ボーカルはナチュラルで音離れもいい。バランス駆動では重心が下がりクールなテイストが高まる。抑揚がなめらかで落ち着いた響き、そしてキレよく分離したリアルな音像を味わえる。

2つの新しい木のヘッドホンは、オーディオテクニカがこれまで積み上げてきたクラフツマンシップの極みと、巧みなコントロールで奏でられる音質のよさを高次元に融合させた、新たな地平を切り拓く存在だ。「伝統」と「革新」によって進む先に、どのような音の世界が広がっているのか。2つの個性を堪能しながら思いを馳せてみたい。




この記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.13」からの転載です。雑誌の詳細はこちら


(協力:株式会社オーディオテクニカ)

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