HOME > レビュー > 数倍の価格のモデルに匹敵、デノンが4年かけて作った新フラグシップ “SX1 LIMITED” レビュー

素材やパーツの吟味でさらなる高音質化

数倍の価格のモデルに匹敵、デノンが4年かけて作った新フラグシップ “SX1 LIMITED” レビュー

公開日 2019/10/25 07:33 石原 俊
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

オリジナルを凌駕する怒涛の情報量。表現力はまさに“VIVID&SPACIOUS”

試聴は音元出版の試聴室で行った。スピーカーはモニターオーディオの「PL200II」を用いた。両モデルともアナログ信号回路がバランス設計なので、接続にはバランスケーブルを使用した。

筆者は1年ほど前に同じ試聴室でデノンのプリメインアンプの5機種をイッキ聴きした経験をもつ(プレーヤーはアキュフェーズを使った)。同社のプリメイン機はどれも良心的な作りでコストパフォーマンスが高いのが印象的だった。わけてもトップモデルのPMA-SX1は別格で、直熱三極管を終段に据えた真空管アンプにも似た、高貴で花の香りがするようなサウンドと、ボリュームノブのシルキーな感触が記憶に残っている。

“SX1 LIMITED”はシルキーなボリュームノブのフィーリングこそ同じだが、音はずいぶん違っていた。今回の試聴ではプレーヤーとアンプが同一ブランドであることも手伝ってか、音の説得力が極めて強い。情報量はオリジナルよりも大幅に増加している。オーディオ的にもさることながら、音楽的な情報量が多い。主要メロディの裏側にあるリズムやハーモニーが耳のフォーカスを合わせなくても自動的に脳内に流れ込んでくる。怒涛のごとく押し寄せてくる音楽の意味やニュアンスを受け止めるのが誠に心地よい。

ダイヤルの質感などはそのままだが、音は大きく変化していた

オーディオ的にはワイドレンジで音場が広く、音像の質感にはクセのようなものが微塵もない。オリジナルでは花の香りのように感じられたサムシングは、色彩感に変貌しており、清潔な音場に極彩色の音像が展開する。誤解してほしくないのだが、これはカラーレーションではなく、和声の変化に対して本ペアが鋭敏に反応することを示唆する振る舞いだ。低音はよく出るが野放図ではなく、PL200IIのダブルウーファーをがっちりとグリップする。

ディスクトレーも重厚かつ滑らかに展開

付属リモコンは“SX1” と同等

いくつかのディスクを聴いたので、それぞれのインプレッションを記しておこう。大橋祐子トリオによる『TWO CORDS』のアメリオ・リマスターバージョンは楽器の出入り感が絶妙だ。ピアノがベースにソロを譲って伴奏に回るくだりでは、ベースに望遠レンズ的に焦点が合うのだが、裏に回ったピアノが広角レンズによるパンフォーカス的に表現される。ベースの音程は非常に聴き取りやすい。現代のジャズらしい手数の多いドラムスの解像度も上々だ。

大橋祐子トリオ『TWO CHORDS』

ニュー・フロンティア・クインテットによる『ザ・スナッパー』は山内氏が目指した“VIVID&SPACIOUS”という言葉がぴったりとあてはまる。明確なリズムセクションの伴奏に乗って、生気に満ちたトランペットとサックスの音像が静かな音場でキレイに分離しているのだ。しかも両者の音像の質感にはほのかな甘みと色彩感があって、耳を傾けるのが非常に心地良い。

松尾明ニュー・フロンティア・クインテット『ザ・スナッパー』

ボーカルの声の表現は極めてナチュラルだ。ここではElleのデビュー盤『SO TENDERLY』を聴いたのだが、産毛や衣擦れを思わせる彼女の滑らかな声質が清潔な音像の中にしっとりと浮かび上がった。音像は生命感が強く“VIVID”で、まるでElle本人がそこにいるかのよう。バックのガラティ・トリオの控えめな演奏の解像度も高い。

Elle『SO TENDERLY』

次ページ内蔵フォノイコによるアナログ再生、USB-DACも優秀

前へ 1 2 3 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE